第27話 戦闘試験

 降霊術ギルド内の宿泊施設で一晩泊まった。

 町の宿屋とは比較にならない豪華な部屋だった。

 まるで貴族の部屋の如く…

 降霊術ギルド、儲かってるんだな…

 今日の戦闘試験会場は先日の所から更に奥に行った先にある闘技場で行われる。

 ギリシャのコロッセオを思わせる中央ステージを360度囲むように観客席が設置してある。


「さて、私はここまでだからヒロ、むーちゃん、無理しないで頑張ってね!」


 そういうとリーン姉様は俺とむーちゃんをギュッと抱きしめた。


「はい、できる限り頑張ってきます!」


 リーン姉様と別れ、控え室に移動する。

 中に入ると7名の受験者と思われる人がいた。

 その中でひと際オーラを放っていて肩に真っ赤な鳥を乗せている人が居た。

 あのスーパーモデル、ミレード・レイさんだ。

 彼女よりも鳥の方、べんちゃんが先に俺達を見つけたようだ。


「あら、ヒロ様! 無事合格されたんですね!」


「はい、なんとか」


「今日よろしくお願いしますね」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 は~ しかし綺麗な子だよね~

 思わずため息がでるわ~


「それにしても今日も素敵なお召し物ですね」


 モデルをやっているだけあって服には敏感らしい。


「ええ、リーン姉様が選んでくれたんです」


「まあ、シャリーン様が!さすが素敵です」


 今日の服はほぼ和風。

 黒の地に赤紫のバラが咲いている。

 袖の肩口が無くて腕部分に袖が浮いてついている状態。

 どうやって浮いているかはわからない。

 裾の丈もいつも以上に短く膝より結構上だ。

 リーン姉様の特殊結界で裾の中は絶対に見えないそうだ…

 ありがたいがそんな結界があったとは。

 髪にはリーン姉様が貸してくれた金色の花飾りを付けている。


「ミレード・レイさんもお美しいですね」


「レイでいいですよ」


「はい… レイさん」


「それではむーちゃんさんもよろしくお願いいしますね」


 だまって頷くむーちゃん今日も霊力を抑え中だ。


「降霊術士の皆様!おはようございます!」


 この時点ですでに降霊術士と呼ばれるらしい。


「まもなく戦闘試験が開始されます」


「ルールはご存じであると思いますが再度ご説明いたします」


「試験はここにおられる8名で勝ち抜き戦になります」


「降霊術士としての武器であれば使用可能です」


「また、申請許可されたアーティファクトも使用可能です」


 むーちゃんの事だな。


「もちろん、皆様は守護霊様と一緒に戦って頂きます」


 俺は守護霊不在だけどね!


「闘技場は特殊なフィールドになっており皆さまがお持ちの武器で攻撃しても実際に傷などは付きません、その代わり目安となるゲージあり、そのゲージが減少します。

最終的にゲージが0になった方が負けとなります。ですので怪我等は心配なさらず全力で臨んで下さい。」


「ゲージが0になるか、闘技場から落ちるか、まいったと発言される事で勝敗が付きます」


 8名でトーナメントと言う事は3回勝って優勝か。

 まあ、優勝は無理かもだけどリーン姉様に鍛えられた分はがんばるぞ!


「では、名前を呼ばれた方は闘技場へお越しください」


「皆様、その真魂を持って良き出会いがありますように!」


 これから戦うのに良き出会いなのか?

 怖い人と当たりませんよーに。


「第一試合、ミレード・レイ殿とアルード・ナイジェル殿、闘技場へお越しください」


 おお、レイさんさっそくか。

 見に行こう。

 待合室から闘技場の戦いが見れるよう場所が設けられている。

 半数ほどが試合を見る為に一緒に移動した。


⚔     闘 技 場      ⚔


「これより、新たに降霊術士となった8人による戦闘試験を行う!」


「第一試合、ミレード・レイ殿とアルード・ナイジェル殿!」


 歓声物凄い! ってこの観客はどこから?

