第116話

 少し時がたち完全に回復したわけではないがある程度の形が整ってきて外に目を向けることが可能になったころ、常陸の覇者佐竹と他の関東諸連合との会談が整ったと連絡が入ったので本佐倉城へと幻庵と共に向かうことになった。


 あちらは佐竹当主 佐竹義昭と各当主がやってくるとのことで父氏康が行くかと思われたがこちらは勝った側ということ、当主が暗殺でもされては問題なこと、俺が義昭に会いたかった事もあり志願してこの会談に出席できるようにした。


 父氏康からは今川武田との会談をこちら有利に運んだ腕前を期待しているとハードルを上げられたが、敵と正面からやり合う事になるだろうから好きなように会談をまとめても良いと言う事実上の全権委任を受けた。相手は幻庵が全て決めると思っているだろうがな。


 ちなみに、首実検を終えこちら側が討ち取った主だった将がわかった。まずは扇谷上杉当主 上杉朝定、それに古河公方 足利晴氏 結城家当主 小田家当主 また、それぞれの配下達を十数人討ち取っていた。わかっている範囲で遺物や遺髪、火葬した際の骨などは纏めて各家に丁重に送り届けた。


 今回の戦いで死んでいった勇猛な人材だったと褒め称えるような手紙と共に送る事で相手を尊重している事、こちら側としては親族に対する恨みまではないことを伝えて降りやすくしたのだ。古河公方 足利晴氏の息子 足利藤氏には申し訳ないが消えてもらった。母親である簗田 高助 の娘が無理心中を測ったと言う事に世間ではなっている。晴氏を失った悲しみとこれからに対する不安から気が狂い周りのそば付きにも刃を向け息子を殺して自殺をしたと証言が出ているのだ。


 と言ってもそれは風魔が忍ばせていたそば付きであり他の数人のそば付きは既に殺されている。これも母親が狂って殺した事になっており気狂いの信憑性を上げていた。そこで、父氏康は手元で育てていた足利晴氏と氏康の妹 芳春院殿との間に生まれた子供 梅千代王丸を古河公方家の嫡男として擁立、然るべき時まで後見をする事を宣言。


 しかし、関東の旗頭として扱った。そして、関東管領に北条が就任。これに反発しようにも河東 伊豆 相模 武蔵 房総を完璧に抑え、上野と下野常陸の一部に手をかける実質的関東の覇者北条家に逆らえる者などいなかった。


 気になることとしては山内上杉家当主 上杉憲政が生死不明なこと。関東諸連合の何処かが匿っているのかもしれないし、武田や史実のように上杉に向かっている可能性もある。全力で探させているが最悪を想定しておく必要がある。その為にもこの会談を成功させ三国峠と甲斐に面する上野の城や砦に街道を整備して小田原から白井城までの防衛ラインの構築を急がなければならない。


 「山内上杉 佐竹や関東諸連合は既に集まって座っているとのことです。」


 「わかった。我らも向かうとしようぞ。」


 幻庵の言葉に頷いて俺は立ち上がり別室から会談場所まで光秀と義堯と康虎を引き連れて向かう。


 「お待たせしました。お初にお目にかかります、北条幻庵でございます。こちらに控えるのは殿 北条氏康の名代として来ている嫡男 北条氏政様です。その後ろに控えますは我が北条家の諸将にございまする。」


 「ご丁寧な挨拶感謝します、古河連合の代表代理をしております佐竹家当主 佐竹義昭にございまする。此度は会談を受け入れていただきありがとうございます。」


 こいつが佐竹義昭、15歳16歳ほどの若くて才気あふれる雰囲気があるな。野心が顔に出ているような厳つい顔に鍛え上げられた身体、なるほどな、あの采配を振るうことはある。


 「失礼、先ほど紹介された北条氏政だ。佐竹殿は古河公方連合の代表代理と言ったが後ろに控える諸将は佐竹と北条が決めた事に納得して従うという事で良いのかな?」


 相手からは驚いた様子が見てとれた。こんな小童が発言しているのだから当然だろうが佐竹義昭や、その配下は身じろぎせずにこちらを見ている。やはり何処からか俺の情報が漏れているのか…

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