第10話

1542年。

  あの評定の後に蒲原城築城計画を立てる。1543年に築城予定である。そして1544年に御殿場と井出に支城となる砦を建設する。そのために用意しておいた材木を組み立てるだけの形にしておく。墨俣の一夜城を模倣した形になるな。それを船を使って蒲原に直接送り込む。プレハブ工法みたいなイメージだ。それで城壁や櫓 兵たちの休む場所などを5日で作り上げ、黒鍬衆にはその後に堀と壁を建てさせる。そして、その間に職人たちに城を作り始めさせる。興国寺城や長久保城にも既に黒鍬を派遣して強化を施させて頑強にしてある。


 今から1543年までの1年間に用意させる。そしてその間に風魔を使って実地で地形調査をさせて、俺が歴史知識で持っていた城の構図にあてはめる。


 加治が火薬の開発に成功したと報告があったため、鉱山から出ている粗銅を灰吹法で金銀を取り出すやり方を教えておく。これで資金を調達して鉄砲衆の為の金にする。


 それと真珠の養殖を土肥の町で試行するように指示しておく。直勝直属の信頼できる者に任せておく。真珠を使い、ポルトガル人と交渉できれば万々歳だ。


 そんなこんなで2月ほど経った後、隻眼の男が目通りをしたいと言っていると報告が上がった。すぐに広間に通すように指示し、急いで上座に向かう。


「面を上げよ。我が韮山城主かつ次期当主の北条松千代丸である。」


「お初にお目にかかります。山本勘助でございまする。今回は風魔殿から我が才覚を求められていらっしゃるとお聞きして登城させていただきました。」


隻眼とはいえ、生きている片目には力強い意志を感じる。


「うむ。其方の放浪の旅の中で得た経験とその軍略を我のもとで奮ってほしい。私の元では八幡様のお力を借りて様々な南蛮の武器や兵器を作り始めている。それに今後も作り出す予定だ。それらの新しいものを受け入れて其方の力にしてほしい。まずは俸禄で100貫で雇いたいと思っている。基本的には私の配下である伊豆衆にも話を通しており、土地は全て私のものになっていて、そこに代官として彼らを今までの石高に見合う俸禄を与えて派遣する形に最近なった。俸禄制という。これで受け入れてくれないか?」


 そう、最近やっと土地から家臣を離すことができた。北条は元々土着していない。だから相模の方は土着していない家臣が多く、俸禄制にスムーズに移行させることができて、父は既にモザイク状に散り散りになるように武将を配置しており、内政官を別に派遣している。


 問題になったのは伊豆衆である。彼らは元々土着した国人が早雲様について行き、そのままであった。


 しかし、黒鍬衆などが手を入れることでさらなる豊かさを手に入れたことで、俺に任せれば大丈夫という信用のもと俸禄制に移行してくれている。それに、彼らには米が大量に取れれば米自体の価値が下がり、これからは銭で物事のやりとりがなされていくことを説明したことで納得してくれた。

 これによって彼らの土地に代官として伊豆衆を別の伊豆衆の土地に派遣することになった。これによって伊豆という国を皆で豊かにするという目的に向かって頑張っている。彼らにはこれから内政官として活躍してもらうために、伊豆式農業法と内政を実地研修で学んで貰っている。

 彼らには将来的に他の土地にも派遣して手付かずの土地を豊かにしてもらっていくつもりだ。戦をするのは別の得意な者たちにやらせればいい。そのための人材は集めている。小部隊長クラスは常備兵たちの中で決めているので、それらをまとめる中部隊長、彼らを纏める軍師を俺が揃えればいい。

 これによって全ての支配している土地は北条のものとなり、土地の開発や水利権での争いなどが簡単に捌けるようになって、徐々にだが相模の方の石高も上がり始めている。武蔵は支配が盤石とは言えないため技術の流出を防ぐ意味でもまだ手付かずだ。


「そんなにいただけるのですか!?殿の期待に応えられるようにこの力存分にお使いくださいませ!」


 勘助は涙を流して喜んでくれた。俺はそのまま勘助の妻と共に彼らを歓迎するつもりで、ワサビを使った料理や油を使った天ぷらなど様々なもので接待をした。


 そして、また一ヶ月後に小太郎と共に三井虎高がやってきた。


「お初にお目にかかります。三井虎高でございまする。此度は武田家と戦わないという条件をつけてまで雇っていただけるということで話を聞いておりまするが本当でございましょうか?」


三井虎高は史実では近江に帰郷し、藤堂家に婿入りして藤堂虎高となる。武骨な男という形で荒々しい様子だが、態度は丁寧で礼儀正しい様子だ。


「勿論だ。軍を率いて戦うにしろ今川や上杉に当てる。武田が相手になる場合は供回りで俺の身だけを守ってくれたらいい。というか、其方が戦いたく無いのは武田ではなく信虎殿であろう?信虎殿とは対面しないようになるさ。大丈夫だ安心して仕えてくれ。」


虎高はじっと俺の目を見つめた後、


「三井虎高、松千代丸様を主君と仰がせていただきます。」


「禄は100貫を出す、よろしく頼む。」


「はっ!」


虎高をそのまま側にいさせたまま、小太郎に変更になった件を伝える。


「朝廷まで行くのは無理になったから熱田までいく。その後に登用して欲しい人物が美濃と京にいる為、朝廷への貢物を護衛しながら京まで行ってその二人を拾ってきてほしい。」


そう言ってその二人について記した紙を渡しておく。


 「は!行ってまいります。私がいない間は息子を置いておきますのでお使いください。」


 「それと可能であれば京で腐っているような職人がいれば全て引っこ抜いてこい。あ、料理人はいらんぞ。あとは国友の鍛治を引き抜けると嬉しいな。刀鍛冶では、京、大和、美濃で1人ずつ引っこ抜きたい。有名になっているような奴じゃなく、やる気はあるが目が出てない若い奴を連れてきてくれ。」


 「わかりました。出来るだけご期待に添えるように頑張ります。」

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