 よく見るとみんな胸に降霊術士の石を付けている。

 これみんな降霊術士なのか…

 他は関係者で一般の観客はいなさそうだ。

 会場の一番上、良く見えるところに偉そうに座っている人達が居りあれがこの国の王様ファミリーらしい。

 王様も見てるなんて聞いてませんけど!

 闘技場に現れたレイさんと相手のアルードさんが王様に一礼する。


「第一試合、開始!」


 レイさん達の戦いが始まった。

 レイさんは今日は体にぴっちりした戦闘スーツのような物を着ていた。

 全身真っ赤で今にも燃え上がりそうだ。

 対するアルードさんは三角棒に中途半端に豪華な服で右手に銃のような物を持っている。

 まるで海賊のキャプテンだ。

 守護霊が見えないな…

 レイさんは真っ赤に染まったムチのような武器を取り出し、相手にむかってムチを振った。

 そのムチは相手の銃に絡みつき膠着状態になった。

 するとアルードさんの背中から緑色の物体が飛び出した。

 それはレイさんに向かって突進する、レイさんにぶつかる瞬間に上空から赤いものが緑の物体に向かって突進した。

 一瞬ののち、レイさんの守護霊ベンちゃんが緑色のでっかいカエルを取り押さえていた。

 あれ、カエルの守護霊だったのか。

突然の事にアルードさんに隙ができた、レイさんはそれを見逃さず絡めていた銃をムチで取り上げる。

 その後は圧倒的だった。

 アルードさんの武器と守護霊を抑えたレイさんが一方的にムチで滅多打ちにしゲージがあっというまに0になった。

 なんかムチで打たれているアルードさんは赤い顔をしていたような…

 まさかそっちの方向なのか⁉


「そこまで!勝者 ミレード・レイ殿!」


 また物凄い歓声が上がる。

 レイさん、めっちゃ強いじゃん!

 ベンちゃんも…

 どうか対戦であたりませんよーに。


「第二試合、スナッチ・メーソン殿とレイダース・ネル殿!」


 どっちも知らない人だな。

 スナッチさんは下半身が蛇になっている、いわいるナーガという種族で武器に槍を持っている。

 レイダースさんはあれは… 獣人と言われる人だな顔がライオンのような顔をしており全身に毛が生えている。体格的にはレイダースさんの方が圧倒的に良い。

 

「第二試合、初め!」


 開始と同時に獣人のレイダースさんが咆哮を上げた。

 するとレーダースさんの背後から羽の生えた鳥のようなのが出て来た。

 その鳥はレーダースさんの方向に羽を羽ばたいてそれを受けたレーダースさんの全身が光っている。

 何かかしらの結界か加護を与えているようだった。

 一方のナーガのスナッチさんも守護霊を呼び出したようだ。

 が!その守護霊はなんと羽が生えたライオンの姿をしている。

 おいおい、その守護霊逆なんじゃないの?

 しかもレーダースさんの鳥はあれってアヒルでは?

 スナッチさんが槍を構えると羽の生えたライオンがその槍に吸収される様に槍に宿った。

 スナッチさんが動いた、ライオンが宿った槍をレーダースさんに向かって投げる。

 槍は黄色く光りながらレーダースさんに向かっている。

 そしてレーダースさんに届くという瞬間。


 バシッ!


 レーダースさんのアヒルがいとも簡単に槍を叩き落としていた。

 ライオン弱いな!

 というかアヒルが強いのか?

 たしかにアヒルから強い霊力を感じるが…

 レーダースさん自身もすでにスナッチさん目の前まで移動していた。

 スナッチさんが距離を取ろうと下がった時。

 スナッチさんのでっかい腕と拳がスナッチさんの腹を捕え、スナッチさんの体がくの字になって場外へ飛んでいった。

 場外に落ちても終了なのでレーダースさんの勝ちだ。

 随分、あっさり終わったな…

 あれは絶対守護霊交換した方がいいよ…


「第三試合の方をお呼びします!」


 係員が次の試合の人を呼びに来た。


「第三試合、ナショス・ムーア殿とヒロミ・ライラック殿!」


「準備をお願いします!」


 次か…

 相手の人は、どれだ?

 ひと際背が高く立派な耳を頭からピーンと立てている茶色い毛の兎人が出口に向かっている。

 プロポーションからして女性に見える。

 あの人か、兎人は皆背が高いのかな?

