第134話
「はあ?俺に対して今川義元から文が来ただと?」
大人しく河越で政務に励んでいると光秀から重要な案件だと遮られお茶をして休憩を挟むついでに報告を聞いていたところ、余りにも驚く事があった。
「はっ、内容は確認されておりませぬが氏康様ではなく殿に対して直接手紙が来たようです。」
「問題はないだろうが少しでも疑われるような事は避けたいのだがな…。」
「まあ、問題はござらぬでしょう。殿は北条嫡男でございまするし、なによりも今までの献身から疑われるような事はありませぬ。寧ろ疑う人の方を皆が疑うかと…。」
この時代、子が親を、親が子を殺すような戦国時代である。家庭内不和などと言う可愛い言い方では済まない程の問題に発展する事も有るのだ。なので氏政は親を通さず、つまり北条を通さずに自分に手紙が来たことに対して不満を持っているのだ。
「まあ、いい。さっさと中身を読んで小田原に手紙と共に報告書を送らねばならないな。」
少し憂鬱そうになりながらもさっさと嫌なことは終わらせてしまおうと光秀に封を切るように伝え中身を渡してもらう。
なんだこれは。めちゃくちゃ字が綺麗なんだが?というかめっちゃ文章が丁寧で細かい。長ったらしいので要約すると今回三河を取れました、これは三国同盟のお陰だ。それに北条が経済的に支援をくれたのにも感謝している。ついては、三河の地盤を固めるために官位を要請するつもりなのだが口添えしてくんない?だ。
あの今川義元だぞ。配下、というより血縁から朝廷にツテがあるだろうに俺に頼みにくるのか…。どういう心算だ?何を考えている?
まずは、単純に三河守を確実に欲しいから朝廷と密接な関係を築けているこちらに手伝ってほしい。
次に、俺の考えというか今川に対する態度を測ろうとしているのか?これを断れば今川に対して何か存念があると言うことになる。なければある程度信用されているとも言える。
他には…そうか、織田と今川どちらを取るのかを選べという事か。ここで今川の三河守就任を手伝えば織田が負けたことを祝っている…とまではいかなくても織田よりも今川を重視していると示すことになる。
そして、これは断りづらい。なぜなら我々は同盟を結んでいるからだ。ここで少しでも隔意があると思われれば北条も武田も今川も背後を気にして盟約の意味が揺らぐ。武田に関しては元から蚊ほども気にしてはいないかもしれないが。
「光秀はどう思う?」
そう言いながら光秀に手紙を渡して自分の考えを述べていく。
「そうですね。私も同じようなことを考えました。その上で私は断るべきだと思います。勿論普通の考えならば同盟を維持するために織田を捨てるのが正しいとは思います。しかし、殿は内心織田を重視しておられるのでしょう?それは側にいて分かりますし、実際に中立を保つならば何もしないというのが正しい行動でしょう。」
「本当にそう思っているのか?主人の考えを支えるだけでなく諫言するのも家臣の役目だと思うが…?」
「そう仰られるからこそ私は主人の考えが正しいと信じられるのです。本当に驕り高ぶっている者はその場で調子に乗り何も考えずに家臣の言いなりにでもなるでしょう。」
「はあ…まあそうなんだがな。俺が織田を重視する理由を話そう。まず第一に織田信秀殿、織田信長殿、どちらも才覚に溢れる者達だからだ。次に立地だ、あそこには熱田神宮と湊町がある。しかも銭を作っている上に両者共にその利点と強みを理解している。戦国大名でありながら経済の大切さを理解できるのだ。
後は…八幡様の思し召しだ。」
「ぷっ、あっはっはっ。確かに、殿であればその判断方法も納得でございまする。誰にでもできることではございませぬな。」
光秀が思いの外ツボったのかくすくすと口元を隠しながら笑っている。俺はそれを白い目で見ながら父への手紙を書いて一緒に小田原へと送った。後をどうするかは父次第だ。
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