第127話


 「ふう、確かにこの盟約を結んでも不利な点はないし、お互いに利点しかないが我らも簡単に承諾してしまっては体裁が保てないのは分かっていただけますかな?」


 「ええ、それは勿論にございます。しかし、我らとしては出せるものがございませぬが…」


 ここで幻庵は氏政が押し付けられそうなら押し付けてしまえと言っていた事を伝えてみた。


 「では、織田と北条は現在交易をしています。もし、そちらと揉めることがあっても我らはどちらにも手出しはしませぬしどちらとも交易を致しまする。そのことを認めていただきたい。」


 「ええ、それは勿論にございます。援軍を求めたりはしませぬので大丈夫でございます。」


 雪斎は思った以上に厳しい条件を突きつけられずにホッとしていた。正直に言うと今川は既に武田に対して大分譲歩しており北条にまでこれまで以上に請求されたらにっちもさっちも行かない、属国のような形になるところだったのだ。


 「更に、そちら側が発見した臭水というものをいくらか供給してもらいたい。」


 これは氏政がどうしても手に入れたかったものの一つだ。ガラス瓶を作ることでこれを利用して火炎瓶のようなものを作ろうと考えているのだ。


 「はっ、大量に…といかないのは分かってもらえますかな?」


 「そこらへんの匙加減はおいおいということでどうじゃろうか。」


 「わかり申した…」


 そろそろこれくらいかな?と幻庵が考えていると雪斎もそのように考えていたのか話をまとめようとしてきた。


 「この甲相駿三国同盟をより強固なものにするために3国同士で婚姻同盟を結びませぬか?今川の娘を武田に、武田の娘を北条に、北条の娘を今川に。それぞれ次代の嫡男の許嫁とするのです。」


 「なるほど、武田と北条は未だに婚姻同盟を結んだことはない。それゆえにか…。確かに悪くはないことかと思いまするがそれがしの一存では決められることではございませぬ。ですのでこちらの結論が決まり次第使者を寄越すと言う形でもよろしいでしょうか?」


 雪斎と幻庵は交渉事が終わった事もあり歓談に入っていった。二人とも隣国ということもあり何度か顔を合わせたこともあるので話は弾み次の日の朝雪斎は海路を使って駿府に帰っていった。


〜〜〜


小田原城


 「氏政よ、そなたは武田の姫と婚約を結ぶことになった。輿入れは時期を見てからということになる。」


 「はっ!謹んでお受け致します。」


 評定に呼び出された氏政は氏康から大々的に婚約を発表された。また、甲相駿三国同盟をこれによって結ぶことも同時に伝えられ周りからはおめでとうという言葉が溢れた。実際後ろの憂いを絶って戦えるのは楽だし相模の部隊をほぼ丸々関東に回せるのだ。その後は宴会をして解散になった。


 48年、この年は天文の乱が終結した年でもあった。風魔の報告によると東北では6年間にも及んだこの乱により、稙宗が当主となって以来拡大の一途をたどってきた伊達氏の勢力は一気に衰弱、まず、伊達氏に服属していた奥羽諸大名のうち蘆名氏・相馬氏・最上氏などが乱に乗じて独立して勢力を拡張、特に蘆名氏は伊達氏と肩を並べるほどの有力大名へと成長した。


 これによって伊達家に服属することなくそれぞれの力で外交や武力による衝突が勃発する事が予想されている。また大崎・葛西両家においても、養子として送り込まれていた稙宗の子(義宣・晴清)が討たれ、乗っ取りが失敗に終わった事で稙宗が築いてきた東北における伊達家の盤石になったであろう基盤はボロボロに崩壊した。

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