第29話 戦闘試験3
2次試合、2試合目がはじまる。
「2次試合、最後の試合はモナード・レイ殿とイーナ・ダラス殿です!」
二人が闘技場の中央まで来ると王様へ一礼した。
「初め!」
「にゃ~、綺麗な人と綺麗な鳥にゃ~」
… 今度は油断しているとやられてしまうぞ …
「わかってるにゃ、でもあの鳥さん美味しそう…」
レイさんの守護霊、ベンちゃんがビク!とした。
「ベンちゃん最大火力で行くわよ!」
ベンちゃんが上へ舞い上がりレイさんの上で翼を大きく広げた。
レイさんの足元から炎のようなオーラが立ち上がり、それはあっという間にレイさんとベンちゃんを包んだ。
「うにゃ~ 熱そうにゃ!」
「いくわよ!」
大きな炎となったレイさんとベンちゃんが一瞬で一筋の光になって消えた。
次の瞬間、イーナさんが立っている地面から一筋の光が昇り一気に大きな炎が上がった。
ゴォォォォー
控え室まで熱気が伝わってくるような炎だった。
あれでは鎧ではどうしもうもないのではないだろうか?
… ふむ、あれではだめだな …
… ええ、あれでもだめなの? …
… あやつの防御は物理だけでなく熱や冷気、魔法にも耐性があるからな。あの程度の炎ではどうにもならん …
むーちゃんが言ったように炎が治まった後には緑色の人影があった。
「ふにゃー、なんて攻撃をするにゃ~ 焼き猫になる所にゃ!」
緑の鎧が亀に姿を変えた。
たしかにぜんぜん効いていない様子だ。
元の姿に戻ったレイさんとベンちゃん。
「そんな、あれが効かないなんて!」
「ふふふん、今度はこっちの番にゃ!」
そういうとイーナさんが消えた。
その瞬間にレイさんもその場を移動している。
「ふぉ!、こやつも縮地を避けるにゃ!」
「一度見せてもらいましたからね」
さすが見ただけで真似してしまうとは有力候補のレイさん。
「もう、僕の得意技が効かない人ばっかりにゃ!」
… 次もある、さっさと終わらせんか子猫 …
「わかったにゃよ…」
その場の雰囲気が変わった。
イーナさんが身体強化をしたと思われるが先ほどの時とは比較ならない程の霊力を感じる。
… うわ~さっきよりまだ出力上げれるんだ~ 私勝てないかも~ …
… 何事もやってみないとわからないものだ …
むーちゃんとそんな話をしているとまたイーナさんの姿が消えた。
闘技場の一部が爆発したように突然くだけた。
続いて反対側が砕けた。
… これ!子猫!もっとうまく制御せんくぁ! …
亀じじいがマジ切れしている。
レイさんとベンちゃんは再度、炎に姿を変えていた。
「そんな炎は~ 無駄なのにゃ~」
炎を中心に闘技場が爆発していく。
そしてその爆発がだんだんと小さくなっていった。
爆発が起こらなくなったとき、強い風が炎の気流に乗って発生した。
竜巻が発生していた。
竜巻はどんどん大きくなりやがて炎を吹き消したしまった!
「きゃ~!」
消えた炎の上の方でレイさんとベンちゃんが実体化していた。
イーナさんも移動を止め、レイさんが落ちてくる地点で身構えている。
「行くのにゃ~」
まさに猫のように小さく縮まったらイーナさんに向かって大ジャンプをした。
レイさんもムチを構えて迎え打つもりだ。
「捕まえてしまえばいいだけですわー!」
そういうとレイさんはムチを向かってくるイーナさんに向かって放ち見事に捉えた。
「ヴゃー、捕まったにゃー」
そのまま全員地上に降りてきた。
さすがここまで残る人達、あの高さから落ちても平気な顔をしている…
イーナさんはムチでぐるぐる巻きにされ動けないでいるようだ。
… まーたく、言わんこっちゃない! …
「しょうがないのにゃ、このお姉さん強いのにゃ」
ベンちゃんが縛られたイーナさんを炎の矢と化して攻撃を行っているがまったく効いていない様子だった。
「まったくなんて防御なの!」
「それならそのまま場外に飛ばしてあげるわ!」
そう言いいとレイさんは縛ったムチを引っ張り場外に引っ張り出そうとした。
しかし、微動だにしなかった。
「く、なんて重いのよ~」
「レディーに向かって重いとか言うなにゃ~、イーナは太ってないにゃ!」
… 亀の鎧は単純に重い、それが動きが悪くなる原因だ …
… そんなに重くてあんなに早く動けるなんてチートだね! …
… チート? …
… あ、いや、ずるいってことよ …
… ずるいかはわからないがあの者と亀は相性が良いようだな …
あんなのと次戦いたくない、レイさん頑張って!
「もういいにゃ!縛られるのは嫌いだにゃ~」
イーナさんの霊力がさらに強くなっていく。
ブチッ!
