第53話

 雪斎が蒲原城へと向けて進軍し出した頃、先陣では新たな問題が起こっていた。


「進め!進めぇ!蒲原城に近づけばあの攻撃は来ないぞ!」


 と言っても、それが本当かは確かめられないが、雪斎殿がそう言っているのだ。信じるしかない!俺は俺の出来る事をするまでだ!


「岡部元信!推して参る!我に続けい!」


愛用の槍を掲げ全速で進もうと命令を出すと、前から敵の騎馬隊が留まりこちらに横腹を向けている。なんだ?あの騎馬隊は?後ろに兵を乗せて二人乗りをしているのか?あれでは騎馬隊の十全な機動力が使えぬぞ?


 うわぁーー!


そう思っていたら前方から鋭い矢が何本も何度もやってくる。そうか!あの後ろの奴らは弓持ちなのか!


「相手は弓持ちを後ろに乗せている!弓ならばすぐに動けない!しかも2人乗りだ!動け動け!当たらねばこちらの勝ちだ!突っ込め!」


副官の久野に半分を任せて左右から挟み撃ちにしようとする。相手もそれに合わせて我らから離れようとくるが、やはり速度は普通の騎馬隊よりも遅い。


「このままいけば追いつけるぞ!進めい!」


相手は背を見せこちらから逃げるが、何かがおかしい。なんだ?何故あいつらはこちらを向いて奇妙な弓のような物をこちらに向けている?おかしいだろう。


「気をつけろ!散開だ!何かがおかしい!仕掛けてくるぞ!」


少し馬同士の距離を離し突っ込もうとすると相手の方が早かった。弓がこちらに飛んできたのだ。全速で追っている為急に止まったり射線を外したりは出来ずに相手の思うように討ち取られていく。


「馬の首に顔を近づけろ!狙い撃ちにされるぞ!」


馬の顔を盾にするように相手からの射線を外しながら近づこうとする。


「よし!これで相手は弓矢の補充に時間が掛かるはずだ!今だ!食い込めぇ!!!!」


うぉおおおおおお


雄叫びを上げながら左右から突っ込もうと意気込む。しかし、それはすぐに悲鳴に変わった。相手は弓矢の補充をせずにそのままこちらにもう一度弓を撃ってきたのだ。


 おかしいだろう!弓矢の連射だと!?相手のおかしな兵器は確かに貫通力と音に優れていると聞いたことはあるが、連射できるとは聞いておらぬぞ!?


ヒヒーン


馬が悲鳴を上げて体が地面に放り出される。相手の矢が俺の馬に当たったのだ。苦しい。背中から落ちた為致命傷はないが、息がし辛い。このままでは拙いぞ!すぐに立ち直って周りを見ると。


半数の兵が死に絶えていた。馬に放り出された者もいれば、頭を射抜かれ馬がその場に置き去りになっているのもある。俺はすぐに馬に跨ると撤退の判断をする。


「退けい退けい!一旦相手の射程外に出るぞ!左右に進路をばらけさせながら一度退けい!」


折角詰めようとしたが、このままでは碌に成果も上げられずにやられるだけだ。ここは恥を掻いてでも一度撤退を!


相手の大将であろう偉丈夫の男をチラリと一睨してから、弓の射程外であろう場所まで下がる、しかし付かず離れずを維持する。下手に離れすぎるとあの天雷の武器でこちらがやられてしまう。


雪斎殿が用意したという秘密兵器が使える距離に近づくまでは、何としてでも引く訳には行かない。


「よし!体勢を立て直し次第、雪斎殿と合流して蒲原城を目指すぞ!付かず離れずを維持しろ!」


〜太原雪斎〜


 中陣が先陣に追いつく頃、半数の500ほど数を減らした岡部元信から連絡が来た。相手は未知の弓を使い、今まででは考えられないような速度で矢を打ち出してくる為、相手に近寄ろうとするとこちらが一方的にやられてしまうので付かず離れずを維持しているそうだ。


 その判断は流石と言わざるを得ない。ワシでも同じ反応をするじゃろう。このまま四角の形になるように左右に先陣を分け、ワシ達中陣が後ろになる擬似鶴翼の陣で相手の騎馬隊を先頭にジリジリと蒲原城に近づく。


 相手は散発的に矢を射掛けてきているが、ほぼ掠り傷で済んでいる。しかし、毒矢に切り替えたのだろうか、何人かは痺れて動きが雑になったりしている。厭らしい戦い方だが効果的だ。


 ついに辿り着いた!蒲原城は山城であり攻略には手間が掛かりそうではあるが、今回持ってきたこの兵器で甚大な被害を与えやすくして侵攻だ。そう思った矢先後ろから伝令がやって来る。

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