 すると… 受付で会ったミーシャさんのようにあそこもでかいのか⁉

 期待を胸に闘技場へ向かった。

 

「むーちゃん、よろしくね」


 … うむ、まあ私が出張らずともヒロミ殿だけで十分とは思うがな …


「いやいや、あの兎人の人強そうだよ~」


 … 心配せずともシャリーン殿との修行を思い出せば問題なかろう、何かあったら補助するので思いきりやってみたらいい …


「う、うん、がんばる…」


 そう言われても緊張する。


「これより、第三試合、ナショス・ムーア殿とヒロミ・ライラック殿!」


 呼ばれた!

 相手は反対側から登場して来る。

 闘技場へ上がり王様へ一礼した。

 兎人のナショスさんか、おや~、そんなに胸がでかくないぞ…

 小さくもないがミーシャさんと比べると全然だ…

 ちょっと残念…

 

「それでは、初め!」


 おっと、変な事を考えてる場合じゃなかった。


「むーちゃんお願い!」


… 心得た! …


 むーちゃんが後ろに回り俺に防護の結界を張った。

 リーン姉様との修行でむーちゃんが防護の結界を張り俺が身体強化を行って攻守の能力を上げる方法で戦い方を構成できるようになっていた。

 むーちゃんの結界で体が青白く光っている。

 相手のナショスさんは…

 首に白いふわふわした毛皮のような物を巻いている。

 その毛皮が動いた。


「あ、あれは?」


… あれは兎の神獣と呼ばれるやつだな …


 おう、兎人に兎の守護霊ですか! さっきの二人とは違いこっちはイメージ通りで強力そうだ。

 兎の守護霊は首から降りて桃色に光ながら形を変え始めた。

 そしてその形は大きな桃色の戦斧になり、ナショスさんがそれを右手で握りしめている。

 見た目がかなりかわいいぞ!

 戦斧は両刃で中央下に兎の顔が両の耳がその上に戦斧の刃となっていた。

 一見可愛いが切れ味は良さそうだ。


… くるぞ! …


 ナショスさんが戦斧を振り上げ向かって来た。

 そのまま切り掛かるのかと思ったら途中で体を一回転し、そのまま戦斧をこちらに投げた!

 一つしか無い武器を投げるのか⁉

 一瞬あせったが思考加速が発動し回りが停止した。


… あ~あせったよ、あんなデカい斧を普通投げて来るかね? …


… おそらくただ投げただけではあるまい、手放しても戻ってくるのではないか? …


… え、そんなのずるい! …


 おれは思考加速をむーちゃんにも発動できるようになり思考加速時にむーちゃんと念話もできるようになっていた。

 そうする事で戦闘中でもむーちゃんと相談しながら戦えるのだ。。


… 一度避けて様子を見てみたらどうだ? …


… そうだね …


… 戦斧がどのような動きをするかわからない、避けた後も注意するのだ …


… おっけ~ …


 左の方に避けて思考加速をゆっくり解いてみた。

 戦斧は回転しながら右側を飛んで行く。

 その時、戦斧に付いている兎の顔がこちらをずっと見ていたのは少し怖かった。

 通り過ぎた戦斧はそのまま飛んで行くかと思ったら急に静止した!


… やはり来るぞ! …


 静止した戦斧はそのまま、回転もせずに刃をこちらに向けて一足飛びに向かって来た。

 明らかに静止する前より早い!

 再度、思考加速を発動する。


… 最初より全然早い速度で戻ってくるなんて普通なら避けれられないね …


… 兎の敏捷性を自身が武器になる事で生かしているようだな …


… しかしヒロミ殿であれば余裕であろう …


 戻った戦斧はそのままナショスさんの手に戻った。

 そういう仕組みなのね。


「な、なぜあれが避けられる!」


 おー、初めて聞いたナショスさんボイス!

 渋いハスキーボイスで声もイメージ通りだな。

 

「次は外さん!」


 ナショスさんは再度戦斧を構えて突進して来た。

 しかし今度は俺に向かって来ずに左側に向かっている。

 違うパターンが来るかな?

