第12話

古渡城から港へ向かう途中に小さな村に立ち寄った。通り道だからというのがでかいが一応休憩も含めている。


 伊豆とは違って広く広く続く平野は開発すればもっと豊かになる。少し、羨ましいな。そう考えながら田を耕す農民を見る。


 伊豆の農民は米の収穫量が増えたことで余剰分を商人に売却して、石鹸なども使うことによって生活水準が急上昇している。しかし、まだ北条以外の領地では貧しいままで農民はみすぼらしい。


 俺はこういうのをどんどん減らしていくためにも強くなって、日の本の民を救うために敵を滅ぼさなければなと決意を新たにする。ここでの敵とは現行制度の事である。幕府と土着武士だ。俸禄制にして民を重んじる。搾取するのではなく一緒に豊かになる。これが肝要である。


 眺めているとより一層痛々しい幼児がいた。背も低く痩せ細っており、ところどころにアザだらけで日頃から虐待を受けているのが見た目で分かる。人の領地で何もしてはいけないし、できない。だが、目の前で見てしまったらどうしようもない。身体が勝手に動いていた。


 「どうしたんだそのアザ。親にやられたんだろう。」


その子供はビクッとしたあと辿々しく答える。


「オラのおっとうは別の人で…毎晩殴られるんだ。弟は今年生まれたばかりで何もされていないが、このままじゃ殺されちまうだ…」


 こんなのは日の本のどこでも起きていることかもしれない。しかし、俺には今この子を助けたいという思いが湧いている。偽善と言われようが助けるのだ。


「お前の家はどこだ?連れて行け。俺がお前を助けてやる。」


 供回りを連れて子供の家に行く。大きな木のそばにあるこじんまりとした家だ。


「失礼する。」


 ゾロゾロと兵を引き連れて入ったためか、すぐに父親であろう男が平伏する。


「お主たちの子供達を引き取りたくてな。銭はこれで足りるか?」


 ガサッと10貫を目の前に置いてやると、父親の方は目に見えて態度を変え媚びへつらうように、どうぞどうぞと言う。虫唾が走る。弟であろう子供も一緒に引き取り連れて行く。


 「あ、ありがとうございますだ。オラ何でもしますだ!!!」


子供が喜ばしそうに言う。


「そうか、ならば我が領地で学校に通え。そしてお前の得意なことを見つけて俺に貢献してくれたらいい。そういえばお主の名は何と言うのだ?」


「オラの家は木の下にあるから、木下日吉丸と呼ばれていましただ。」


んっ?んーーーー?


「ちなみに今年で何歳だ?」


「6歳ですだ。」


来ちゃったよ。三英傑のひとり豊臣秀吉だよ!!!!!


「そうか、学校に通った後は軍学校に進ませ俺の小姓としよう。気張れよ。」


「頑張りますだ!!!!!」


 その後は特に変化もなく船に乗って土肥まで帰る。その間に見るモノ全て日吉丸にとっては新鮮で楽しそうにしていた。


 帰る間に俺の手習の隣で日吉丸にも勉強をさせてやる。飲み込みが早く、俺が教えた算術や文字などはささっと覚えてしまう。それに嬉しそうに笑うと、みんなを惹きつけるのだ。


 供回りの兵なども農民の子と賤む事なく良くしている。川越夜戦が来た時は1部隊を率いらせてやるか。


 土肥に着いて直勝には先に高谷城へ帰してやる。俺たちはそのまま韮山城へ向かう。向かう間にもこれからの事を考える。


 とりあえず用意しておいた材木などを使って蒲原城を作りに行く。今は12月で寒いため春になったら始めよう。他には米以外の作物を作り始めなければならない。これからは米が飽和状態になることが分かり切っている。


 なのでポルトガルからジャガイモや玉葱などを輸入していきたい。今ある日本ハッカやわさび、麦、大豆も生産を増やしていこう。

これによってカバーだ。それと鍛治師達に火縄銃の弾を作る為の型を作る練習と螺旋状に溝を掘る練習をさせておこう。


 次に黒鍬衆の人数を増やすのと、常備兵達も動員しての長久保から吉原までの道の整備と、興国寺城と吉原城の強化だな。漆喰とコンクリートで硬い壁を作り、弓矢や鉄砲で撃ちやすいような覗き穴を作らせる。それに堀を増やそう。

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