【Ex】玩具の羊

 市場マーケットが開かれた街道には所狭しとおもちゃが並んでいた。

 ブリキの馬に木でできたビーズ、毛糸で編まれた人形。色とりどりの水に浮かぶガラス玉。首を上下に降る……


「魔物?」

「守り神を魔物扱いする奴がおるか」


 華麗にやわらかな頬へ回し蹴りを披露したカワウソをリノは睨み付けた。


「いったいなぁ! 赤いし、へん……独特な模様だから、そう思っただけだよ」

「赤べこと言うんだ。元来、玩具というものは子供のために作られるものだ。例え魔物だとしても厄除けの意味を込めて作られる。敬意を示せ、敬意を」


 首に巻き付くように着地した説教くさいカワウソ――ゲンは東生まれの精霊だ。気まぐれな精霊は里心を持たないと言われるが、もしかしたら貶されたと憤慨したのかもしれない。

 だがしかし、リノだって言い分はある。


「そりゃ、ぬいぐるみとかならわかるけど、ちょっぴり不気味だったんだもん」

「旅の方! ぬいぐるみなら、うちが一番の品揃えだよ」


 二人――一人と一匹の喧嘩に割って入る声があった。ふたり――彼女らは背中の方へ首を回す。

 迎えていれてくれたのは黒、茶、藍といく対もの瞳で、どれもこれも庇護欲を誘う愛らしさだ。


「こんなのもあるんだ……」


 熊を模したぬいぐるみの頭を恐る恐る触るリノに店主は声を上げて笑う。


「どうだい、こんなにかわいいのは初めて見ただろう」

「はい。こんなにふわふわでやわらかいぬいぐるみ、初めて見ました」


 大きく頷く店主を尻目にゲンはすぐそばにある顔を半眼で眺めた。器用に片方の口端を上げ訳知り顔で指摘する。


「元来、ぬいぐるみはふわふわでやわらかいぞ」

「そうなの?!」

「お前のぬいぐるみは何でできてるんだ」

「えーと……土?」


 精霊に憐れみの眼で見られ、店主に信じられないものを見る瞳を向けられた貧乏子女のリノは知る由もなかった。

 玩具は子供のためのものだが、親の都合も多分に含まれるということを。



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