【Ex】粉と卵の祭
「最悪だな」
「最悪だね」
二人―― 一人と一匹は悪態をつきながら笑い声をあげた。顔も服も粉まみれ肩や腕、背中にはべちょりとついた黄色や透明の液体。へばりつくのは白や茶色の欠片。
旅の途中で噂を聞きつけた小麦粉と卵を投げ合う祭だ。
色粉を投げ合い狂喜が入り乱れる祭と似ているような気がしないでもないが、賑やかしに行こうと準備万端で挑んだ。
いつかの祭のように何も知らず一張羅を極彩色にされた無様な失敗はしない――
「ゲンさん後ろ!」
「ふがぁあぁ」
はず。
リノの援護は間に合わずカワウソのゲンは卵を避けきれずに空中を舞う。べしゃりと落ちた先は、焼く前のパンケーキの生地のように成り果てた地面だ。続く玉を避けようとしたリノもぬめる生地に足を取られ尻餅をついた。
「リノよ、無様よのぉ」
「あは、ぐっちゃぐちゃぁ! ゲンさん、揚げられるテンプラみたい」
「天ぷらじゃないわいッ」
「怒っちゃダメだって。笑って笑って!」
リノの
――ずぅっと昔な、予言の神子を殺すため、見境なく全ての赤ん坊が殺されたんだ。隠しても泣き声を聞いた役人が連れていっちまう。慈悲なんてもんはなかった。恐ろしいだろう。
だから、泣き声を笑い声で隠すのさ。死んじまったもんを供養するためにも祭はやめらんねぇ。
持ち直したゲンは転がっていた卵を両手で持ち上げ振りかぶる。ぺちょと自身の頭に落ちた。小さな手では持ちきれなかったのだ。
「ぐぬははは! 卵に愚弄されてたまるかぁ」
「ゲンさん、その調子!」
太陽が真上を過ぎ屋根にかかる頃まで笑い声が飛び交い抗争を模した祭は続けられた。終わりかと思えば仕上げに爆竹がはぜる。
「なにおぅ」
至近距離で受けたゲンはリノの頭に追いすがるように避難した。
「楽しんでるねぇ」
笑う顔にぺちりと小さい平手が飛び額に黄色の花が咲く。
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