 左側でクルリと一回転し戦斧を投げた。

 今度のは戦斧が回転しておらずさっきの戻りと同じように刃をこちらに向けて飛んできている。

 しかもさっきの戻りより早い!


… いかに早くてもヒロミ殿には及ばぬ …


 思考加速に入りむーちゃんが自慢げに言う。


… でもさっきと何か違うよね …


… そうだな、注意しよう …


 飛んで来た戦斧を思考加速の中で避ける。

 戦斧の横にある兎の顔がやはりこちらを見ている。

 どうやら思考加速中のこちらの動きが兎には見えているようだ。

 動きは全然ついてこれてないみたいだけど。

 そして戦斧が通り過ぎたと思った時に戦斧が光った。


… ヒロミ殿、ナショス殿も光っている …


… 両方光るという事は何か同時に仕掛けて来るね …


… その通りだ、来るぞ …


 思考加速は中断せずに少し加速を緩やかにして様子を見た。

 すると戦斧が居る所にナショスさんが現れた!

 ナショスさんが居た所を見てみると消えた戦斧があった。


… なるほど、位置を入れ替える能力か …


 ほどなくして戦斧はまたこちらへ飛んできている。

 ナショスさんは左足で俺の頭を狙って蹴りを入れようとしていた。


… ものすごい攻めだね、ほんとに思考加速がなかったらやられてるよ …


 俺は後ろで蹴りをしているナショスさんの後ろに回り込んだ。

 ナショスさんの目を手で塞いで背中を飛んで来る戦斧の方向へ押しやった。

 思考加速を徐々に解除する。

 ナショスさんは目隠しされたことで一瞬動きが止まり対応が遅れ戦斧に向かって行った。

 戦斧はこちらの動きが見えているようで停止しようとしたがそこでむーちゃんが自身の抑えていた霊力を開放した。

 戦斧になっていた兎は突然現れた巨大な霊力に硬直しそのままナショスさんに突っ込んで行った。

 両者は激しくぶつかり、それぞれ闘技場へ倒れ込んでしまった。

 そしてナショスさんのゲージが0になった。

 観客、審判までも何が起こったのか把握できず静まり返っている。

 むーちゃんがまた霊力を抑えた事で場の雰囲気が代わり審判が気がついた。


「だ、第三試合、勝者、ヒロミ・ライラック殿!」


 その宣言に観客も気が付き歓声が上がった。

 ナショスさんはこの闘技場でなかったら死んでいただろうダメージだがここでは代わりにゲージが減るだけなので無事だ。

 ただ、ゲージが0になるとしばらく動行けなくなるらしい。

 戦斧も兎に戻ってこちらを、むーちゃんを見て震えている。


「大丈夫ですか?」


 座り込んで動けないナショスさんに声をかける。


「あ… あなた達、とんでもないわね。特にそのちんちくりん!」


 ちんちくりんとは! チンチラですよ!

 見るとナショスさんも震えている。

 しかし、むーちゃんの霊力で体は委縮しているが気力は大したものだ。


「この子はむーちゃんといいます、かわいいでしょ?」


 ナショスさんはむーちゃんを見て言った。


「ふん、うちのナースといい勝負ね!」


 ふふふ、なかなか素直な兎ではないか。

 どれどれ、医務室まで連れてってあげよう。


「な、なにをする!」


「暴れないで、医務室まで連れていきます」


「余計な事はするな!自分で行ける!」


 いやいや全身震えてるし0ゲージでうごけないでしょ。

 それにこのモフモフが…


… ヒロミ殿なにやら不穏な気配を感じるんだが …


 むーちゃん鋭いな。


「ばかな事言ってないでむーちゃんは守護霊をお願い」


… わかった …


 むーちゃんは震える兎守護霊、ナースちゃんを両手でガシっと掴んで持ってきた。

 もう少し優しくしたらと思うのだが…

 ナースちゃんは声も出ずなされるがままだった。

 むーちゃんの手助けが無かったらもっと苦戦していただろう。

 試験を受ける人達のレベルが思ったより高いと感じた。

 次は慎重に行かないとね。

 ともかく、これで1勝だね!




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