第16話
小氷河期と言われる寒い冬を囲炉裏と木綿布団で乗り越えて雪が溶け始めた頃。今年の戦略目標である蒲原城建築を始める。農閑期である2〜4月にこちらは常備兵と黒鍬衆と大工を送り込む。常備兵は500だ。
人員はほぼ全て整備した陸路で送り込む。材料などに関しては用意したキャラック船といくつかのガレー船等で一気に運ぶ。
風魔衆には敵の忍び狩りをしてもらい、武田や今川に知られることを出来るだけ減らす。勿論大規模工事なんてやればすぐにバレるだろうが、少しでも時間が欲しい。
徴兵が遅れれば遅れるほど農繁期真っ只中になり、相手の不満を貯められる。それに三河での敗戦のせいでまだ立て直しをしているから、ここで徴兵をして自爆するとは思えない。
なので、この築城はうまくいくと考えている。武田晴信にしても去年併合した諏訪の慰撫でこちらも兵を出しづらい。出したとしても少数だろう。
よし!いくか!
「では、これより蒲原城築城に出るぞ!馬引け!」
俺や馬廻りである虎高、直勝、小太郎、足の悪い勘助の武具などは船に乗せて一緒に運ぶ為、上陸前に着替える。幸隆には陸上部隊を任せている。計2千人ほどだが、幸隆なら大丈夫だろう。
「若殿、蒲原城には誰を入れるんですか?流石に若殿が入る訳にはいきませんよ?」
直勝が船の指揮を執りながら聞いてくる。
「当たり前だろう。嫡男が、しかもこんな若過ぎる奴が最前線の重要な場所に城主ってあり得ないだろう。」
「大将自身がそれを言いますかい?」
虎高ががっはっはっと快活な笑いを上げる。信虎殿が甲斐から追放されて、武田と戦うのは気にならなくなり、今川とは元々仲が良くないところをスカウトしたこともあり、今では信虎殿と戦うことにならなければ大丈夫だと、本人から言われた。
その信虎殿も外交役として仕えている為、何の憂いもない。
「俺としては現場で考えて動ける奴、指揮を執れる奴を置きたいから、できれば馬廻りの誰かを置きたい。とりあえず完成したら父上にお任せするが、できればある程度安定するまでは俺の手の届くところに置いときたいな。」
「そうですかい。ま、誰になるにしろ全力で働きますよ。大将の見る世界にはここにいる俺たち全員が魅了されていますから。」
「それは頼もしいな。まあ、実際問題、勘助は俺の側で軍師をしてもらわなければいけないから無しだろう。
直勝は伊豆衆の纏め役兼水軍を任せているからこれも無しだ。風魔衆はそもそも表に出せないから無理だ。となると、幸隆か虎高になるな。
幸隆には調略や謀略で活躍させるつもりだから多分虎高だな。やったな、浪人から一気に城持ち武将だぞ。」
「それはありがてえ事ですが、そこに付随して厄介事も多そうですな。」
俺は何も言わずにニヤリとして虎高を見る。
「まだ取らぬ狸の皮算用ではあるが、蒲原城をうまく使い、今川 武田と休戦もしくは盟約のようなものに繋げたいと考えている。その為には1度か2度は敵の侵攻を食い止めなければならない。頼むぞ。」
「はっ!」
「それと直勝。大丈夫だと思うが、水軍の調練を厚くしてくれ。何故かは言えないが、多分今年末から来年には安房の方に出向く羽目になる。
その隙を狙って今川や武田が襲ってくるかもしれないから、虎高も良く覚えておけ。
勘助は以前に俺が考えて紙に記し渡しておいた鉄砲衆の使い方をよく熟考して、どうするか考えておいてくれ。うちでの初実戦だ。
好きなように動かせる軍隊だ。楽しいことになるぞ。」
「「「はっ!」」」
蒲原に着いた頃には既に陸上部隊が到着しており、黒鍬衆が土地の整備と防備を固めている。大工達は近くの山から木材を集めて柵や櫓を組むのを手伝ってくれていた。
俺たちは兵士達の力を使って木材を運び込み、既に打ってある基礎部分に合わせて大工達が組み上げ始める。
兵士たちが宿泊する仮小屋は簡単に組んであり、既に暮らせる状態になっている。蒲原に住んでいる農民達には徴兵をかけずに、むしろ米などを配布して民心を集める。
ここ、蒲原は富士川から西に渡った平野部である。山が入り組んでおり、今川が攻めてこようにも縦長の形でしか布陣できずに少ない正面兵力で戦う羽目になる。
それを考えて蒲原城から少し西に行ったところにも砦を作り、より少ない兵力で戦えるように整える。
トレビュシェット(投石機)をとりあえず10機ほど用意した為、これを使って砦の後ろからバカスカ撃ちまくり、量産できたらフランキ砲を城に設置して曲射で打ち下ろす予定だ。山から平野に打ち下ろすため飛距離も充分である。
先程虎高達にも説明したが、史実で真里谷が北条に援軍を要請する。そこで俺たち伊豆衆が里見に対して強襲上陸をかけようと思っている。1544年内に降伏させたい。
それに合わせて今川が手を出してくる筈だ。史実では吉原から一気に攻められ、河東を失うことになる。
だが、こちらが先に蒲原城を築城し河東を固めた為、本隊がいない間でも耐えられるだろうという考えだ。
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