第43話

 「光秀、工藤祐長を呼び寄せてくれるか?話をしたい。」


 「承知しました。明日の朝呼び寄せておきます。」


 俺は祐長と直接話をしてみて、実際に謀略会議に呼ぶに値するか、忠誠心はどうなのかを確認する。


 「工藤祐長、お呼びと伺い参上いたしました。」


 20代のガタイのいい男が目の前に座している。体の節々から覇気?気力?のようなものがビシビシと溢れてこちらに届いている。史実よりも軍学校に通った事で体が出来上がっているようだ。軍学校では常備兵と同じように食事が出されている為、体も普通の武士とは違いマッチョだ。


 「うむ。面を上げよ。それでは話がし辛いであろう。」


 「はっ!失礼致します。」


 そう言ってこちらを見る。何も言わずに数瞬目を合わせる。


 「お前は俺を侮らないのだな。驚いてもいない。ここにいる側近達だって初めて会った時には大なり小なり感情を出していたというのにな。」


 「私は氏政様が行われている善政と智略、先を見据える洞察力や八幡様からいただいたという武略を尊敬いたしておりまする。男が男に惚れたのであります。その外側はどうであれ関係ないかと存じまする。」


 「ほう、ではお主の思う俺の善政とは何だ?」


 やばい!めっちゃにやけそうになる。嬉しいなあ!歴史上の名将から褒められちゃったよ!


 「では、失礼いたしまして、氏政様は民が農業に専念できるように、武士が武士の役割に目覚めるように完全兵農分離制を作られました。これは武士が今までよりも身軽になり、己の使命に専念できるようになりました。農民は言うまでもなく戦いに怯える事なく明日に希望を持てまする。 


 それに学校でも教えられませなんだが、農民が武具を必要としなくなり、農具と交換しているという話を噂に聞きました。これは一揆や反乱を起こされる可能性を潰すためではないかと存じます。勿論北条の政の下で有れば、そもそも一揆など起こらないとは存じまするが。


 それに商人が集まって来やすいように制度や街道を整え、最近海にも手を出し始めました。こうする事で関東の諸将が簡単には動けなくなりました。敵が海を使えないのは大きな不利となり、こちらの有利となりまする。


 これは情報にも繋がりまする。私は甲斐で父に従って武田と戦った時に武田の忍びからの情報撹乱や、相手との情報差によって翻弄されてしまいましたので、身を以ってその恐ろしさが分かります。


 海を手に入れた今ならば今川も退けられまするし、関東が束になっても耐え続けられる上に、こちらは好きなところから奇襲が可能になるかと存じまする。


 少し話が逸れましたが、氏政様の行った施策は1つ1つ目立ちますが、全てが一つの大きな流れに繋がっていることが1番凄いことだと存じまする。


 甲斐では飢えに苦しみ生きるために奪う、そのために戦いました。しかし、氏政様の下ではそれがない。これが一番善政と言える理由でございます。」


 最後にふぅ、と話し切った疲れを取るように息を吐いた。周りでは光秀や幸隆、笠原、清水などの内政に明るい者達が頷いており、直勝や虎高などの武官は工藤祐長から溢れるオーラと垣間見える忠誠心から認めているようだ。勿論武官でもこの話が分からない馬鹿はここには居ないがな。


 「よく分かった。工藤祐長、お前を側近に加えよう、これからは韮山に居を移せ。お前は光秀の下につき様々なことを学べ。その後にどこかの長として何か役目を任せよう。」


 「ははっ!ありがたき幸せ!ではこれを機に心機一転名前を変えたいのですが、よろしいでしょうか?」


 「ほう?どのような名前にするのだ?」


 史実の昌豊かな?


 「工藤昌豊と名乗らせていただければと」


 「ふむ、豊は父の虎豊からか?ならば偏諱を授けよう。俺の政から政豊と名乗れ。これからは工藤政豊だ。」


 初めて驚いた顔でこちらを見ている。


 「どうした?要らないのか?」


 「あ、いえ!ありがたき幸せ!この名前に恥じぬような活躍をお約束致します!」


 こうやって史実の内藤昌豊、今世での工藤政豊が配下に加わった。

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