第42話
安房攻めを行ってから房総へ送る家臣団と伊豆や河東に残す家臣団の振り分けで四苦八苦していると、親父の方から何人か房総に回してくれる事になり、大分助かった。
秋の刈り入れ時には何とか安房勢に北条でのやり方の概略を伝えられたと思う。特に衝撃的だったのは農器具の差だろう。あれは目に見えて効果が出るからな。
それに、塩水選による稲の実りの良さにも驚いたようだ。安房に植えさせる米は途中からできる限り伊豆や相模で使われている何代か良い物だけを残し続けた籾米だ。他の物よりも実りが良い。
劇的に増える訳では無かったが、目に見えて収穫の違いが分かるほどには成果を出せた。勿論これらは全て来年の種撒きの分を残して農民のものだ。これによって安房の民にもだいぶ好意的に受け入れられている。
安房の武官については軍学校に入って北条の戦う兵の強みを知り、めきめきと実力を付けている。鉄砲などについては詳しくは教えないが、うちで働けば働くほどに身近になるだろう。
里見義堯については最初の頃よりは大分感触が良くなっている。というのもこの頃は俺の傍で分からない事や目新しい事について質問するようになった。これはいい傾向だ。頑なに拒むより理解しようとしている。
それに俺が処理に困る報告書や事務書がある時に義堯に聞くと、大名だった時の経験を活かして意見をくれる。その通りにするかどうか、どのように活用するかは俺次第だが、確かに俺には気づかない視点からの意見をくれて助かっている。
いつも俺にベッタリという訳ではなく、幸隆や虎高と訓練に繰り出したりもして少しずつ馴染んでいる。既に模擬槍や盾、模擬刀を使った部隊戦では、試しにやらせたところ無双だったらしい。それこそ俺が直接声をかけた面子以外では歯が立たないそうだ。このままなら義堯については大丈夫だろう。
軍事関連で思い出したが、最近では織田から池田恒興や前田犬千代、丹羽長秀などが代わる代わる留学に来ており、佐久間信盛や河尻秀隆などは長期留学という形でしっかりと学んでいる。信長からは彼らに軍学だけではなく、大局観や頭の回転を向上させるような教えを施してほしいそうだ。
たしかに佐久間信盛などは猪突猛進型で、史実でも本願寺攻めで命令がなければ何も出来ないという失態を犯して罰されている。指示待ち人間ではなく、少しでも自発的に考えられるようにしたいのだろう。という事で軍略方に放り込んでおく。その中でも勿論、鉄砲部隊論については触れさせずに教えさせている。
史実では既に種子島から雑賀衆が鉄砲を1丁購入した筈だが、九州よりも北条にポルトガル船が集まっている影響で種子島に伝来しなかったらしい。もし来た場合に風魔の者が鉄砲を回収する予定だったが杞憂だった。
その代わり正規の交易ルートで島津に鉄砲が渡ったらしい。今回のメリットは上方で鉄砲が流行るのを抑えられたくらいか?河越夜戦で鉄砲衆は広く知れ渡るだろうから、その後に織田に譲るとするか。
それとは別に叩き上げで面白い人材が出てきていた。各武家の子は無料で軍学校に入れ、そのまま適性に関わらず最低でも部隊長クラスまでには配属される。[勿論それくらいの実力が付くからだ。]
その中で、伊豆工藤家から工藤祐長、後の武田四天王の内藤昌豊が頭角を表してきたのだ。彼は元々甲斐にいた父と共に武田に反乱を起こして失敗し、伊豆の本家に逃れてきたそうだ。そこで行く当てもなく穀潰しになるのも忍びなかった為、韮山の軍学校で武を磨いていたそうだ。
勿論あの武田四天王が弱いはずもなく、軍略、武力どちらでも高い才能を示した。それに史実通りなら内政に謀略なんでもござれの第二の光秀だろう。敵対している訳でもないし、俺は工藤祐長を直接呼び寄せ側近に加えることにした。実際に軍学校の叩き上げから栄達できることが分かればよりいい人材も集まるだろう。
「光秀、居るか?」
「はっ!ここにおりまする。」
「今回採れた米から3000人が1年ほど暮らせる量を河越城に送り込んでおいてくれ。それと河東地域の各貯蔵所に余った分の米を蓄えろ。それと甲斐へ流す米の量を今年は厳しく制限しておけ。」
「分かりましたが、何故かはいつもの所で?」
「ああ、綱成殿に会えるように予定を合わせておいてくれ、米の搬入についてとでも言えばいいだろう。その場に呼ぶのは小太郎、光秀、幸隆、虎高…それに義堯と原胤清、軍学校にいる工藤祐長を呼んでおけ。」
「はっ!」
今度の戦では安房の武官達にも戦功を挙げさせてやらなければならない。原親子は安房でも身を張ってくれた。その恩にも報いてやらなければいけない。それに実際に使える奴だとも分かる。呼んでもいいだろう。義堯は今回で取り込めればいいなと思い呼んだ。ずっと監視はさせている為、情報が漏れる事もないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます