第120話


 氏政が史実河越夜戦を乗り越え房総の統治に入った頃周囲の国ではそれぞれの思惑が動き始めていた。それはまるで氏政の休息を許さないように歴史が邪魔をしているかのようであった。


 〜今川義元〜


 「師よ、我は間違っていたのだろうか。河東を失い、我が領土や海は北条の好きなようにされ更には三河の松平が恭順の意を取り下げかけているという。」


 義元は珍しくも弱気になり寺で師である雪斎と話をしていた。大名家の当主となり新進気鋭の働きを見せていたが河東での失敗を機にその名声は陰りを見せていた。


 北条周辺国は氏政の存在を身近に実感できる為そこまで今川の評価を落とす事はなく、むしろ北条氏政が化け物だ。という評価になっている。しかし、美濃や飛騨の方では今川はまだ幼子にしてやられる若造だと侮られていたこともまた事実であった。


 史実で松平広忠は今川の強大さ、武田と今川の交友関係を考慮して今川が西を目指すと考えて恭順の意を示していた。たが、この歴史においては武田との関係は史実ほど強固ではない。というのも武田が今川の港に依存していないからだ。また、北条が河東において勝利し松平の西に存在する織田は弾正忠家が北条と交友関係を持っている。つまり、今川よりも織田、ひいては北条と仲良くしたほうがいいのではないかと考えていたのだ。


 「何を弱気な事を仰るのですか、河東を失ったとは言え我々は駿河を抑えており国力は松平や織田と戦えまする。それに加え織田も一枚岩ではございませぬ。まだまだこれからですぞ。逆に考えてみてくだされ、あれ程強力な北条とは戦う必要はもう無いのです。西にだけ目を向けましょうぞ。」


 「西…か。松平はまだ完全に今川との縁を切ろうとしているわけでは無い。ならばここは我らの力を見せて三河を完全に今川の支配下に置くべきだな。」


 師の言葉や表情から義元は弱気な様子を見せられないと気合を入れ直し未来を見据え始める。


 「しかし、北条が本当に背後を攻めないのだろうか?実際由比寺尾までの領土しか要求せず引きこもっているように見えるが、我らの喉元まで迫ってきているのもまた事実だぞ。」


 「はっ、私が東と武田に関しては憂いを必ずや絶ってきまする、なので何卒殿には東を抑え京を抑えるという目標に目をしっかりと向けていただきたく存じます。」


 「ふっ、なれば任せるとしようぞ。我は三河を抑え尾張、近江を見るとしよう。」


 東海道の巨星、今川義元が決意を新たに将来を見つめていた。その一方軍師雪斎は甲相駿三国同盟をこの時初めて思いつき、実現のために奔走する事になる。また、雪斎は氏政の政策を真似し始め今川に変革をもたらし始めるのだがこの結果がどのように歴史的大事件に繋がるのかはまだ分からない。


〜〜〜


〜武田信玄〜


 信玄は今川北条の動きを見てこれからの考えを纏めていた。北条のお陰で今川に依存せずとも気前良く米を手に入れることができ、他の信濃勢力に米を渡さないことも可能となっていた。それによって甲斐 信濃でも一大勢力を築いていた。

 伊那と諏訪、甲斐をおさえた信玄の目は広大な平野がある北に目を向けていた。そこをおさえられれば北条の米への依存度を減らせる上にさらに大きな勢力を保持できるからだ。

 北にいるのは信濃守護小笠原と村上義清である。史実では北信濃に手を出した事で結局は泥沼の戦場に引き摺り込まれ信濃飛騨から出れずに結局織田信長に打ち破られた武田信玄がどのような動きをするのか。その最初の一手は史実と同様の笠原攻めであった。

 笠原は関東管領である山内上杉憲政に援助を受けながらも負けてしまっていたがどのようになるかはまた今度。

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