第121話

 〜長尾景虎〜


 後に軍神 上杉謙信として名を轟かせる青年長尾景虎は氏政が安房を平定した年と同年に初陣を果たして越後に戦上手として名前が知れ渡り始めた。そして次の年今川侵攻が始まった年には上杉老臣である黒田秀忠が謀反を起こしたのを総大将として鎮圧したが、秀忠の策略により兄の晴景と景虎の関係は険悪になり現在に至っている。


 「景虎様、北条が昨年から今川武田に侵攻され、反対側で山内上杉 扇谷上杉と関東の諸将が挟撃をしかけ、遅れて古河公方率いる佐竹勢力が包囲網を組まれた北条ですが全てを乗り切り逆に勢力を拡大したようです。」


 景虎が上杉謙信になる前から付き従えていた軒猿という忍び集団を使い地元の越後国の情報だけでなく東北 関東 甲信に手を伸ばし情報を集めていた。


 「ほう、詳しい内容はわかっているか?」


 「はっ、今川に関しては大した事がわかりませんだが八幡の化身 北条氏政が自らの手勢を使い今川を逆包囲し屈服させたとの事です。わかっている範囲ですと港の使用権や免税など領土以外にも大きな条件を突きつけたようです。


 また、両方上杉を打ち破ったのは北条氏康と綱成の勢力であり、古河公方を抑えたのは北条氏政との事です。実質的に支配した土地の支配権を求めたのみに留まるそうです。」


 「それは凄いな、一度はやり合ってみたい…滾る、滾るぞ!」


 その目に宿すのはただただ単純に戦を楽しみたいと言う戦闘狂の考えただ一つだった。軒猿はいつもの事だとは思いながらもその恐ろしさに身の毛もよだつ気持ちだった。


 「北条とやり合える余地があるかをしっかりと調べておいてくれ、それと甲斐の武田についても詳しく調べておいてくれ、もしやり合うなら北信になるだろうからな地域調査も頼むぞ。」


 軒猿は越後のことだけでなく越後を纏めた後のことを考え笑みを浮かべる長尾景虎に対して何も言わずにその場を離れた。


〜〜〜


 〜那須高資〜


 那須高資は今回の北条包囲網の結果をそこそこ良いものだと受け止めていた。というのも佐竹や小田と繋がっていた父と反目し合っていた高資は結城や岩城等と手を組んでいたのだが、父が頼りにする佐竹と小田どちらもが勢力を衰えさせたからだ。それは高資の結城も同じ事が言えるのだが今回の戦の被害の責任は父に向かっている。


 高資はこれを機会に野心の強い配下をもう一度まとめ直そうとしていた。父から家督を譲られた後に配下の取りまとめを失敗したが今回の評定において那須家としての勢力拡張が見込める事、自分はその機会を逃さない事、配下達に利益を分配するからついてきてほしい事をそれぞれ伝えてなんとか一つにまとめた。


 その評定によって決まったことは隣国の宇都宮は北条との戦で大打撃を食らっていることから彼らを攻めること、宇都宮を領土に入れた後は北条を目指すのではなく岩城と協力して白川などに手を入れ、東北への主要な街道を抑え利益を上げること。それに目をつけていた。


 くしくも史実と同じように宇都宮を領土に加える事を目標とした那須だが彼らの内部はズタボロであり漬け込む余地など余りある上に氏政がその隙を見逃すはずもないのだが彼らが知る余地は全くなかった。


〜〜〜


 〜宇都宮尚綱〜


 現宇都宮当主 20代目宇都宮尚綱は困っていた。専横はなはだしかった壬生を討ち取り勢力拡大に勤しんでいる間にきた、より旨味のある北条包囲網に参加したはいいものの、想像とは違い大敗を喫してしまった事により家中の統制は少しは下がってしまい、包囲網を展開する前程の勢いは無くなってしまった。


 そして頼みにしていた結城や古河公方なども居なくなり実質縁によって組んでいた同盟先がなくなってしまった事で孤立していたのだ。しかし、そのような事で諦める程尚綱は野心が小さくなかった。それならば今回勝利を収めた北条と繋がり勢力を拡大すれば良いとさえ考えていたのだ。その考え通り尚綱は北条氏康に使者を送っていた。

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