第58話

 虎高はそれぞれ蒲原城の裏手から城に帰還する。こちらの兵は300程失ったが怪我人が大半であり死者はざっと100人にも満たない。それに対して相手の損害は4分の1程を減らしている。これは大戦果である。


 「よし!相手が攻城兵器や弓矢投石を行ってくると思うが恐れずに覗き口に鉄砲隊を配置せよ!三の丸の砲台は取り付けてある車輪を使い洞窟にしまっておけ!二の丸の砲台は炸裂弾に変更!投石器を用意しろ!」


 次は城に詰めての防衛戦だ。相手は三の丸にある攻めやすい方の正門に取り掛かるようだ。我らが帰還した方の搦手には一切興味を示していないようだ。


 こちらが用意した覗き口は城壁に瓦の屋根を取り付けたものだが城内側に人1人が寝転んでも余裕があるくらいの庇のような壁を用意している。その上に耐熱石材そして瓦となっており投石や弓矢の類は覗き口に控える兵には意味がない。また、そこには簡易的な補給所も点々と設置しておりその場で飯を食ったり簡易的に横になれたりもする。


 庇では三弾撃ちの構えになっており横の間隔は広くとっている。射撃密度を上げると隣のものに火縄銃を撃った時の危険が降りかかってしまうためだ。密度の代わりに我らは連射力を取った。


 砲台については設置場所自体に車輪が付いており山の中腹に掘った洞穴に保管して置けるようになっている。攻めかかられた時に壊されないようにするための措置だ。洞穴は鉱山で使われている実践的な穴掘りが行われており中はちょっとやそっとでは崩れない。


 勿論火が入って爆発などしては目も当てられないので保管場所は別々であるし中では極力火を使わないように殿から言い含められている。

それに信頼できる一部の将兵と風魔しか知らないが山の中には硝石を作る場所が点々としており弾薬切れの心配もない。


 水は山奥から流れる向田川から水を引き湖を作りちょっとやそっとの事では毒を混ぜ込むのも難しく生活も簡単である。唯一の難点は山の為食料が城で生産するのが難しいことだ。しかし、殿が用意してくれた甘薯と言うもののおかげで山でも簡単に育つうまい芋とジャガイモがある。


 数年単位で耐えられるように設計されているのだ。耐えるだけではなく火力も有るので被害は大きくなるだろう。小田原には負けるが蒲原城は北条でも随一の堅城となっている。この城を任されたのは名誉であるし誇りだ。我らは負けぬぞ。


 「敵の攻撃が始まりました!!!投石や弓矢の攻撃ですが庇のおかげで無傷にございます!むしろ石を集めることができ投石器の弾薬補充となっております!相手の攻撃が止んだ後に二の丸へと運び込む予定です!」


 「それでよい!現場の判断は土岐為頼に任せる!強襲隊の面々は本丸にある宿泊所でゆっくりと休ませろ!怪我をしたものは搦手奥の前にある治療部隊に回せ!あそこなら安心だろう!」


 「我らは二の丸と三の丸の間にある前線司令所に入る!」


 そう言って見晴らしのいい司令所に入り相手の布陣を見ながらこちらの軍も見る。想定通り覗き口から敵を狙っているがまだ撃たせはしない。相手が詰めてきてから逃げれないように十字砲火に合わせるのだ。


 「失礼いたします!酒井敏房殿帰還いたしました!」


 「よし!休息を取るように伝えよ!」


 「伝令!敵が妙な動きをしておりまする!こちらで使っているような手投げ弾らしきものを用意しております!一応注意を!」


 「わかった!もし何かが燃えたり飛び散ったとしても土で落とすようにしろよ!」


 殿からは水をかけるよりも土を被せる方が簡易的で確実に火が消えると日頃から徹底して訓練させていた。なにやら空気中にある目に見えない燃えるものが土を被せると無くなり確実に火が消えるらしい。


 「はっ!勿論にございまする!」


 そう話をしている間にも敵の秘密兵器が城内に投げ込まれていく。木の部分である門や櫓、資材置き場などに引火して火の手が上がる。

俺が命令を出す間もなく、兵達は土をかけ火を消そうとするが門の火は消えずにあっという間に燃え広がった。


櫓は取り壊させて土で埋めている最中だ。何人かが投げつけられたものに当たったらしく消えない炎にやられた。やっかいだな。体に土を被せようにもその前に焼かれて死んでしまう。盾を使うわけにもいかんか。


 「全人員可能な限り洞穴や庇の下に隠れよ!燃えそうなものはこちらから取り崩すのだ!それと!そろそろ敵が突っ込んでくるぞ!鉄砲隊には怯えずに迎え撃てと厳命しろ!」


 「それと今川義元本隊の動きを追っておけよ!蒲原城を放って奥に行かれると面倒だ!強襲隊にも一応知らせるだけ知らせておけ!二の丸砲撃部隊の半分は富士川方面に抜ける敵部隊を狙うために小川の前に照準を合わせておけ!砲撃して抜けさせるのを阻止するのだ!」

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