第20話
里見攻めを始める前の1544年年始、俺は元服を果たした。元服は特に決まりなどはなく、慣例として12歳以降にするものらしいが、俺自身にもう同様の判断や行動ができるとの事で元服することになった。実際、官位も貰って幼名のままでは何かと不便ということもある。
史実では早逝した兄の名の氏親になるのかと思っていたが、そんな事はなく史実通りに北条氏政となった。
そして、春頃に出兵することとなった。農繁期であるこの時期は里見も直ぐには兵を動員できないだろうという読みだ。今はなんとか捻出した兵力で真里谷攻めを続行しているらしく本隊は5000ほどで、千葉が北条の軍として真里谷へ救援に向かい食い止めている。
俺たちはその報告を受けて夜中に強襲上陸をかけた。農民達も寝静まり、城にある篝火のみが輝くこの時間、海辺周辺の斥候などは風魔が処理しており、大した戦闘もなくフランキ砲3つと共に馬を2頭ずつ計6頭を下ろす。
フランキ砲を乗せた台車を馬に引かせながら城へ向かって進む。二本の川に挟まれ、陸上から攻めるにはとても大変だったであろう稲村城も海から来れば形無しである。
射程距離に入ったところで軽く柵と堀で陣地を形成する。掘った分の土は今回フランキ砲を設置するための土台を少しでも高くするために積み上げておく。
さて、では始めるか。
「勘助!始めよ!」
「砲撃部隊用意!確認!」
勘助が砲撃部隊の点呼を取る。それを確認して声を張り上げる。
「目標、稲村城!撃てい!」
そして咆哮共に軍配を振り下ろす。
ダダァーン。凄まじい音量を出してフランキ砲が火を吹く。これであちらさんには確実にバレただろうが、こちらの位置が分かったとしても、相手は砲撃の混乱でどうすることもできないだろう。
放った砲弾は1つが城門に命中し、2つが外れて塀の中に入った。
「そのまま撃ち続けろ!狙いは城門や塀自体だ!」
俺は部隊の指揮を勘助に任せて、小太郎に周囲の村に抵抗しなければこちらからは何もしないこと、北条を受け入れるならば1年は税を取らないこと、税は4公6民であることを伝えるように命令を出しておく。
光秀は俺の警備としてそのままだ。そして、この場にいない幸隆には常備兵を1000を率いらせて城へ進軍させている。勿論フランキ砲の砲撃が止むまでは突入させない。
空砲を等間隔に三発鳴らせば突入の合図になる。既に砲撃を始めて40分ほどして、
「勘助!どれくらい時間がかかる?」
「はっ!少々予定が早いですが、こちらの砲撃がうまく決まって相手の城内と塀どちらも大打撃でございまする。今からでも突入可能でありましょう。」
「よし!では幸隆には合図を送れ!砲部隊は船に戻せ!守りに黒鍬衆500をつける!残りの500は俺が率いる!常備兵2000を勘助に任せるぞ!鉄砲衆には海岸警備をさせておけ!決戦は里見本隊との戦だ!無駄に消耗はさせられない!」
「「はっ!」」
実質の指揮は光秀に任せて、俺は側仕えの馬に相乗りさせてもらいながら進軍をする。
砲撃の轟音に農民達は恐れたのか武器を手に取ることもなく、抵抗なしで城へと向かうことができた。
といっても背後から襲われたらたまらないので、戦闘に参加させていない残りの500を使い、通った村で簡易食料の配給と、金を支払って武器の回収を行わせている。北条の元では農民は戦わないため武器は必要ないという理屈だ。
それでも不満を言う奴はサヨナラだ。これによって相手の武士が兵を集める前にいくらか力を削ぐことができた。
というよりもそもそも相手は兵士を集める前に砲撃のせいで心身喪失しており、兵を集めるどころではなかったようだが、俺たちが稲村城の前に着いた時には既に幸隆達が城内に突入して制圧していた。
それでも隠れて暗殺されたりするのは嫌なので、城門に入って開けたところで簡易的に陣を敷く。そして風魔達に今一度隠れている奴がいないか城内を探させる。
「では、風魔達が戻る前に報告を頼む。」
幸隆の報告を聞く。
「はっ!我らは砲撃が終わった後に壊れた城門から500を、左右の別の場所から500ずつを突入させ、逃げられないように追い詰めながら場内を制圧していきました。何人かは武器を取り抵抗しようと切りかかってきましたが、囲んで倒させました。こちらにも軽傷者が数人出ましたが、死人はおりません。
そして、敵兵の2割ほどの者が敵の手に落ちるくらいならばと自害しておりました。」
くそっ!いまだに理解ができない。死ぬくらいなら生きろよ。
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