第119話

 「今、帰りました。」


 氏政は会談を終えて父が詰めている江戸城に立ち寄った。本城である小田原城では迅速な行動ができないとのことで関東の扇の要となる江戸城で全体の指揮を取っているのだ。それができるのもこれまでしっかりと街道整備を行っていたおかげである。


 「うむ、会談はどうであった。報告は風魔から聞いたがお前の直の感想も聞きたい。」


 「はっ、関東諸将はとりあえず旗頭を失い佐竹の動きに同調している感じです。しかし、彼らの中にはまだまだ火種が残っておりますので煽ってやれば勝手に離散するかと。

 山内上杉に関してはこちらに対して対抗心を抱いているのを隠す様子もないですが今できることがない事を理解しているのか渋々誓約書に記入をしていました。

 山内上杉を追い出して上野を完全に手に入れることで越後と甲斐への抑えとしたいですがここで無理攻めをすればこちら側の補給が伸びる上に正統性が失われます。なので、今は放置すべきかと。」


 「なるほどな。よくわかった。山内上杉に関しては武田や我らとも関係が悪い上に佐野を押さえたことにより奴の呼びかけに応じる奴は居なくなった。越後に関しては雲行きが怪しいこともあり放っておいても大丈夫だろう。」


 「父上、この前からお伝えしていますが越後には神がかった戦の申し子がおりまする。油断なきよう…」


 「そうであったな。お主が関東の地盤固めを急いでいるのはそれもあるのか?」


 「はっ、奴が出てきてもこちらが迎え打つことが可能になっていれば北条はこのまま栄華を保っていられると考えております。」


 「なれば今は取り急ぎする事はない事で良いのだな?」


 「はい、その通りにございます。」


 「お前は河越に行く前に本佐倉城へ詰めて房総の内政を監督しろ、ある程度形が整ったら河越に入り上野から順に内政の整備をしていけ。   

 そして、これは別命になるが八幡様からの知識などを併せてこれからの北条の動きを考えてこい。我らもそれぞれ考えるがお主の知識は他のものとは一線を超えるもの、期待しておるぞ。」


 「ははっ!」


〜〜〜


 「お疲れ様でございまする。このまま本日は江戸城にお泊まりになられますか?」


 父との謁見が終わった後光秀がすぐに側に控える。幸隆は伊豆に戻り、伊豆武器庫計画をすすめている。康虎は相模の軍を使い上野 下野の治安維持と検地を進めており、勘助は本佐倉城で房総と常陸の一部の指揮を取っている。


 「いや、このまま本佐倉城に向かう。房総の内政の指揮を取りある程度形になったら蜻蛉返りで河越で上野の内政だそうだ。」


 「それは、なんとも…」


 「しかも、北条のこれからの舵取りの意見をまとめろとも言われたな。まあ、これは活躍した分の責任だな。将来の予行演習とでも思って頑張るさ。光秀にも助けてもらうぞ。特に内政に関しては俺の考えを一番理解してくれていると思うからな。」


 「はっ!お任せくだされ!」


 そういえば、直虎は現在10歳か…かなり早いが小姓として働かせるか。才能を持つものは使って育てていかなければな。戦場に出す事はまだまだ難しいが光秀の補佐でもさせながら育てるか。だがそうなると軍学校での勉強も疎かになってしまう。


 「光秀、軍学校に通わせている者で既に内政の現場に出して育てていきたいものがいれば選んで連れてきても良いぞ。そこら辺はお前に任せる。」


 「はっ、とはいえ、まだ10歳にも満たないものばかりですし3年も通っていないものが多いので出てこれたとしても2-3年後になるかと。」


 「分かった。気にして目星だけつけておけ。それと政豊と義弘に関してだが政豊はこのまま康虎に付き従わせろ。康虎の補佐をしながら内政もやらせるように、そうだな胤清あたりを康虎付きの内政官として政豊を鍛えるのだ。義弘は義堯と共に俺と一緒に房総の統治をさせるぞ。」

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