第126話

 さて、先ほど述べた通り武田は広くなったお手手を伸ばして周りに仲間と呼べるのは少し仲良くしている今川だけ。そして今川は北条に大敗北を喫して織田は最近北条との交易で力をつけてきている。そんな中、今川も武田しか頼れる相手がいない。史実でもそうだったが背後を気にせず方向を絞れるのは甲相駿三国同盟のみだ。雪斎はそれを分かっているのだろう。どんな風に交渉してくるのか楽しみだ。


 正直幻庵と雪斎、それに信繁あたりで交渉を重ねて同盟を結ぶのであろうが俺も見てみたいなー。歴史の大きなイベントを実際に見てみたい。というか、本当にこの同盟どうやって結ばせよう…北条有利すぎんだよなあ…。それにそもそも結ぶ必要あんのかな…?あるよなあ。実際、東北に手を出し始めるなら西や北にかまけている暇はない。


 思っている以上に東北地域は魑魅魍魎の世界が広がっている。まだ関東に近い方はマシだが伊達や最上あたりになってくると血縁関係が絡まってガッチガチの地獄絵図になっているし南部なども存在する。めんどくさい…。そうなるとこの同盟は意味のあるものとなっていくだろう。父は関八州を収めて満足するだろうしそれ以上を求めることはまずないだろう。それが北条の悲願だ。しかし、関八州をまとめた後は秩序を維持していくのに周辺国との関係を良好なものにしたい筈だから同盟は結ぶか。うん!大丈夫な気がしてきた。


 とりあえずこの考えは仕舞っておいて、父への手紙では拠点を移動させる事と関八州以外の周りの国とは仲良くしておくべきだとしか、とりあえずは書いていないがまあいいだろう。さて、今日の仕事を終わらせるとしよう。


〜〜〜

太原雪斎 北条幻庵 


 「これは、どうもご丁寧にありがとうございます。本日は重要なお話があり伺わせて頂いた次第です。」


 雪斎は武田との交渉を終えて最後の仕上げとして北条領の小田原へと船で向かって訪れていた。北条から出ている定期便のガレオン船を使って小田原にやってきた雪斎はこれは勝てない訳だと納得していた。技術力は隔絶したものがあり今川が逆立ちしても勝てない上に、河東や小田原の発展を見ていればわかる北条の豊かさ やはり、自分の考えは間違っていないと気合を入れ直していた。


 「遠いところご足労をお疲れ様ですな。私もあなたも既に老人だ、少しの移動も体にこたえますな。」


 「はっはっはっ、そうですな。我らは老い先短いのです、失礼ながら本題を単刀直入に伝えさせていただきます。我ら今川と武田は婚姻同盟を組もうと考えております、その中に北条殿も加わって頂きたいのです。」


 「ほう、それはおめでたい事ですな。しかし、我らが加わる意味はあるのでしょうか?既に昔血縁関係を持ったとは言え、今では上下関係は逆転しております。利点が我々にはございませぬが?」


 「ええ、御座います。今川としては北条殿とはこれ以上の関係悪化を望んでいません。河東についても納得済みです。その上で今川は北条が関八州をそう遠くないうちに手中に収め民を重んじ最高の統治をすると信じております。なので、その後を考えております。善政を敷く北条殿ならばこれ以上の侵攻は望まずに平穏を望むものだと。なのでそれを少しでもはやめようと言うのです。」


 雪斎は焦っている様子をおくびにも出さずに理路整然と説明する。実際言っていることは間違っていないし利点もある。それに北条としては今川と武田の領土に手を出すつもりはないから結んでも問題はない。しかし相手の言うことをはいそうですか、となる事もないのだ。幻庵としてはこれ以上こちらに有利な条件をつければ外交上難しい立場になりむしろ角が立つ。どうやって天秤を取ろうか悩みどころであった。

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