第54話

〜今川義元〜


 師が渡河を開始した頃敵の天雷の武器の攻撃が始まった。対岸の部隊と川を渡ろうとしている部隊が狙い撃ちにされ次々に吹き飛んでいく。


「橋を戻させろ!板さえやられなければ壊されることはない!川から離れよ!巻き添えを喰らうぞ!」


やはり簡単には行かぬか。義元は安全圏に逃げられるまで軍を下げる。その最中に対岸の部隊を見ると師が渡り切って周りに指示を出している最中だった。すぐに軍を立て直し散開させ、先陣に蒲原城へと突っ込ませようとしている。


「我らは渡河した部隊が襲われないように周囲を警戒するのじゃ!川上の方に少し移動するぞ!」


直接的な被害を受けていない我らの軍はまだマシでなんとか指示に従って動けている。しかし、渡河していきなり襲われた先陣は何もできないまま突っ立ってしまう兵や錯乱してしまい騎馬に踏みつけられ死んでしまったりしている。


「よし!この辺りで警戒をするのじゃ!一応殿の鵜殿には後方を警戒させておけ!我らもいくつかの部隊に分けて弾が当たらぬようにするのじゃ!」


といっても相手側は渡河した場所ばかりを狙っているようで後方の我らを狙ってこない。射程は川から蒲原城までか?


師の部隊も秘密兵器を持って蒲原城に向かって進み始める。岡部の部隊は敵の騎馬隊と交戦しているようで付かず離れずを維持している。


これならば相手の攻撃もそうそう行えないだろう。もしこちらだけを狙えるのならば話は別だが…その心配は杞憂じゃったようだな。よし、そろそろこちらも渡り始めるとするかの。


「1000を天野にひきいらせて渡河させよ!攻撃が飛んできたらすぐにこちらに戻ってくるのじゃ!無理はするなよ!」


我ならばここでこちらを狙いにくるが…?来ないようだ、何故だ?しかし好機であることには間違いない。我らも急いで渡河を終える。そして師の援軍に向かおうとした時横の山から敵の騎馬隊1000ほどが気の緩んだこちら側に突撃してくる!


「防げ防げ!!!!ここでやられたら一貫の終わりぞ!なんとしても防ぐのじゃ!鵜殿隊は敵に対して横列に陣を引け!我らは後方左右から出て相手の騎馬隊を鶴翼の陣で囲い込み殲滅を狙うのじゃ!」


ただまもるだけでは不利になる!なんとかこちらに有利にせねば!それにこれで敵の攻撃が来ない理由もわかった。相手はまだ精密に狙いを分けれるほどの攻撃ではない!つまり師達が行っていることは間違いではないのだ。


「師に伝令!大丈夫だと思うが一応一撃分の援軍をよこせるなら寄越せと!それで我らは体勢を持ち直せる!」


というか持ち直してみせるぞ!東海道一の弓取りを舐めるなよ!


「弓隊を横列の最後に組み込め!矢を射掛けさせるのだ盾隊は斜めになるように構えさせよ!相手の突進をうまくいなすのだ!二列目に槍隊!しっかりと踏ん張れよ!」


サッと軍を固め相手の突撃に対して準備する。


我らが横合いから囲もうとするとき衝突が起こるかと思ったが、相手は方向を変え、蒲原城側、我らから見て右側の出鼻を挫くように突撃する。


その際敵は脚を止めず撫で斬りにするように我らの軍を引き裂いていく。ここは前に出るしかない!


「恐るな!我が兵よ!相手の騎馬隊の勢いを止めれば数で勝る我らの勝ちよ!進めい!


敵軍よ!今川治部大輔義元はここぞ!我を恐れて逃げるのか卑怯者どもめが!」


この言葉に感化されず相手は整然と我らを置き去りにしていく。いい軍だ、統率が取れている。これはやりずらいな。すぐに元の位置に戻って横列の方向を変え背水の陣をしく。


鶴翼にする予定だった左右の軍は斜行陣にかえ防御を固める。それを見て相手の騎馬隊は突撃を諦めたようでこちらに馬の腹を見せ動きを止める。


こちらが様子を伺っていると相手は手元から見慣れない兵器で弓を打ってきた!こちらは盾隊を前面に敷いていた為後方までの警戒ができておらず槍隊二列に上からの弓がささる!こちらは防御を固めた為下手に動けない、しくじった。


その時師が送ってくれたであろう岡部隊が相手の騎馬隊の裏から突撃をしてこちらに向かってきてくれた。相手の騎馬隊はそれを見るや否や軍を動かし被害を最小限にとどめようとするがそれよりも先に岡部が相手の腹を食い破る!


「今が好機ぞ!鋒矢の陣を引けい!斜行陣を方向移動!横列隊は鋒矢の形に移動!盾持ちは手回しで弓隊に盾を持たせよ!そして刀を手に取れ!突撃だあ!」


愛刀の宗左文字を振り下ろし突撃を敢行する。相手はそれを見るやいなや踵を返して撤退を始める。ある程度は追うがやはり騎馬隊と歩兵では差があり追い返すのが手一杯だ。しかし今はこれでいい。こちらは相手に離れられたことで天雷の武器の攻撃を受ける可能性がある。なんとか師の方に近づかなければ。

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