第15話
今川治部大輔義元
2年前尾張の織田信秀から攻めかけられ、今年は大敗した。国人衆の士気も下がり、河東も押さえられ、状況は良いとは言えない。
朗報と言えるのは辛酸を舐めさせられた原因である北条氏綱が去年死んだことくらいだ。
だが、ここ数年でうまく引き継ぎをしたみたいで大きな混乱は起きておらず、嫡男がなんと齢4歳でありながら領地を任され、結果を出しているそうだ。
なにやら八幡の使いと称して金銀を見つけたり、米を増やしたりなどしたというが眉唾物だな。どうせ嫡男の箔付けの為の流言だろう。
しかし、河東地域の求心力が今川から北条に移っているのは確かで、北条は昔からの農民のための政策を押し出している為、農民の楽園と言われる噂が2年前から流布している。
その為に領民の夜逃げが相次いでおり、こちらの国力は低下する一方だ。これを防ぐ為には河東から北条を追い出さねばならぬ。
そう考えてまずは三河から織田を追い出そうとしたら小豆坂での大敗だ。立て直しに2年はかかる。その間に井伊や松平などの統制を締め上げ、裏工作をするべきだな。
等と考えながら扇子をパチリパチリと掌で叩く。
「我が師よ。河東を攻めるための策を何かできぬか?」
「で、あれば古河公方と山内上杉を動かし、関東諸将を相模に侵攻させるのは如何かと。」
「ふむ、なれば3年後[1545年]に行動を起こさせるか。我らは2年で立て直し、先に攻めかかる。武田にも援軍をもらい、井出からも攻めかけさせれば北条は河東に集中せねばならぬ。義父の信虎殿には悪いがな。」
「お気になさりますな。あやつは利が有れば積極的に自ら和睦の斡旋でもしてきましょうぞ。」
「で、あるか。気になると言えば河東に詰めているのが北条幻庵と嫡男松千代丸というところか。勿論兵は厚いだろうな。」
「ですが、幻庵自体は武略がある訳ではございませぬ。我らが攻めかかれば為す術なく河東を占領できるかと。」
「師の申す通りだな。よし!来年に兵と将を統制し、1545年夏から攻めかかる!義父と師は関東の者どもに話を持ちかけよ!」
「「はっ!」」
武田大膳大夫晴信
父を追い出し諏訪を手に入れ、国人衆達は不満も言わずに従ってくれている。父が逃げた今川との仲が悪くなるかと案じたが、そんなことお構いなしだ。悪くなったら悪くなったで北条や織田と手を組み、奪い取ればいいだけだから問題はないが。
来年からは雪解けと共に信濃併合の為に忙しくなるの。気になることと言えば北条の倅が八幡の使いとして伊豆を発展させていることか。こちらの乱破が実際に伊豆が何倍にも豊かになっているのを報告してきた。
それと共に恐ろしいのが、風魔とやらだ、重要な場所を探ろうとすると悉く手下が殺される。採算が合わなすぎて撤退させたわ。あれは失態だな。
だがいいこともある。米が取れない甲斐信濃では金が採れる。それを使って伊豆から米を大量に買えるのだ。そのおかげで今年は飢えて死ぬ領民達が少なくなる。
甲斐信濃は山国で貧しい。生きる為には奪い取るしかない。そのための強さなのだ。生きる為には"必死"にならねばならぬ。俺は川中島あたりまでの平野を全て獲り、内政に力を入れ民を守らねばならぬ。その為には鬼などと言われようとも止まるわけにはいかぬのだ!
織田吉法師 後の信長
松千代丸との話は毎回楽しい。俺が知らない世界のことや日本の小ささ、土地と武将の扱いなど新しく学ぶことが多い。親父は利に聡く勢力を拡大しているのはすごいが、親父の視点はあくまでも1武将、大名の目線だ。
最近では松千代丸はポルトガルという外つ国と交易を始めて、様々な珍しいものを手に入れたらしい。
俺も機会があれば是非とも伊豆に行ってみたいものだ。
松千代丸からの手紙を懐にしまうと、木の枝の上から降りて地元の悪ガキどもと街へ繰り出す。
近衛前久
年の瀬の前に北条から貢物を持った者が現れた。何も要求する訳ではなく、ただ帝のお力になれればと。帝はそれにいたく感動して何かできないかと今我らに謀っている。
それとは別に近衛家、私に個人的に貢物をしてきた。是非とも話してみたい、伊豆を見て欲しいという手紙だ。
今はまだ噂程度にしかなってないが、伊豆では農民の楽園と言われており、皆が明日を見て笑顔で過ごしているそうだ。
もし行けるならば行ってみたいものである。
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