第52話
〜今川義元〜
駿府を出てゆっくりと進み、駿府由比城で1日休み蒲原へと向けて軍を進める。
「師よ、朝比奈泰朝部隊と岡部元信隊の若い奴らを先陣に、中陣に飯尾隊と我が直属隊から3000を師に付け任せる。そして後方に我が、最後方に鵜殿隊を置く。前線の指揮は任せるぞ。」
隣で馬に乗る爺に命令をだす。
「任されましたぞ。基本的には川を渡れるかどうかがまず最初の関門でしょうな。その後に敵の城に対する攻め方。時を掛け過ぎると援軍が間に合ってしまいますぞ?」
「分かっておろうに、相手はわざわざ道を敷いてくれているのだ。蒲原城は山城、出られぬように抑えの兵を置き、河東後方の長久保城まで一気に浸透する。今回は乱取りなどは許すな。軍が遅れる。」
「ですな。それにこちらに本隊が来たとしても奴らは関東でも問題を抱えておりまする。こちらに譲歩せざるを得ないかと。むこうが渋ったとしてもこちらは時間が経てば経つほど有利になりまする。どう転んでも美味しいですな。」
「そのように取り計らってくれたのは義父と師であろうに。」
「はて、何のことやらさっぱりですな。さて、我はそろそろ前の方に出まする。渡河に関してはお任せあれ。」
そう言って前の指揮を取りに行った師の背中を眺めながら蒲原城前の向田川を渡り始めようとする岡部隊を見守る。
忍び共の情報通り蒲原城に水を引いている為、例年より川の水が少なくなり渡りやすいようになっている。奴らは自分たちで首を絞めておる。その甘え我は許さぬぞ。
〜太原雪斎〜
勇猛さで抜擢された若武者達に突撃させぬように盾持ちを前に出し、先に渡らせる。武具に関しては胴と兜のみに限定させ身軽にし、川を渡った先で防衛陣を敷くことを優先させた。
その後に小舟に武具を乗せた状態で兵達が船を押しながら対岸に渡る。出来るだけ水中では身軽な方が良い。水の中ならば矢の威力も半減する。兜のみならばそこまで問題にならない。
「元信殿と泰朝殿に例の物を使い、渡河する様に伝えよ!」
歩兵が川を渡っている間に敵の襲撃はなかった。油断は出来ぬが、ここまで待ったのに何も無いということは大丈夫だろう。
由比城に用意させておいた桟橋になる木の板を降ろさせる。そのまま渡ると重みで床が抜けてしまうので、支えとなる太い木材を事前に差し込んで置いた。その上に板を用意し騎馬隊を慎重に渡らせる。
先陣が粗方渡河に成功したところで盾隊にも防具を順次着させる。その間に我ら中陣も同じように渡河を始める。呆気ないの。北条ならば何か仕掛けてくると思ったのだが。流石に我らの動きには気づいておろう?不気味だな。
「殿には我らが渡り切ってから少し時を置いてから渡るように伝えてまいれ。」
近くにいた素破に命じておく。
「さてはて、鬼が出るか蛇が出るか。渡るとするかの。」
雪斎の隊が先陣よりも急ぎ気味に渡河を完了させようとする。丁度雪斎が渡ろうとした時、事態は動いた。
ダンッ ダンッ ダンッ
目標としている蒲原方面から噂に聞く天雷のような音が響く。
「やはり仕掛けてきたか!急ぐのじゃ!狙われておるぞ!固まるな!」
やられたのう。城から届く攻撃があったのは誤算じゃ。今は悔いてもしょうがない。すぐに渡らねば!
「このまま前進あるのみ!岡部元信隊には先陣の騎馬隊を纏めさせて蒲原城へと攻めさせよ!途中で使い物にならない馬は捨ておけ!出来るだけ蒲原城へと詰め掛けるのだ!朝比奈泰朝隊には残りの歩兵隊を纏めて後詰をするように!我らはこのまま渡り切って周囲の警戒だ!」
いくら天雷の音がすると言ってもこちらの指示が聞こえぬほどではないと安心する。その時、先に渡河し終えていた先陣の歩兵の一部や中陣の先頭が、いきなり降ってきた鉄の弾に吹き飛ばされ、潰され阿鼻叫喚の図になる。
「これはいかん!固まらずに周囲にばらけよ!バラバラにならないよう武将ごとに纏めて離れるのじゃ!」
我は直感的に固まらなければ被害は少なくなることを理解し、すぐに指示を出して被害を少なくしようとする。
「我らはこのまま渡河し切るぞ!落ち着かせた者から蒲原城を目指せ!我らがバラバラに動くほど相手の砲なる兵器は意味を為さぬ!」
我の言葉を次々に武将に伝えに素破が動く。
「殿はどうされておる!」
「はっ!川から少し離れた所で山側からの奇襲を警戒しておられます!」
流石じゃのう。これならば我は前にだけ集中すれば良いかの。
「とりあえず慌てふためいている奴らを安心させずとも良い!蒲原城へ向けて走らせろ!死にたくなければ走れと声を上げさせるのじゃ!我らも声を上げながら進むぞ!」
雪斎の指示通りに死にたくなければ蒲原へ!と叫びながら突撃していく。図らずとも縦長の陣となってしもうたが、これはこれで悪くないと我は考える。
「積荷は無事じゃな?」
「はっ!城攻め用の分はしっかりと確保できておりまする!」
「では、ちと使うのが早いかもしれぬが、到着次第アレを使うぞ!用意させておけ!」
普通の兵とは違う見慣れない物を背負った兵士が我の後に続いていた。
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