第118話
「では、各々方こちらの誓約書に記入を。」
渡された紙にはそれぞれ北条の領土を認める事、不可侵の約訂について書いてある。それとは別に佐竹や国人集などで梅千代王丸の元に協力して関東の秩序を形成していくことについての誓約書も渡してある。特に何かを強制する訳ではないがこれにサインをするという事は完全に北条に膝を屈する事になる。
「この誓約書に記入をしたからと言って北条に臣下の礼を取れというわけではない。むしろ書いてもらえれば食糧の輸出や街道の整備など色々便宜を図ろう。我々が重視するのは関東の民の安寧のみだ。見返りは特には求めぬが関所を減らすなどしない限り経済的効果は得られぬぞ?」
彼らの迷っている背中を後押しするようにメリットをしっかりと提示してやる。言葉を続けようとすると横から佐竹が声をかけてきた。
「こちらが誓約書になります。我々佐竹が重視するのは我らが抑える常陸の事のみに御座いますれば北条殿に反抗しようなぞ何も考えておりませぬ故その証にでも思っていただければ。」
意訳佐竹は常陸国を抑えるためにはお前らのいうことは聞かねえぞ。だが北条と戦うつもりはない事を示しておいたからな。と言うところかな。この場の最大勢力である佐竹が誓約書を提出した事もあり他の諸将も提出してきた。唯一山内上杉勢力は記入しないが上杉憲政に遠慮をしているのだろうな。これ以上は高望みだな。
「ええ、こちらもわかっております。関東の民のためにも未来のことを考えて手を携えて頑張ってまいりましょう。」
こちらとしても表面上は争う必要はないので和やかに交渉は終わった。今川の時のようにハメる必要も特にないので現状抑えている上野の半分と古河 佐野 小田領土を認めさせた時点でこちらの勝ちだ。これによって山内上杉と他の勢力は分断された。これによって関東諸将の纏まりづらさが表面化するのは時間の問題だろう。火種はまだまだ残っている。
それに、不戦の状態でこちらの経済侵攻を止め決めれるかな?仮初の平和になった1.2年後に民は気づく、何故北条領は自分達よりも幸せで豊かな暮らしをしているのだろうか、何故自分達はこんな不幸で苦しい生活をしなければならないのか。そうなった時に道を整備し終えていれば、歯止めは効かない。
それに、こちらでもようやく民がお金を使うことを覚え始めた。現代のようにとはいかないが、行商人や商業街で生活品や食料を稼いだ金で買う人が出てきて、娯楽に費やす制度もある程度は整った。こうなって仕舞えばある程度方向性を舵取りするだけでこの流れは突き進むだろう。まずは北条領土を広げ、その流れを広めるところからだ。
話はズレたがこちらが焦って何かをする必要はない、まずは3年、そのあとも数年ずつ不戦を貫きいつかは屈服、臣従させてしまえばいい。佐竹に関してはもう一度潰す。大きな独立した勢力は認められない。
〜〜〜〜
「そうか、氏政が上手く会談をまとめたか。」
風魔から報告を聞きながら溜まっていた決済の処理を流れるようにこなす北条氏康は一枚の報告書に目をとめる。
「ほう、織田が既に戦勝祝いを送ってきたのか…、なるほど、軍学校にいた織田の倅の配下から伝わったのか。東海道も舵取りが難しくなるな。」
北条としては尾張の織田と友好的な関係を結んではいるがどうしても物理的な距離がある。そして、豊かな尾張の地を狙うのは我が息子が打ち破ったとはいえ、才気あふれる今川義元 戦国の蝮 斎藤道三 他にもいるだろうが敵に囲まれている。表立って織田と同盟を組むことも難しいな。さて、これからの外交をどうするべきかな。
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