第136話


 武田信玄


 「村上が思いの外めんどくさいのう。」


 今は躑躅ヶ崎館の自室でこれからどう動いていくかを考えていた。武田はよくある大名の形ではなく信玄の元に各有力国人集達が集合体として集まった連合軍のような形を取っている。そこから中央集権的な戦国大名に進化するため信玄は他領に侵攻し力を示し、内政や政策によって領主としての手腕を見せつけて彼らに利を示しつづけながら武田の力を強化することに固執していた。そのため信玄は中信地方を平定した後豊かな平野が多くある北信に目をつけていた。


 「村上がめんどくさいが信濃を手に入れるためには小笠原を追い出す必要がある。なればこそ北信に手を伸ばすべきかのう。」


 信玄がやはり北信しかないと地図を見ながら考えを纏めて作戦を立て始めようとした時背後に気配を感じた。


 「誰だ!」


 「はっ、三つ者の秋山でございます。至急お耳に入れたいことがございまして。」


 武田信玄が使っている忍びの棟梁が闇夜に偲んでやってきていた。


 「そなたか、どうした。」


 信玄は考えを途中で邪魔されたことを少し不機嫌に思いながらも情報を早く得られることは何よりも大切だと考えていたためすぐに切り替える。


 「はっ、今川が三国同盟を利用して駿河のほぼ全兵力を持って三河に侵攻していた件ですが成功したようです。そこで松平広忠や多くの武将を討ち取り今川義元は三河の岡崎城を落とし各国人集達を統制しているようです。」


 「わかった。他には?」


 「織田はこの敗戦を受けても兵を損失しているわけでもなくただ松平軍だけが負けた形ですので睨み合いを続けております。」


 「よし、下がれ。」


 秋山をさがらせもう一度地図を見直すと別のものが見えてきた。そう、北の反対南である。南信は三河と美濃に囲まれた場所だ。北信ほどでは無いが広い平野を持っており三河と連携すれば遠山がいる東美濃の平野も見えてくる。そうすれば米の自給率をあげ飢えに困ることもない。


 それに戦略的な話をするならば上野はこのままだと北条が制圧する。そうなれば北信を取っても進む道は越中や加賀 越後になる。本拠地である甲斐や中信から戦線が伸びるのは面白くは無い。それに北信を望むなら北条が上野を完全に手に入れてから援軍をもらって確実に仕留めるのが楽か。それならば今三河を制圧している今川の手を借りて南信を手に入れるべきだな。


 信玄は頭の中で恐るべき速さで考えを組み立てるとさっさと書状を2通認めた。1つは今川に南信の小笠原と木曽を攻めるため岡崎に兵を集めて南信を伺う動きをして欲しい事。もう1つは北条への米の支援を求めるための手紙だ。


 信玄は今まで北条からの米の支援は戦ようの物しか要請していなかった。もしくは民達に与える場合でも信玄が北条から米を買い各配下へ与えて配るようにしていた。そうする事で自国領の民達に信玄への求心力を高めさせていた。


 「秋山、これを届けるのだ。急げよ。」


 「ははっ!」


〜〜〜


 この動きを手紙が届く前から氏政は風魔から報告を受け取りこの動きを得ていた。


 「マジかあ、武田そっちに目を向けちゃったのか。俺が支援したせいで史実よりも米に対する執着が低くなっているのか?」


 武田には北に進んでもらい長尾景虎が越後の統一に手間取っている間に北信を制圧して越中を狙う動きをしてもらう事で少しでも武田には長く軍神と争って貰いたいと考えていたのがいきなり計画破綻した。


 「さて、どうやって軌道修正するかな。」


 今回の支援に手を貸さないという選択肢はない。今川との関係も完全に良好と言えない今、武田との関係も悪くすることはできないのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る