第59話


 「そろそろ門が焼け落ちます!」


 「よし!では鉄砲隊!応戦準備だ!」


 土岐為頼が声を上げながら機を伺う。北条に降ってからというものの内政に軍事、驚かされることばかりだ。それに蒲原城防衛などという大役に外様の私を使ってくれるのだから驚きを通り越して無だ。


 だが、それほど我の腕を買ってくれているという証拠。氏政様も安房、千葉両面の統制をとれるように任せると声をかけてくださった!その期待に私は応えたい!


 「敵が突撃してきたぞ!!!撃てい!!!」


ダァッン ダァッン ダァッン


次々に覗き口から煙が上がる。3人の編成に加えて庇の下にいる他の兵が大団扇を使い煙を外に追い出す。勿論それで火縄の火が消えてしまうことはないようにしている。


 「敵が射程外に出る少し前に撃つのをやめろ!敵に射程範囲を誤認させるのだ!!!」


 気休め程度にしかならないかもしれないが、軍学校で学んだ情報の有用性。今使わずにしてどうする。相手が知らないこと、知っていたとしてもその内容の差によって戦いの趨勢が変わる。今は少しでも優位に立てるように組み立てるのだ!


 「土岐殿!敵が引いていきましたぞ!」


 「よし!半数を警戒に残し、残りは休憩に入れ!鉄砲の点検を忘れるなよ!」


 その後は相手は義元本隊との合流を優先したようで睨み合いで終わった。


〜三井虎高〜


 時は進み3日後、まだ激戦が繰り広げられていた。相手は本隊を加え人海戦術による投石弓矢での攻撃を行なってきたが庇のおかげでほぼ無傷で済んでいる。それに、門を片方破壊したといってもそこに突っ込もうとすれば銃撃の嵐に会うだけと理解したのだろう。その間の攻撃でこちらに意味がないのがわかったのだろう。最近では大量に山から木材を確保し大きな木の盾を複数持たせて犠牲覚悟の突撃を敢行しようとしていた。


 それを目の前に我らも司令所に集まり評定を行っていた。


 「では、現在の状況について説明する。攻めあぐねた今川義元本隊は退路を確保するためにもなんとしてでも蒲原城の三の丸を確保しようと躍起になっている。そのため明日にでも犠牲無視の突撃をしてくるだろう。我らはそれを防ぐために今夜夜戦を仕掛ける。」


 皆が顔を引き締めてこちらを見る。


 「そもそもの我らの目的は今川の侵略をここで食い止め、光秀殿達奇襲隊が攻撃成功するまでの時間を食い止めることだ。そのためにはここで敵に破られるわけには行かない。


 それでは作戦を説明する。二の丸砲撃部隊の炸裂弾を使用し相手を夜の闇の中で混乱させる。」


 「は?それだけですか?」


 「ああ、まずはそれだけだ。そして次の日以降は空砲を撃つ。そしてたまに気まぐれで弾を込めよう。そうすることで相手はいつくるかわからない恐怖に怯えながら過ごすことになる。」


 「なるほど、ですがそれでは明日の朝には突撃されてしまうのでは?」


 「そうだな、だからここで風魔を使う。混乱に乗じて奴らの木材に火をつけてきてもらう。

砲撃に当たると問題なので飛距離と命中精度重視の単発式弩を使った火攻めのようなものだ。

こちらからはある程度どこに何があるかを判断できる。最初の一斉砲撃の後、四半刻ほどは空砲を撃つ。その間に風魔が成功すればよし、成功しなければ我らが突撃するぞ。」


 「血がたぎりますのう!夜戦!奇襲!いかにも武士らしい戦いですの!」


 酒井敏房が嬉しそうにしている。我もその気持ちはわかる。北条での戦いは負けぬために出来るだけ高火力で相手を押しつぶす戦いだ。その結果既に相手は半数以上の負傷者が出ているだろう。しかし、我ら旧時代の意識が残るものとしては自分の肉体と力を使った戦いというのもまた良いものなのだ。


 今のやり方を忌み嫌うようなものはいないが、昔のやり方を否定している訳ではない。それを殿はわかっておられるので個人の武勇を鍛えることを忘れるなと言うし、最後の最後で頼みになるのはお前達の力だとよく声をかけてくださる。我らはそんな理解のある殿がいるからこそついていくのだ。


 「では、酒井敏房、土岐為頼、正木時茂、そして俺でいざという時は出るぞ!城は原に任せる!」


「「「「「はっ!」」」」」


 「まぁ、と言っても風魔が成功すれば我らが出る舞台はもう少し先になるだろうが確実に乱戦にはなる。よろしく頼むぞ。」


 「それと言い忘れたが、門の前を警備している部隊に逆にこちら側に攻めかからぬように注意するように伝えよ。やぶれかぶれでこちらに突撃してくるかもしれん。」

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