縛っていたレイさんのムチが引きちぎられていた。
「霊力で作ったムチを…」
次の攻撃体制に入っていたレイさんが脱力したように立ち尽くしゆっくり手を挙げた。
「まいりました~」
!あの気の強そうなレイさんが降参するとは。
… 懸命だな、あのまま続けても勝負は見えていたからな、むしろその判断ができるのはすばらしい …
… そうだね、レイさんすごいな …
「にゃ~ お姉さんもすごかったにゃ~、あちちだったにゃー」
そういうとイーナさんはレイさんに突撃して抱き着いていた。
「いたいいたい」
「あ、亀じじい着たままだったにゃ、ごめん~」
… やれやれ、もっと落ち着いて行動せんか …
そう言うと鎧から亀に変わった。
「これでどうにゃ?ぷにゅぷにゅにゃ?」
「はいはい、楽しかったわよ」
そう言ってレイさんはイーナさんの頭を優しく撫でた。
次は、猫娘に決定か~
「決勝は、しばらく休憩の後行われます!」
休憩があるのか、リーン姉様の所でも行ってこようかな。
控え室を出てリーン姉様が居る貴賓席に向かった。
入口には護衛が立っており入れそうもなかったが一応聞いてみる。
「すみません、シャリーン様にお会いしたいのですが?」
「ん? この先は立ち入り禁止になっている。すまないが入れる事はできないんだ…!」
護衛が俺の顔をじっくり見ている。
「決勝に進んだヒロミ殿ではありませんか!」
「え、ええ」
「試合すごかったですね!どうしたらあんな動きができるんですか?」
「え、ああーなんとなくかな」
「なんとなくであんな動きができるとは!そしてなによりお美しい!」
意外とこの護衛、ミーハーだな。
そういえばリーン姉様が降霊術士もアイドルとかに弱いとか言ってたからな。
「おい、何をやっている!」
お、護衛の上司か?
「いえ、決勝進出のヒロミ様が来られましてシャリーン様に面会されたいと」
「おお!あのヒロミ様!いや~お近くで見ると一層お美しいですな~」
「ですよね~」
なんなのこの人達?
「それで… シャリーン様にお会いできますか?」
「おお、シャリーン様ですねお待ちください、お伝えしてきます」
おお、行ってくれるのかなかなか良いぞ君達。
しかし、しばらく待っている間も色々とうざかった護衛諸君。
まじめに仕事したまえよ…
そんな事を思っている内に階段を下りてくる音がした。
「ヒロ!会いに来てくれたの?」
「う、うん、ちょっと時間ができたから」
「そうなの!嬉しいわ、さあ上に行きましょう!」
「え、ちょ、リーン姉様、上は王様とかが居るんでしょ?」
「そうよ、大丈夫よ」
「いや、試合中に王様に会ってる所を他の人に見られると色々と大変そうだから」
「あら、そう?」
こういう所は天然なリーン姉様だ。
自分の身分が高い事もあるのだろうけど。
「それじゃ、あっちでお話しましょう」
リーン姉様に案内されて喫茶室みたいな所に入った。
「それにしても予想はしてたけど順調ね!」
「そうでもないよ、次の決勝で戦う相手がむーちゃんが言っていた知り合いの亀さんが守護霊でね」
「見てたわよ、あれね~ まさかあの子だったなんてね」
「知ってるんですか?あの猫人の子」
「ええ、私が
「元々霊力が強くて南の小さな街に住んでたんだけどスカウトされて王都に来たの」
「霊舞騎士団がですか?」
「いえ、降霊術ギルドよ」
「ギルドは霊力、魔力が強い子をスカウトしてそれぞれに会った職につかせて暴走しないようにしているのよ」
「そうだったんだ」
「明るい子でね、色々やらかしてたけど強くなったわね」
「リーン姉様、次の試合であの子に勝つ自信がないのです」
「そうね~元々あの子だけでも相当に強かったからね、そこに玄武様が守護霊だなんて反則級の強さよね~」
「ですよね~」
「でもね、それを言うならヒロだってすごいという事を忘れないで」
「あなたが本気をだせばあの子もまったく適わないわ」
「そんな事は…」
「あなたは力が強すぎて色々やっちゃってその力を使うのが怖くなってたでしょ?」
「・・・あの時は自分の力が怖くて」
「でもあれから物凄く修行して制御できるようになったじゃない?」
「ええ、大分制御できるようになりました」
「だから、大丈夫、私と修行の時みたいにわざと力を抑えなくてもいいのよ?」
「リーン姉様、気が付いていたのですか?」
そう、俺はリーン姉様との修行の際にリーン姉様を傷つけたくなくてかなり制御して修行をしていたのだ。
それはそれで力の制御という意味で修行になったのも本当だが。
あれから全力で力を使ったことがなかった。
「そりゃーね、あなたの師匠ですものわかるわよ」
「ごめんなさい・・・」
「!なんで謝るの? 力の制御もそうしてずっとうまくなったのでしょう?」
「はい…」
「無駄な事は何も無いからね、今日は思いっきりやっちゃってきなさい!」
「この闘技場は丈夫だし、相手も傷が付くことはないわ」
「そうですね、そう思うとどこまでできるのか試したくなりました!」
「うん、勝敗に拘らず自分の力をためしてらっしゃい!」
「ありがとう、リーン姉様」
「こちらこそ、来てくれてうれしいわ」
そういうと、リーン姉様はおでこにキスをしてくれた…
女になってから男の時にあった女性への煩悩的な感情は無くなっているがこれは女でも惚れてまうがな…
よーし、胸のもやもやもスッキリした! 決勝行ってくるか!
