第137話

 「信玄は何を考えて南信をとりにいったんだ?」


 ポツリと呟きながら顎に手を当て手紙を見て考える。史実では北信に米を執着して侵攻、それに越中などの海を目指していた筈だ。原因として考えられるのは俺が河東を抑えて史実よりも格安で甲斐方面に塩や米などの必要なものを横流ししている件かな…。


 だからこそ北信に固執せずに三河を抑えた今川と南信から確実に制圧して東美濃を見ているのか?元々信玄は上洛を目標にしていた筈だ。それを考えれば西を目指すのはおかしな話じゃ無い。


 なら、桶狭間が起きて美濃と尾張を信長が抑えれば楽に向かえる北に目を向けてくれるか?いや、それまでに美濃を狙われたらひとたまりもない。強制的に目を北に向けさせるには、やはり北信の影響力を上げるしか無いか。山内上杉をわざと追い詰めて上杉謙信を爆誕、北信に武具や米の支援をして中信に逆侵攻させるか。


 バレるとだいぶ不味い事になる。うまくやれるのか…?武田にはみつものや歩き巫女がいるからな。下手に動けばバレてしまう。


 「…小太郎。」


 「はっ」


 「何度もすまないな。少し聞きたいことがある。武田のみつものや歩き巫女にバレずに武具や米を北信の村上や小笠原に支援できるか?」


 山内上杉を逃すのはできればだったが下野を手に入れたら帰す刀で追い込みに行こう。


 「それは…我々が関与してるのがバレないという方法でなら、少し時間がかかりますが。」


 「ほう?どういう方法だ。」


 「最近になって領内に来るようになった常陸からの流れ商人を使うのです。彼らが集まる古河城あたりで我々の手のものを使って噂を流すのです。北信では戦のために武具と米を大量の金でかっている、傭兵達も集まっているそうだ。これだけで利に聡い商人達はきっと向かってくれることでしょう。


 それに加えて商人達に傭兵を護衛として雇わせて北信に送り込み兵として村上や小笠原に雇わせるのはいかがでしょうか?そうすればお望みの通りになるかと。」


 「いいな。だがそれほどまでの金が北信にはあるのか?」


 「風魔の手のものが現地に長年潜伏しており彼らは金貸しをしておりますので噂話を持っていくついでに城主達の耳に入れられるかと…。」


 「…わかった。小太郎にこの件は任せる、最悪武田の忍びにバレそうになれば、わかっているな?」


 「はっ、我々は氏政様のために生き、死にます。」


 「違う!バレそうになれば戦って相手を退けても問題はないということだ。お主達を失う方が我々に取っての損失が大きいのだ。そんな簡単に死ぬなどというな。」


 「はっ、申し訳ありません。しかし、我々はそれほどの覚悟を持ってお仕えしておりますのです。」


 「分かっている。では、頼むぞ。」


 「ははっ!」


 時はもう7月、三河侵攻が4月だったからそろそろ史実の9月 早乙女坂の戦いが起きるはずだ。那須が勝利し宇都宮内部の下剋上により宇都宮が崩壊する。その時に遺児が逃れる筈だからそれを風魔に保護させて大義名分を持って宇都宮を制圧、ついでに宇都宮に手を出した那須にも逆侵攻だ。


 早乙女坂の戦いは宇都宮2000と那須が300で勝った歴史的戦の一つだ。そこから宇都宮は分裂するからそれぞれの勢力がまとまって戦えるわけではないことを考えると康虎の調練中の軍3000と警ら隊1000に房総から1000もあればどうにでもなるな。叔父上ならば後詰めをすぐにしてくれる筈だから康虎達に先鋒を任せるか。それとは別に軍略も練らなければならないな。


 「誰か、幸隆と勘助 義堯 光秀をここに呼んでくれ!」


 「はっ!すぐに呼んで参ります!」


 この少し訛りながらも元気な声でハキハキと動いているのは、見覚えと聞き覚えのある奴だな。と手元の書類から目を離してチラッと見てみると意外なやつがそこにはいた。

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