第122話

 〜佐竹義昭〜


 「亡き古河公方殿を偲んで…」


 佐竹義昭は氏政との会談を終えてから自領に戻り夜月を見ながら酒を飲んでいた。彼にとって古河公方 足利晴氏は佐竹がより強くなるための道具でしかなかったが故人を偲ぶ気持ちは持ち合わせていた。また、踏み台にするために多くの人の命を無駄に散らせたとも感じていた事から贖罪の気持ちがほんの少しでもあったかもしれない。


 「今回の戦では北条がとんでもないほどの強さを誇っていて、我々では到底太刀打ちができないことを知れただけだった。」


 得られたのはただこれだけだったのだ。副産物として周りの勢力の勢いが弱まったが佐竹自身も大きく被害を受けていた。その中でもマシな勢力は那須と佐竹本家程だ。この機会を逃さないために佐竹本家としては周辺の国人集の本格的な取り込みに手をつけていた。


 「これからを見据える必要がある…のかもしれないな。北条と戦うのか、それとも恭順するのか…」


 戦国で成り上がった義昭は心の中に残る北条と戦うべきで無いと言う理性と主観で複雑な気持ちになった胸のモヤモヤを酒で更に流し込んでいた。


〜〜〜


 北条氏政


 「あ〜、めんどくさい。光秀、義堯代わってくれよ…!」


 「ダメです、我々では決裁する権限を持ちませぬし氏政様が決めなければなりませぬので。」


 「私は軍の再編成、新募集に忙しいのでお手伝いできませぬな。」


 氏政は本佐倉城に入って房総の内政に勤しんでいた。光秀と義堯 それに義弘と勘助なども一緒にいるが氏政がやらなければいけないことばかりで書類作業に忙殺されていた。


 「なれば義弘はどうだ、少しでも書類作業を手伝わさせた方が将来のためになるのでは無いか?内政もできるようになれば文官 武官のまとめ役として地方担当させられるぞ?義堯もな!」


 これは将来を見据えての発言だった。現在氏康武蔵 上野 氏政房総 常陸体制になっているが、綱成 幻庵でそれぞれ武官 文官を担当させて伊豆 相模を任せている。一人で両方の官僚を纏められる人材が不足しているのだ。決裁の権限が集中してしまうのも仕方がないことだった。


 「勘助殿の元で義弘殿は学びながら軍学校にも通っているのですぞ?これ以上仕事を増やしてどうするのですか。」


 「はい…」


 ぐうの音も出ないほどの正論で黙らせられた。そう言いながらも手を止めることは全く無いのは流石としか言えない所だが不満タラタラの顔で氏政は内政をしていた。


 「さて、冗談を言うのはここまでにしておいて房総の事についてだが思った以上に整備が進んでいるようだな。」


 「はっ、現在推し進めている本佐倉城から江戸城小弓城 小弓城と江戸城への街道整備は順調に進んでおり年内には整備が終わるかと、黒鍬衆が中心となって労働者達に単純作業を任せることで効率を上げています。これは現場をまとめている千葉親子のお陰ですな。」


 「それに、我々が来る前から房総の街道整備は進められていたので労働者達の経験も積まれているお陰ですな。」


 「そうか、彼らには街道整備の専門集団として雇い入れてもいいかも知れないな。給金も上げねば…、光秀、後にやることに書き込んでおいてくれ。」


 こうやって状況を確認、纏めながらやらなければいけない事を紙にまとめていく。このようなことばかりを最近おこなっていて気が滅入りそうになるな。


 「街道整備はそれでいいとして農地の管理や港に関してはどうなっている?」


 「農地に関しては検地がすでに終了しており戸籍に纏めた上で農作業技術を房総の民に受け入れさせ終わったようです。そして現在は新たに手に入れた土地や戦闘で捕虜にした農民を移住させ新たな土地を開墾させて農地を増やしています。」


 そういえば山内上杉が捕虜について行く奴がいるかどうか聞いた時にだれもついていきたいと言わなかったのは本当に傑作だったな。その場で誰がしたか分からないが失笑が起こり、上杉憲政は顔を真っ赤にしながら帰っていったな。

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