第128話


 「小太郎、いるか?」


 年の瀬を終えて新年を迎えた後、氏政は夜中に小太郎を呼び出しておいた。


 「はっ、こちらに。」


 小太郎の声は聞こえるが姿は見えない。それだけ小太郎の技術が高いことがわかる。


 「お前に任せていた東北の件についてだが、特に蘆名について聞きたい。なにか分かっていることはあるか?」


 蘆名が年始に挨拶の使者を送ってきていた。簗田氏を商人司に起用し、見聞を広めるという形で相模まで派遣したようだ。


 「蘆名の現当主 蘆名盛氏は当初稙宗方についておりましたが同じく稙宗方の田村隆顕と中通りにおいて衝突したため晴宗方に身を寄せたそうです。このため晴宗方の優位が決定的なものとなり、天文の乱は晴宗方の勝利に終わったとの事、本人は会津の統一と経済を重視しているため物の流れを抑えるために中通りを支配したいようです。その為には田村氏を破らねばならないですがここで佐竹に横入りされています。」


 「つまりは佐竹田村に対抗する為に北条の力を借りる…もとい利用したいという事かな。」


 正直蘆名に手を貸してもいいとは思っている。蘆名は最後の最後まで伊達や上杉 上野にまで手を出し 時には今相対している佐竹とすら手を結び勢力を拡大しようとして東北の諸勢力を減衰させてくれるのだ。武田信玄が史実で優れた将と評したように本人の能力も高い。ここで我々が支援すれば確固たる地位を築く事ができるだろう。


 しかし、問題があるとすれば土地がつながっていない為彼らに経済的摩擦を起こしづらい点、彼らと協力関係を結ぶなら北条直轄領という形を取れない点だな。後者の点に関しては織田も同じことを言えると思うがアレは別格だろうし西を任せる以上必要経費だろう。


 さて、どうするかな。俺が黙って悩んでいる様子を見て小太郎は少し黙ってまった後声をかけてきた。


 「殿はこの前那須と宇都宮はこのままでは終わらない、直轄領に組み込む手段があると申しておりました。それを前提にするならば中通りにも手を出せるのではないでしょうか?」


 確かにそれそうだな。那須までを今年中には落とすつもりだ。彼らは勝手に不満を持って小競り合いを起こしてくれるからそこに介入するつもりだ。それを、考慮すれば田村を蘆名に落とさせて伊達と対面させる。将来的には上杉への牽制にもなるか。婚姻同盟を結ぶほどではないから経済同盟といったところかな?父上に提案してみるとするか。


 「ありがとう、考えが纏まった。北条としては蘆名と同盟していく方向に持っていくつもりだ。次は田村の勢力と蘆名の勢力について注視しつつも那須と宇都宮の動きも見逃さないようにしておいてくれ。」


 「はっ。」


 小太郎はいつも通りに音もなくこの場を出ていった。次の日の朝父に目通りを願い昨晩考えた話をした。


 「お前がそうすべきだというならばそうするといい。那須までを抑えれば後は上野に残った上杉憲政と常陸佐竹のみになる。そうなれば中通りを抑えて他の勢力の盾となってくれるのは悪い事ではない。」


 「はっ、では私が主導で下野に関しては動かせて頂いてもよろしいでしょうか?」


 「勿論だ。だが連絡は忘れるなよ。」


 父との面会の後は小田原にいる北条の各官と面会をしたり挨拶をしたりして日が落ちる前には河越城に向かって出発した。少し話は戻るが三河方面では史実と同じような動きが起きている。竹千代護送中に襲われ織田信秀の手に人質が渡ってしまったのだ。そして、織田はこれを理由に松平広忠へと恭順を求めた。史実ではこれに強硬に反対した松平広忠だが、今川の衰退を感じ取ったせいか揺れ動き旗色を明らかにせずのらりくらりとかわしているようだ。


 また、その動きを見た信秀は美濃の斎藤道三の娘濃姫を嫡男信長に娶らせ美濃と和睦し、北への警戒を緩め、揺れ動いている三河を手に入れるために三河への圧力をかけていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る