第11話

小太郎に指示を出した後1週間も経たないうちに土肥の船を用意させて尾張に旅立った。黒鍬衆100を手元に直勝と虎高、幸隆を供回りにして向かう。勘助は今回北条の、というよりは俺の統治と軍について学ばせるために置いてきた。戻ってきた頃には自分の手駒をよく理解してくれるだろう。

 それに一応蒲原城の為の資材管理責任者にしておいた。ガレオン船の前身としてキャラベル船が1隻だけできていたらしく、それを使って熱田に向かう。


 新しく見る大型の安定した帆船に海賊衆以外の者たちはみんな驚く。これからはこの船を商船として量産して、ガレオン船を軍船として使うつもりだ。


 数日かけて駿河、遠江、三河の沿岸部からよく観察して絵が上手い奴に書かせておく。小太郎が、海から見るとまた違った諜報ができていいと感動していた。


 「よし、では最終確認だ。」


小太郎を呼び出してやってほしいことの確認を行う。


 「まずは美濃に向かって明智の悩みの種になっている明智彦太郎か光秀というものを引き取ってこい。風の噂で聞いたとかでもいい。人手が足らずに北条の若殿が募集しているとな。次に、近江を通り京へと向かってくれ。そこで安芸武田の遺児が東福寺で坊主をしているはずだ。金を払って引き取ってきてくれ。」


「はっ!」


「それと朝廷に献上するときは特に何も強請らなくていい。ただもし言伝が可能であるならば、これから毎年献上させていただくこと。伊豆と相模の民は笑顔で溢れ、飢えに怯えず明日に希望を持って過ごしていることを伝えてくれ。」


「勿論でございまする。後奈良天皇は民を重んじる方だとお聞きします。きっと喜ばれます。」


 段々と熱田が近づいてくる。人々が集まり活気に溢れているな。ここに風魔の商人に扮した配下がいる為、そこで荷馬車などを借りていく予定だ。


 そして、到着の知らせを信秀殿に出してから数日後、古渡城で面会をする。


 計算高そうな雰囲気があるしっかりとした男がその場にはいた。そしてその横にまだ幼さが残るが、破天荒な雰囲気を醸す幼児が一人。後の織田信長かな?


「お初にお目にかかりまする。北条氏康が息子、北条松千代丸でございまする。本日はわざわざ足を運んでいただき、恐悦至極でございまする。まずは先日の三河での勝利にお祝いを。」


その流れのままお祝いの品として渡す目録を差し出す。


「これは、ご丁寧な挨拶をありがとうございます。織田信秀でございまする。本日はどのような御用件でございましょう。」


「はっ、こちらに控えまする我が配下が朝廷への貢物をしに行きまするので、その為の通行許可を得る手助けが欲しいのと、これから海を使った交易を盛んに行いませぬか?という提案に来た次第でございまする。」


「ふむ、手助けの件はこちらの貢物と一緒に向かっていただけるので有ればよろしいでしょう。交易に関しても勿論問題はございませぬが、何を交易していただけるのでござるか。」


「こちらからはわさび、という薬にも食材にもなる特産品と我が領で取れる真珠や農具、それに石鹸という物を。その分は銭でいただければ結構にございまする。欲しいものがあればこちらから出向きまするので。勿論来ていただける分には歓迎いたしまする。」


「なるほど、船を差し向けないでいい分利があると。それに最近になって有名になっている人気商品の石鹸を優先的に卸していただけるのは嬉しい。更には農民に対する善政で名高い北条殿の農具を売っていただけるとは望外の喜びでございまする。」


和やかに問題もなく会談が進んでいく。しかし、そこに鋭い意見が走る。


「しかし、それだけではあるまい?何が目的だ?」


それは信秀殿ではなく、隣にいた信長から飛んできた。周りの配下が騒ぎ出そうとする前に手で制して答える。


「いえ、三河での騒動に対して少しお話をと。」


「そういえば、花見をしに行きたいなどとおっしゃっていましたの。」


信秀殿が答える。


「ええ、来年の春頃から蒲原に花見場を作ろうかと思っておりまして、今川殿とは争うつもりはないのですが、たまたま勘違いされる事もございまするかと。」


悪どい笑みを浮かべ、信秀殿は何度か頷く。


「なるほどなるほど、それはよろしいですな。たまたま我らも攻勢を強めることがございますかも知れませぬな。」


「それだけにございまする。これからも良き関係を築いていきましょう。」


俺は信秀殿と目を合わせ互いに頷く。


 その後は歓待を受けて、次の日の朝に船に向かって出発した。ここで小太郎とは別れる。

 城にいた間は何度も信長と話をした。あの歳で熱田の重要性、銭の力、今の制度に対する批判など、本当の天才を目の当たりにした。俺が伊豆で行っている政策の重要性を理解して、自分が家督を譲ってもらったら導入したいと息巻いていた。特に武士を土地から離すという思想と南蛮などの他の国の話が興味を引いたようだ。

 アレと争いたくはないなあ。うん、出来るだけ仲良く出来るようにしたい。信長が同じ統治をするなら少なからず北条に手助けを求めたり、手を組もうとするはずだ。

 それに、信長という男はカリスマ性がある。アイツについて行こうと思わせる何かがあるんだろうな。負けられないな。いや、アイツの隣に立ってやりたい。戦とカリスマは信長。内政と外交は俺が。東は俺が。西は信長が。うん、それがいい。


 それから俺たちはちまちまと手紙で話し合うようになったのは別の話。

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