第45話

 「ではその後の説明だ。この今川の侵攻は関東勢の大反抗と繋がっているらしい。つまり、俺たちが河東に力を入れている隙に背後の武蔵を攻められ、苦戦を強いられるという訳だが、まあ俺たち伊豆衆だけで今川を抑えられれば、父上が相模と武蔵の部隊15000ほどを最低でも使えるだろう。


 そうなればこちら側は余裕を持って対応はできるはずだ。向こうの規模がどれほどになるかは分からないため何とも言えないが、少なくともすぐに小田原に攻めかかられる事はない。


 ということでだ。今川と武田との停戦交渉の後すぐに江戸城に人員を輸送する。武具や兵糧などは江戸城に予め用意しておかせ、将兵だけを移動させる。そうすれば素早い移動が可能だ。武具は興国寺城や蒲原に置いていけばいい。


 直勝達にはずっと忙しくさせるが、よろしく頼む。」


 直勝は未来を想像しているのだろうか、口元を引き攣らせながら苦笑いをしている。なぜか皆の目も優しいものに変わった気がする。


「そして江戸城に上陸した後、関東のどこかで包囲もしくは攻めかかられている味方の城を救援に向かい、裏から突撃する。その後すぐには停戦はせず、こちらから逆侵攻して報復するぞ。


 今の時点で反乱すると分かっている大名家は山内上杉、古河公方、小田、結城、長野だ。可能性としては宇都宮、那須、佐竹、鹿島の加勢もあり得る。優先順位としては古河公方、山内上杉を最優先で叩く。次に宇都宮、小田になる。後は遠いし国力が高い、もしくは攻め辛いため後回しにする。


 ここで奇襲部隊と城攻め部隊で分けるつもりだ。奇襲部隊は騎馬と歩兵だ。城攻め部隊は砲撃部隊とそれを守る護衛の歩兵とする。


 進軍速度はゆっくりであろうが、敵の本隊は残っていないため大丈夫だ。何か意見はあるか?」


 ここで周りを見渡すと勘助が発言する。


「私は足が悪く、速度の要る機動戦には足手まといでしょう。そのため城攻め部隊、もしくは蒲原防衛戦に配置するのがよろしいかと存じまする。」


「それもそうだな。自ら言い辛いことを言ってくれてありがとう。では、勘助は城攻め部隊に配置するとしよう。その後は江戸城の防衛も任せる。蒲原防衛戦は虎高を総大将にするつもりだ。虎高は安房にはついて来させず留守番をさせてしまった。


 虎高はもっと勇猛な武将として名が広まるに値する男だと思っている。だから虎高のための舞台を用意したい。それに河東をまとめ守ってきた虎高の誇りや面子もあるしな。頼むぞ。」


周りも異論が無いのか頷いたり、虎高におめでとうと声を掛けている。

当の本人は感激したのか、身体を震わせながら下を向き、


「あ、ありがたき幸せ。殿の期待に応えて見せまする!!!」


男泣きしていた。ちょっとこちらも恥ずかしいので話を回す。


「副官には光秀を付ける。戦はこの2人に任せるぞ。その後の戦後交渉は俺と長綱叔父、それに幸隆で行うつもりだ。」


「長綱様が付くならば安心ですな、彼のお方は北条随一の外交官でございまするし、幸隆殿ならば一枚も二枚も上手でございましょう。」


原胤清がうんうんと頷きながら賛同する。


「おい胤清、それじゃあ俺は用無しみたいではないか」


 おちゃらけて場を和ませるように胤清に反論すると、皆がはっはっはと笑い、雰囲気が少し和やかになる。


「これは失敬いたしました。殿は何も言わずとも皆分かっておるかと」


上手いこと返された。


「では、胤清には奇襲部隊を蒲原から江戸まで輸送する時の指揮を頼もう。俺が会談をまとめる間に上手くまとめてくれよ?その後は部隊を一つ率いろ。」


「ははっ!」


皆が驚く。房総衆でいきなり大役の一つを任されたのだ。


「部隊の割り振りをしていこう。

まずは河東防衛戦だが、 

総大将 三井虎高

副大将 真田幸隆

部隊長 工藤政豊 正木時茂 原胤貞 里見義弘 千葉利胤 酒井敏房 土岐為頼


奇襲部隊 俺 富永直勝 風魔小太郎 明智光秀


海からの奇襲部隊の指揮は陸上が光秀、海上が直勝だ。俺は船の上にいる。」


「「「はっ!」」」


 呼ばれた者でここにいる者達が返事をする。元々の伊豆衆だけではなく、今回から配下になった房総衆の正木や原、それに里見の息子を加えている。


 これは降った者でも実力があればしっかりと評価するという姿勢を見せるのと、単純に人手が足りないウチの悲しい現実である。清水や笠原などはもういい年だし、内政の方が根本的に向いている者が多いため、武官がいる今呼び出すのは心苦しい。

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