第125話

 氏政達が伊豆で育てた文官達が巣から飛び立ち武蔵 上野 下野 常陸の新領土で羽を羽ばたかせていた…といえば聞こえがいいが新体制に理解を持った文官を各地に散らばらせて責任者として農業 漁業に関しての指導や各地の書類 報告書作成などを行なっていた。勿論それ相応の出世を果たしたとはいえやる気にも満ちておりどんどんと改革は進んでいた。


 この改革に対して領民たちの反応は悪くないものであり、希望者には既に整えられた土地がある房総の方へと移住をさせていた。逆に北条領からより大きく広い土地で頑張りたいものや兵士にはなりたくないものの実家を継ぐこともできない子供たちが進出もしてきていた。ノウハウを持った領民をすぐに入れてスムーズに発展させることはこちらとしてもありがたいのでどうせなら新政策として新領土と元々の北条領とで人の移動を募ることにした。


 新領土の人々には安全と安心を、北条領の人には新天地として大きく広い土地でチャレンジできる環境とサポートをって感じにだ。これはうまくいっているようで新地の発展は目覚ましいものでその効果は周りの敵国の民にも大きな影響を与えた。簡単に言えば北条領になった途端により豊かになった。それに比べて自分達は…ということだ。元々狙っていた効果が早いこと出てきたようでこちらに逃散してくる民が最近は増えてきた。


 不戦の契約を結んでいるおかげでこちらに対して何もできないし遺憾の意を表明してこようがこちらは意に介す必要もない。また、商人が北条領に接していない敵国の奥地にも北条の噂や実情を口伝えで教えてくれている。これも風魔の仕込みをせずとも勝手に広まってくれた。こちら側が行う負担が減ってありがたい限りだ。商人に関してもこちらに本拠を構える商人が増えてきた。特に城を再建しているので同様に城下町も整備されているためいい場所に店を構えられる事もある。


 もうすぐ内政に力を入れて1年になる。房総の方も大分整備が終わり後は時間のかかる大きなことはない為、細々と困ったことがあれば随時解決するようにした。そろそろ河越城に移るための準備を始めており上野 下野 常陸でもある程度必須の内政の下地が終わった頃だ。あちらは先ほども考えていた通り色々仕掛けを行うために俺が直に向かわなければならない。


 「誰だ!」


 今は夜中の布団の中、その中で宿直にも気づかれずにここにくるのは忍びしかいない。風魔の可能性が高いが、油断はせずに横にある刀を持ち警戒を強める。


 「はっ、小太郎にございまする。」


 「そうか、何か動きがあったのか?」


 「はい、今川の太原雪斎が武田と何度も話し合いを重ねているそうでしたが、小田原城に向かっているそうです。」


 「そうか、ついに来るのか…」


 天文16年(1547年)志賀城の笠原清繁を攻め、同年の小田井原の戦いで武田軍は笠原軍に大勝した。その勢いのまま、天文17年(1548年)晴信は中信地方に侵攻する。これに対して仁科盛能は武田方に内通し、小笠原長時は村上義清を頼って逃げた。こうして中信地方は武田の支配下に落ちた。これによって晴信は大きく勢力を拡大した。北条の食料や支援にはまだまだ頼っている状況だが北信以外を手に収め武田は頭ひとつふたつ飛び抜けた勢力となった。


 しかし、新しく手に入れた土地の慰撫や配下たちの統制に苦労しているようだ。その上、北信の海野が何度も林城にちょっかいをかけてくるため迎撃に出ているようだが小笠原長時と村上義清の連携でボロボロにされているらしく下手に動けないようだ。


 俺としてはこれ以上勢力を拡大されても困るので上野を通して村上にも食料を流させている。そして、武田には俺が関与していないところで商人が利を求めて食料を流させているようだすまないと連絡をしている。二枚舌万歳だ。

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