第51話

〜三井虎高〜


 ここ、蒲原城では今川侵攻の兆しがあると連絡があり慌ただしく準備する…訳でもなく淡々とあらかじめ決められていた通りに動いている。とはいえ、戦の前の独特の興奮感は場内に蔓延しており悪くない。


 普通守る戦というのは士気が下がりがちである。なので大体の将は籠城して援軍が来る見込みがないと乾坤一擲の野戦や奇襲を仕掛けることになる。そうすることで勝ち目と士気を高めるのだ。勿論皆が皆そのようにしている訳ではないがな。


 さて、話を戻すと蒲原城に河東の部隊長全員が集められている訳ではない。幸隆殿には里見義弘、工藤政豊、千葉利胤を任せて羽鮒城へと詰めてもらっている。もしもの時の援軍かつ、武田への備えだ。政豊や幸隆殿には関東でも働いてもらうため、利胤には千葉嫡男との事で安全のために羽鮒城だ。


 そして、ここ蒲原城には俺の元に房総出身の部下たちがいる。原胤清、正木時茂、酒井敏房、土岐為頼だ。防衛戦ということで原胤清と土岐為頼には砲兵と鉄砲衆の運用を、正木時茂と酒井敏房には長槍部隊と強襲する際の騎馬隊を任せてある。俺は基本的には二の丸に詰め全体の指揮を執りながら、いざとなれば強襲隊を率いて突っ込む。


 蒲原の兵達は皆気さくで良い奴らだ。それにここに住む農民達はもう既に北条の民である。皆今の生活に満足しており、氏政様へ感謝している。俺はあいつらと話し合ったり飯を食ったりして気心も知れている。そんな奴らを死なせたくはない。その為に戦うのだ!


 「砲兵達にもう一度よく砲の点検と仰角の調整をさせておけ!それと向田川の仕掛けもな!」


 俺は蒲原を守る為に何が有効かを風魔の手を借りて地形を把握して考えた。その際に浮かんだのが水攻めだ。まず蒲原城へと近づくには蛭沢川と向田川の合流した後の川を渡って来なければならない。


 蒲原城の砲撃はギリギリそこに届く。なので今川軍の3分の2程が渡ったのち砲撃を開始、混乱を起こさせた後に、一旦退こうとする今川に対して水攻めの予定だ。


 東海道一の弓取りに通じるかは微妙だが、しないよりはマシだろう。それに気づいた所で砲撃による混乱は避けられぬし、前に詰めてきた所で鉄砲の雨霰に曝されるだけだ。


 「虎高様、今川軍が駿府を出てこちらへ向かっているとのこと。明日の正午には開戦するかと思われます。」


 作戦について思い返していると風魔が知らせに来てくれた。


 「よく知らせてくれた。できれば蒲原よりも羽鮒城方面を厚く警戒してくれ。何よりも怖いのは武田の奇襲に遭い、蒲原が囲まれることだ。」


 「はっ!では必要最低限の人員以外は武田方面に回しまする!」


 返事をすると、さっと気配を消し部屋を去って行った。流石だな。


 「蒲原城にいる諸将を今夜集めよ!最終確認を行う!」


周りの小姓達に命令を出し、俺自身も評定の間に向かう。


「よく集まってくれた。明日からの対今川について確認しよう。」


「「「「はっ!」」」」


「胤清殿と為頼殿には予定通り砲兵と鉄砲衆を任せる。最初の数発は外しても良いので、相手に届く事を分からせてやってくれ。」


「お任せあれ!」


「敏房殿には強襲隊の騎馬を1000任せる。今川隊の横合いを突いてくれ。俺と時茂殿で残りの500を率いて先に突っ込んでおきまする。」


「その大役仰せつかった!」


 「俺が率いる強襲隊には擬似竜騎兵を使う。連射可能な弩、連弩を装備させたものだ。これらを使い遠距離から一方的に損害を与える。相手がつられてこちらに攻めてきたら、蒲原城まで退いて鉄砲の餌食にする。乗ってこなければそのまま釘付けにしておく。


 砲撃隊は川を渡ろうとする面々を狙え、同士討ちなぞしたくないから味方の部隊が近くにいる時は砲撃待機だな。」

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