第2話
父は慌てた様子でこちらに入ってくる。
「松千代丸…!なぜここに?父上が大事な話があるというから遺言を渡すときが来たのかと思いましたぞ。」
「あほう、まだまだお天道様にいくのは後よ。」
そうじいちゃんがいうと父は明らかに安心した様子で胸を下ろした。
「ふん、話というのはお前の子松千代丸についてじゃ、この子は夢で八幡様に会い知識と知能を与えられておる。たどたどしいが我らと普通に会話をこなせるくらいの頭脳はある。」
「なんと!八幡様のお告げを得たのですか!」
「そうじゃ、そのために早すぎるが松千代丸に傅役をつけて好きなようにその知識を使わせてやってほしい。ワシが其方にやった事と同じよ。政務に関わらせて実績を作るのだ。勿論早すぎるなど言われると思うから先にわかりやすい実績を立てるそうじゃ。この子はワシも責任を持って後見人となろう。好きにやらせてあげなさい。」
「…。松千代丸、父の言葉を聞いても信じられぬ。お主は本当にできるのか?父は北条当主として判断せねばならぬ。」
いつもの優しい父の姿とは違う戦国武将としての父の威圧感は流石現役。一味も二味も違い体が震える。これは武者振るいだと思い込ませ笑顔を無理やりにでも作る。
「はい、必ずやお家のためになる事を約束いたします。」
そういって家臣がするように正座をして手を置き頭を軽く下げる。
「ふぅ、本当なのだろうな。わかった。傅役に叔父の幻庵をつけよう。家臣は結果を出してからだ。それでいいな。」
「ありがとうございます!!!」
俺は父北条氏康に僅かながらでも認められたことが嬉しかった。このあとは少し雑談をした後じいちゃんの部屋を後にして父と一緒に母の部屋に向かう。
「母上今まで黙っており申し訳ありませんでした。」
俺は最悪母に恐れられるのもしょうがないと思っていた。しかし、そんなことはなくただ母は黙って俺を抱きしめて頭を撫でてくれた。それがたまらなく嬉しかった。
その二日後、俺は長久保城へと着いていた。幻庵は今川と武田に睨みを効かせるために小田原に簡単にもどって来るわけには行かなかったのだ。
ついてきたのは侍女と兵士50だ。俺は道中に迷惑をかけないように大人しくしておいた。休憩の際は出来るだけ兵士と気軽に話をするようにして好感度アップも見込んでいた。
長久保城について幻庵と対面する。今回は一応嫡男ということで俺が上座に座る。と言ってもこの姿だと威厳も何もないのだが。
幻庵には既に話が通っていたのかスムーズに話が進んだ。
「さて松千代丸様、どうなされるのですか?土地がある訳でもなく長い期間がいる改革などは難しいですぞ?」
少し挑戦的にこちらをみてくる。
「八幡様に教えてもらった知識に金山の知識がある。幻庵の信頼のおける山師にその場所を探らせては貰えないか?もしくは武将でもいい。」
「勿論おりまする。ちなみにどこでございまするか?」
「土肥だ。土肥港の隣に平野と長く伊豆の中まで続く川があるだろう。そこの間の海に面した山のどこかにあるはずだ。探させてくれ。」
「わかりました。何故とは告げずに信頼できるものを遣わせましょう。」
「これを実際に見つけて家に献上すれば実績としては十分だろうか?」
「ひとまず、神童ということ。それに八幡様からお告げをもらったと言う事の信憑性は増しますな。」
「できればそれで土地を任せてもらいたい。もし、そうなるなら幻庵のいる長久保と小田原に挟まれ、信頼できる配下のいる韮山城かな?俺としては金山の開発をしながら伊豆を発展させて武田と今川から攻められても耐えられる兵力と対策をしたい。」
「ほう、ですがこの前氏康様が河東を取られ、力の差を見せつけました。簡単に攻めてきますかの?それに自慢する訳でもないですが私もいますぞ。」
「うむ、それでもいつか今川は攻めてくる。というのも河東地域は今川にとっては東海道を制するという意味でも背後を気にし続けたくないと言う意味でも絶対に取りにくる。もしくは蒲原奥に引きこもって簡単に攻められないようにするかだが、河西を取っている時点で簡単に領土を捨てられず、本拠地である駿河を攻められる河西を、渡すわけにも行かない。つまり、北条を河東からいつかは追い出さなければいけない。」
これでどうだ?と言うふうに幻庵をみる。
「まあ、合格点と言ったところですかな。金山を献上する際はここら一帯を名目上の大将として任せてもらえるように頼みましょう。実権は私が持つと言うことで周りに納得させまする。」
「それでいい。他家に目をつけられるよりよっぽどマシだ。」
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