第57話

酒井敏房


 我は虎高殿から騎馬隊1000を任された。敵の横腹を食い破れと言われたが敵は方々に分かれながら進軍しておりあちらに突撃しても効果は薄そうだ。それならばと敵の後方にいるであろう本隊を狙う。


 ちょうど渡河しようとしている面々を林の中で伺いながら今か今かと待ち侘びる。相手の殿であろう軍が川を渡り始めた頃だ。


「よし!我らは今から東海道一の弓取りと呼ばれる今川義元に突撃するぞ!この戦我らのためにあり!者ども続けえ!」


 我は仲間を鼓舞しながら馬を走らせる。敵は我らの姿を確認するや否や横列に組み直し我らを迎え撃とうと陣形をすぐさまに立て直す。流石の指揮である。並の将ではこのように統率することなど不可能であろう。

 だからといって諦めるわけにもいかん!さあいざゆかん!と突撃のために勢いよく駆け抜けていると左右から敵軍が出てきて囲い込もうとしているのがわかった。


「いかん!このままでは包囲されてしまうぞ!川側はだめだ!左側に向かって突撃をする!止まるなよ!止まったらそのまま死に直結するぞ!振り返るな!走り抜けろ!」


 俺は先頭集団に混じっているためそのまま全体の進路を決められる。横列の端側を狙って突撃を敢行させる。ここで停止させても逃げ切ることは不可能だしそのまま突っ込めば全滅必死だ。悔しいがこれが1番の最善手になる。


 突撃の勢いそのまま今川軍に突っ込む。相手は岩のように守りを固めており想定したよりも被害を与えることはできなかったがこちらも捕まることなく相手を削ることができたので五分五分といったところか。


 そのまま駆け抜けさせて川側に向かってなだらかな坂になっている部分で一度停止する。連弩を300人程持ってきているため彼らに今川義元隊を狙撃させる。勿論毒入りである。


 最初は卑怯なと抵抗感があったが、北条の軍学校に行って考えを変えられた。彼らはいかに敵の足を鈍らせ、こちらが射程の差で一方的に優位に立つかを考えている。


 怪我人であればおいてくなり後方に移送する形で本隊の足を弱めることは比較的少ないが、痺れる程度の毒であれば彼らを率いたまま戦闘をしてしまうものだ。


 そんな訳で今では特に不快感もなく使える。相手の弓隊が応戦しようとするがこちらは打ち下ろす立場だほぼ一方的に相手に損害を強いれる。このまま半分ほどまで減らせるかと考えていると後ろ側から鬨の声が上がっている!


「敵の援軍だ散れ!散れい!」


動けるものから左右に散らせるが間に合わずに横に伸びた側面を食い破られる。それに合わせて義元本隊が陣形を変えこちらに突撃してくる!まずい!


「このまま裏手まで撤退するぞ!戻れい!」


混乱からすぐに立て直し整然とした撤退を敢行する。我らの強みは訓練された兵だ。彼らは動揺があろうとも指揮を聞けば体が動く。それによって迅速な対応が可能となるのだ。


〜虎高〜


 酒井殿の騎馬隊が撤退したと連絡が入った。

今川義元本隊に突撃を敢行し相手を500程討ち取ったのちに距離を取り弓矢でさらに損害を与えるもこちらから逃してしまった騎馬隊により不意を突かれ陣を崩され追い討ちされる前に整然と撤退したそうだ。


 いい判断である。こちら側は軍を引き裂き相手の本隊に損害を与えた時点でこちらの勝ちである。我らも引くかの。


「よし!この場はもういいぞ!下がれ!下がれ!」


我らが逃げようとすると相手は追撃してこない。このまま本隊との合流もしくは蒲原城へと詰め掛けるつもりか?それならばこちらは堅城で守り切るのみだ。


〜原胤清 土岐為頼〜


 相手の先陣と中陣が川を渡り始めて少し経った頃総大将の虎高殿が秘蔵の擬似竜騎兵を率いて裏手に廻ったそうだ。


「胤清殿、打ち合わせ通り二の丸の砲兵を任せるぞ。我は三の丸から狙いまする。」


 我は少し低い位置にある三の丸から先に渡った先陣を狙い、原殿は奥にいる今渡ろうとしている軍を狙い撃ちにする。


 砲撃の音は凄まじく砲兵隊は基本的に耳に詰め物をしており、連絡はあらかじめ決められた看板を使い視覚的にわかるようにしている。


 相手が慌てふためきある程度の損害を与えることはできたがすぐに軍を散らばらせ、騎馬隊がこちらは向かっているため事前の打ち合わせ通りある程度適当に後方へ撃ったのちは砲撃を止める。


 最初の一撃はこの程度でいいと言われている。本番は相手が撤退しようとする所を邪魔することだ。今はこれでいい。

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