「リーン姉様のおかげでスッキリしました、行ってきますね」
「無理しないで楽しんできなさい」
その後、どうせ試合が終わったら会うのだから王様に会って行けと言われたがさすがに行かなかった。
控え室に戻るとレイさんとイーナさんが楽しそうに話をしているのが見えた。
「あ、来た来た」
「ヒロ様、こちらイーナ・ダラス様、私が降参した方ですわ」
「イーナさん、初めまして試合凄かったですね」
「にゃー、ヒロっちもすごかったにゃ~ 私より早い人は初めてみたにゃ」
「この後もよろしくお願いいたします」
「にゃにゃ、よろしくだにゃ!」
近くで見ると綺麗な髪とふっさふっさな耳だな、モフモフしたい…
「あの… 突然ですみませんがそのお耳を触ってもいいですか?」
「にゃ! 耳とな! 耳は敏感なんだにゃ…」
割とガードが堅いな、耳は弱いのかな?
「うーん、そしたらそっちのモフモフも触らせてもらいたいにゃ」
「モフモフ? ああ、むーちゃんの事ですね」
… これ、その方は …
… 玄武よ、良いのだ …
… あなた様がそう言われるなら …
「??? なんなのにゃ今の?」
「じ、じゃあこうしませんか?試合が終わったらお互いモフモフするという事で」
「それでいいのにゃ、楽しみなのにゃ!」
「毛を洗って待ってるのにゃ!」
… 温泉は好きだがな …
むーちゃん温泉に気持ち良さそうに浮かんでるからな。
「ほら、ベンちゃんも言う事があるんでしょ?」
… むーちゃん様、数々のご無礼申し訳ございませんでした …
!!! ベンちゃん喋れたのか!そして何その渋いイケメンボイス!雄だったのか?
… 構わぬ、隠しておったのはこちらだからな …
… もったいないお言葉 …
「にゃー、渋い声の鳥さんにゃ、やっぱり美味しそうなのにゃ」
… 落ち着かんか、まったくもう …
… 玄武よ、お主も楽しそうだな …
… 長らく他との縁を断っておりましたからのう、この者と居ると新鮮ですじゃ …
… 良い縁に出合えたようでよかったな …
… それはあなた様もでございましょう? …
… まあ、私には色々事情があるがそうだな、良い縁だな …
「まーたく、べんちゃんはこの声と見た目が全然合わなくて滅多に人前でしゃべらないんですよ」
「渋くて良い声なのにもったいないですね」
「そうでしょ、ヒロ様もそう思うしょ?」
… 私の事はどうでもいいだろう、ほらもうすぐ決勝が始まるようだぞ …
いよいよか。
「それでは、これより戦闘試験、最終試合を行います!」
「ヒロミ・ライラック殿、イーナ・ダラス殿、闘技場までお越しください」
「では行ってきます」
「一緒にいくのにゃ!」
「二人とも怪我のないようがんばってきてくださいね、応援してますわ」
レイさんに見送られて闘技場へ向かった。
パーパパパーパッパパー!
決勝だからか、ラッパが鳴らされた。
「降霊術士試験、戦闘の最終試合をこれより行います!」
「ヒロミ・ライラック殿、イーナ・ダラス殿です」
二人は闘技場の中央に来た。
いつの間にか闘技場の壊れたところが修理されていた。
その短い時間に直したのか?
「決勝に置いてはディアマンディ国、国王ディアマンディ・ファスナード六世よりお言葉を頂戴いたします」
王様が席から立ち、前に進んだ。
その奥にはリーン姉様がニコニコして立っていた。
「ディアマンディ国、国王ディアマンディ・ファスナードである!」
「この度は我が国の根本となった降霊術、その新たな術士誕生へ立ち会えたことを嬉しく思う」
「特に今回は才能あふれる者ばかりと聞いている。今までの戦闘試験を見るにその事に間違いはないと言えるだろう」
「降霊術士はその過酷な運命により一定の強さが必要になる。また人々と守護霊をつなぐ重要な使命もある、ここでの経験を活かし今後は人々の為にその力を振るってもらいたい。」
「今回合格した者も、できなかった者もそなたらの出あいはこれからとなろう、おごり、諦めることなく前に進んむがよい!」
「その真魂をもって、良き出会いがありますよう!」
!!! その真魂をもって、良き出会いがありますよう !!!
会場の全てが王様の言葉に続いた。
たしかに、良き出会いがあったのかもしれないな…
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