第44話
「では、面子も増えた事だからそれぞれ自己紹介をしていこう。北条伊豆守氏政だ。まだまだ当主として至らぬところばかりだから皆で支えてくれ。」
みんなからの返事を聞きながら右回りに自己紹介をしていく。
「三井虎高だ。俺の得意分野は戦だからここに呼ばれて困惑している。よろしく頼む。」
ガハハと聞こえそうな豪快な見た目に声である。かぶいてんなあ。
「明智光秀です。戦の指揮、鉄砲の扱い、内政や外交など氏政様の補佐をさせていただいております。」
ちょこんと正座して少し頭を下げる品の高そうな光秀。
「富永直勝でございます。水軍衆を率いておりまする。この武で氏政様を支えて行きたいと思っております。よろしくお願いします。」
いかにも海の男という感じではないが、実際には水軍のまとめ役でいつも助けてもらっている。
「山本勘助でございまする。半身が微妙に動きませぬが、その分この頭を持って氏政様に仕えていきまする。皆様にも我が武略で手助けをできればと思いまする。」
半身が動かないことなど気にせず堂々と言い放つ。
「真田幸隆でございまする。武田に追われていたところ氏政様に声をかけられここにいます。我は武や外交で働ければと思いまする。」
壮年の男がそのガタイの良さの割に頭脳派の雰囲気を出して場のみんなの耳目を集めている。
「では軽く、氏政様の元で忍び衆を纏めておりまする。忍び頭の風魔小太郎にございまする。以後お見知り置きを。」
そういうと一瞬で視界から外れ、居るのか居ないのかよく分からなくなる。夜ということもあり気配が分かり辛いな。さすがだ。
みんなも口々にいつも助かっていると感謝を言葉にしている。ここにいる面々は小太郎達から情報の優位性による恩恵を受けているから忍びを見下したりしないし、俺自身がそういうのを心良く思っていないため忍びにとって居心地がいいそうだ。
「では、新参者ですが頑張らさせていただきます。房総衆が1人、原胤清でございまする。以後お見知り置きを。」
初老の男性が狡猾な雰囲気を見せている。原は千葉家中で自分の栄達を極めた男だ。その頭脳を北条でも活かしてほしい。
「工藤政豊でございまする。私も武田から逃れ、軍学校に通っておりました。そこで最近目をかけていただき、ここまでやってきました。至らぬところもありましょうが、精一杯励ませていただきます。」
みんなの視線が政豊に刺さる。この中で偏諱を受けたのは政豊が初めてだからだろうか?既に名前がある者を変えるのはどうかと思ったが、みんなにも与えた方がいいのかな?
とりあえず何でも出来る万能の政豊には義堯と共に結果を出させて一軍の将にしたい。
「では、最後に、安房里見家当主、里見義堯でございまする。私に何が出来るか分かりませぬが宜しく頼みまする。」
一国の国主をしていたのだ。他の者とは違う圧倒的な雰囲気を放ち、この場を支配するような感覚さえ与える。
風魔は親父達の評定にも潜り込んでいるため慣れたものだが、他の面々はさっと俺を守る位置に動きそうになったり、持っていない刀に手を掛けそうになる。
その様子を見てふっと覇気を戻した義堯は軽く頭を下げ少し下がる。
「では、みなに伝えるべきことを伝えていく。まずは西から行こう。今川についてだ。風魔のおかげであいつらが来年の田植えの後に河東に侵攻しようとしているのが分かった。」
ここで幾らかの面々はやはり来るか、という表情を露わにする。
「今川に対して今出来ることはないが、蒲原城の強化はずっと続けており、バリスタや大砲を設置してある。完璧ではないが守り切れるだろう。」
「武田はどうなりまするか?そちらから来られると流石に羽鮒城があるといっても厳しいものがございまするぞ。」
虎高が河東のまとめ役として意見を出してくれる。
「それについてはこちらで手を打った。甲斐に流れる米の統制を行なっている。これで迂闊に軍を進められないはずだ。もし来たとしても風魔が山の中で遅滞戦術を行う。ここで言うのも憚れるような内容で軍の侵攻を遅らせるつもりだ。
そこに合わせて今川を先に片付けた後、武田が来たらそのまま打ち破りに行く。」
「具体的に今川を破る戦略としては蒲原に攻めかかっている軍の分断だ。海からの砲撃と蒲原からの砲撃で殲滅。慌てているところに上陸、挟撃もしくは分断を狙う。
直勝と虎高の連携が大事になる。連絡を密にしておけよ。」
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