第13話
1542年年末。あと三ヶ月ほどで蒲原城築城を開始する上、年末ということで城内も忙しない。
俺は今年小田原城に送る祝い物と城内で配下達に振る舞う予定の料理などをチェックしている。稗を蒸留して作った酒はいつも飲む濁酒よりもアルコール度数が高く新鮮な深い味わいらしいので大人気である。
他にも、元から取れていた真珠のうち幾つかいいものを用意している。それと信秀殿から輸入しているただの石に見せかけた陶石を職人街の連中に磁器に変えてもらっている。更には粗銅を輸入して金銀銅に変えて、刀剣もいいのを数振り用意している。
これには訳がある。多分だが…
「殿!下田に何やら見慣れない大きな船がやってきておりまする!土肥で作らせている新型船のような物らしいです。」
「よし!やっときたか!蔵に用意しておいた荷物を下田にすぐに送れ!虎高!勘助!それと日吉丸を呼び出せ!すぐに俺も下田へ向かう!直勝には土肥にいる船大工達を下田に送るようにすぐに連絡しろ!」
慌ただしい城内がさらに忙しくなる。俺はそのまま虎高と勘助に合流して、馬を乗り継いで下田に向かう。
下田では見慣れない船と異人に物珍しさで人が集まり、兵が揃っていた。
「大丈夫だ!武器を下ろせ!」
俺は周りに声をかけながら虎高と共に南蛮人に近づく。南蛮人の商人らしき男とその通訳らしい人間がいる。
俺はスペイン語で話しかける。
「Me llamo uzimasa Para dar la bienvenida」
俺の名は氏政。歓迎するよ。
相手は驚いた様子だ。当たり前だな。この時代にスペイン語を話せる日本人がいるとは思えないだろうしな。
「これはどうも。商人のアフォンソです。豊後にいた時に手紙を貰ってこちらまで来ました。」
「あの手紙を書いたのも俺だ。伝わってよかったよ。こんなところで立ち話もあれだ。城までこないか?」
「勿論喜んで。」
俺が南蛮人と会話できるのを見て、民は八幡様の神子だと感動している。配下達はもう変なことに慣れっこで気にもしていない。
日吉丸は持ち前の人の良さそうな笑顔で、既に南蛮人からも友好的に接して貰っている。
「さて、お主に聞きたいことがある。お主は宣教目的か?商売目的か?俺の見立てでは商売目的で偵察して、可能ならば宣教師を送り込むつもりだと考えているが。」
「え、ええ…。敵いませぬな。その通りでございまする。」
「そうか、ならいい。まず先に言っておこう。この国では布教をするためには帝、この国の皇帝に許可を取らなければいけない。この地で流行している仏教も最初はそうしていた。ルールくらい従えるだろ?それと、日の本で布教をしたいなら人身売買は辞めておくことだな。今の帝は国民を自分の子供と思って労っている。布教の許可も得られずに商売も禁止される可能性があるぞ。」
「なんと!ありがとうございます。本国にはしっかりと伝えておきます。」
「よし、では商談に入ろう。こちらが要求するものは3つ。鉄砲、フランキ砲、クロスボウだ。そなたらはフランキ砲を売り出したがっていると聞いているぞ。そして可能であればサツマイモやトマトや玉ねぎやジャガイモ、それと香辛料の苗木に珍しい植物だ。なんでもいい。この日本にないものを待っている。食用が望ましいが、そうでなくてもいい。」
トマトとジャガイモに関しては今は観賞用の花のはずだから、それを伝えておく。それと各植物の特徴をまとめたものを紙にまとめてメモを渡しておく。
「わかりましたが、その対価はどうなりましょうか?特に鉄砲。クロスボウとフランキ砲はお譲りしても問題ないのですが、鉄砲はまだ日の本にないはず。何故知っておられる?」
「対価は真珠や金銀、磁器や刀剣だ。それに珍しい酒もある。知っているのはモスクワやイングランド、新大陸についてくらいさ。なんでも知っている訳じゃない。だが、お前達が新大陸でやっている事は知っているぞ。」
相手は脂汗をかき震えている。少し威圧した程度と思われるかもしれないが、相手にとっては未知の相手、そしてこちらの情報を一方的に掴まれている状態。恐怖だろうな。
「は、はっ。それでお譲りいたしまする。しかし!可能であればイングランドを優先することなどはやめていただきたく…」
「ふんっ、それは大丈夫だ。商売をしているだけだろう?我々は。」
「そうでしたね。」
「あ、それと金銀の交換比率はお前達に合わせておいてやろう。」
「はい、もうどうぞお好きにお願いします。」
俺はこうして鉄砲3丁とフランキ砲2つに弾、クロスボウ10を手に入れて次の取引の予定を立てた。
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