第21話

「捕虜として捕らえられたのが里見一族の女子供です。手荒な真似はせずに丁重に扱っておりまする。有名な武士は殆どが合戦や万喜城に詰めており、他は有象無象ばかりです。どうされますか?」


 「女子供はどこかの船に分けて軟禁させておけ。武士に関しては切腹は許さぬ。その上で我らに付き従うか、里見に付き従うか聞け。もし我らと共に、と言うならば土地の召し上げを絶対条件とする。


 その後はとりあえず伊豆か相模かどこかで領内経営について学ばせたり、部隊の指揮官として訓練を施させろ。


 里見に付き従う者には城の牢屋でも利用して捕虜にしておけ、殺すなよ。里見を下した後に心変わりするかもしれんしな。ただでさえ自由にできる人員は貴重なんだ。使い潰さないともったいないぞ。」


 「はっ!しかし、抵抗が激しければどうしようも無いので、そこはご容赦を。」


「分かった。では今から兵には休息を取らせろ。戦闘していない常備兵2000とまだ戦える兵士1500に黒鍬衆1000、鉄砲衆500を率いて船で万喜城に向かう!兵士たちには船で眠らせてやってもいい。


残りの兵士はしっかりと峰上と花房あたりから敵に攻められないように見張りを立てて、この二つまでの範囲を抑えておけ。


そうだな、指揮は笠原に任せよう。ついでに下田から文官を呼んで検地や石高調査も終わらせておけ。民には調査のためで税は取らないと言い含めておけよ。」


俺は幸隆と光秀に残存部隊をまとめさせ乗船させる。その準備を待つ間に少しの休息と勘助と談義をする。


 日が昇ってきて少し朝焼けになっているのを確認しながら、船に揺られ万喜城を目指す。

万喜城に到達するまでには奥地というほどでは無いが、稲村城とは違ってそこそこ進軍が必要になる。


 そうなると夜襲などはできないため、こちらは堂々と進軍することになる。それはまあしょうがない。一番重要な安房先端を押さえたことで伊豆から安房までのラインが安定したし、挟撃の形になるからな。


 問題は敵が打って出てきた場合だ。向こうには武勇に優れた土岐為頼がいる。野戦となると砲部隊を守りながらの戦闘となる。鉄砲衆がいるためそこまで不安視はしていないが、油断はできない相手だ。それに久留里城から里見本隊の援軍が来られたら負けだ。兵力的にも機動力的にも厳しい。


 むしろ籠城戦にしてくれれば、こちらの思う通りに攻められるのだが…。今頃は椎津城に連絡船が届いているだろうか。こちらの援軍が稲村や館山の方に上陸して挟撃になっていること、万喜城に向かっているため攻勢をかけずに本隊を引きつけて欲しいことが、しっかりと伝わっているといいが。


 「では、万喜城に向かって進軍を開始する。」


船から兵と砲部隊を降ろし、風魔を斥候に放ちながら突き進む。今回は部隊を分けずに全隊で進む。少しでも兵を減らすなどという愚かな事はできない。


 風魔には悪いが、北条の噂を流布させる事も頼んでいる。稲村攻めの時と同じだ。抵抗しなければ手荒なことはしない。戦うのは里見軍だけであるということだ。


 勿論そんなことをすれば相手に気づかれるのは当たり前で、向こうも準備をするだろう。こちらは5000、相手は多分2000程。3倍の兵力はないが、そこは砲撃で対応ってところだな。


 厄介なことに万喜城は攻めづらい土地にある。川が天然の水掘の役割を果たし、川を渡ろうとすれば被害は甚大。逆に万喜城側の川の方から攻めれば、道幅が狭く横の森や山から奇襲を仕掛けやすい。


 それでも砲部隊をもつ俺は道幅が狭い方から攻め上がるしかない。勘助に部隊の指揮を執らせ、幸隆に部隊長をやらせる。慎重に進む。小太郎達が斥候をしてくれているため、不安ではあるが軍を前に出していく。


 やはりというべきだろうか臨時徴兵でもしたのだろう。2500の兵が夷隅川と山に挟まれた狭い道に陣を張っている。簡易的にしろ盾と槍でぎっしりと固められたいい防御陣地だ。攻めは勘助に任せておく。


 鉄砲衆を率いる幸隆は仲間の盾持ちの隙間から一斉に射撃を始め、相手の盾を貫いて陣を混乱させた。その一度の斉射で鉄砲衆を下げ、常備兵の槍隊で混乱した敵部隊に追い討ちをかけさせる。


 だが相手は不測の事態に慌てながらもしっかりと兵をまとめようとする。しかし、見た事も聞いた事もない変な武器に農民兵達は恐れ慄き、天罰だと言いながら逃げていく。


 軍の様相をしていない。こうなれば敵の武将もどうしようも無いと判断したのだろう。混乱から立ち直った兵を引き連れ、万喜城に向かって整然とした撤退を開始した。


 俺は油断せずに横の山から敵が奇襲をしてこないか鉄砲衆に警戒させる。仮にいたとしても、こいつらを見れば何をしてくるか分からずに攻めあぐねるだろうという目算である。

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