第117話

 「ええ、一応私が意見を纏めて述べると言う形です。そもそも、我らを纏めていた公方殿がそちらに討ち取られた為我々を纏める方がいないのです。」


 「そうですか、それはお気の毒ですね。佐竹殿からはいいのですよ。そちらにいる当主の方々はどのように考えているのですか?」


 関東諸将は互いに目を合わせ誰が答えるかと牽制し合っているように見える。


 「私は古河公方殿に言われ付き随ったのみです。負けたことは受け入れますし条件にも従いましょう。しかし、佐竹殿や他の方だけが有利になるような条件や一方的に飲み込めないほどの不利な条件には異論を述べさせていただきます。」


 そう一人が述べると某もでござる、しかりしかりと声が上がる。これで奴らが一枚岩ではない事を露呈させられた。佐竹としては強気に出づらくなるな。


 「そうですか、ありがとうございます。では、お話を始めましょうか?」


 「そちらの代表は幻庵殿ではないのですか?」


 「今回に関しては私に決定権を委ねられておりますのでご安心を。では、こちらの条件を述べさせていただきますね。まず我々が制圧した下野常陸の領土の権利を認めていただく事、具体的には扇谷上杉と小田 足利 佐野 の領土全てです。


 佐竹殿の領土には攻め入ってもいませぬし公方の命に付き従っただけと認識しておりますので特に求めたりはしませぬ。


 次に我が血族 梅千代王丸が足利家当主となる事を認めていただく、我々は関東管領として古河公方様を助け関東の秩序を形成し安寧を守っていくため、各々方にも協力していただきたい。その先駆けとしてまずは、我々と各家で3年の不可侵を結びましょう。」


 ここで初めて黙っていた山内上杉当主 上杉憲政が口を開いた。


 「我と我が付き従えた宇都宮 那須に関してはどうするのだ?それに我が本当の関東管領だ!お主達なぞが関東管領ではないわ!」


 「上野に関しては我々が実効支配している部分 忍や贄川あたりまでを認めて頂く。那須や宇都宮に対しては特に領土を求めるつもりはございませぬが常陸の諸将と同様に不可侵を結んでいただく。

 それに上杉殿に認めて頂く必要はないのですよ。朝廷には既に話がむかっております、なので我々が関東管領です。この話を聞いた上であなた方はどうされますか?」


 皆が朝廷と聞いて動揺が広がっている。それはそうだ日本の頂点に立ち武家よりも上の人々であり、天上人、つまり殿上人なのだから。実際はハッタリだが、北条家が朝廷と繋がりを持っていて貢物をしていることは俺が伊豆守を命じられたことで知っている。


 「くそっ!…なれば我々は我々で対抗させてもらおう!」


 憎たらしげにこちらを睨みながら踏ん反り返っている。しかし、その後ろにいる宇都宮 那須の諸将は微妙な顔をして目線を逸らしていた。


 「ええ、よろしいですが、我々と3年の不可侵も結ばなくてよろしいので?」


 憲政もこのままでは攻め込まれて逃げ場もなく負ける事を分かっているのだろう、すぐにその場から離れることはなくじっとしている。


 「…では3年の不可侵と捕虜となった兵と将の返還を求める。」


 「そんなことができるお立場とお考えで?我々は別に結ばずにこのまま戦い続けても良いのですが?しかし、それでは被害を被るのは関東の民だ。それを避けるために一時は時間を置こうとしているだけなのだが?」


 「上杉様!ここはどうか耐えてくださいませ。この場で交渉が決裂すれば復活することもできませぬぞ…!」


 憲政の側近が声をかけて宥めている。


 「我らも鬼ではございませぬ、捕虜の返還には応じましょう。しかし、それは望むものがいた場合に御座います。後ほど捕虜達と会う場を作りますのでそこでお声をかけて頂き望んだもののみ返還に応じましょう。その場合は金銭は結構にございます。」


 憲政はこの言葉を聞いて自信があるのかニヤリとしてそれならばと納得して引いていった。

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