第21話 捏紫《ねし》の液

 次の朝、起きたらむーちゃん事、ツクヨミ様の分体が窓の外を眺めていた。


「むーちゃん、元気になったの?」


… うむ、心配をかけた。ヒロミ殿も大事なかったようでよかった …


「いや、これ見てよ! 一大事だよ!」


… 可憐になられて …


「え、そう?可愛いかな?」


「って違ーう!」


「その様子だと色々と知ってそうだね、むーちゃん?」


… いや、まさかそのような感じになるとは予想してしていなかったが …


… ヒロミ殿の生命を維持するのに必要だったのも事実 …


「そういえば、むーちゃんが治療をしてくれたと聞いたけど」


… この身は分体であるが故、戦闘には向かないが回復、補助はできるのでな …


 コンコン


「ヒロ、むーちゃんが起きた?」


 リーン姉様が訪ねてきた。この部屋はリーン姉様の隣の部屋なのだ。先日、元居たサイアスさんと一緒の部屋に行こうとしたらサイアスさんに拒否られ、リーン姉様はそれなら自分の部屋と一緒にと言ってくれたがさすがに恥ずかしい。そこで隣の部屋を用意してもらったのだ。


「あ、はーい、むーちゃんも目覚めましたよ~」


 ガラッ


「そう、よかった♡」


「むーちゃんも無理したから心配したんですよ~」


… ヒロミ殿、何やらお二人の雰囲気が変わったような気がするが …


「そりゃー私がこんな姿になればね~」


… いや、そういう意味ではなく …


「朝ごはんに行こう!」


「そこで皆にむーちゃんが知っている事を皆に説明してあげて」


… 了解した …


◆       客の間        ◆


 皆揃って朝ごはんを食べながらむーちゃんの話を聞くことになった。今朝のご飯は肉の味噌和え、焼き魚に御新香とみそ汁、生卵が置いてあるがまさか卵掛けご飯か?


「さだ子さんこの卵ってご飯に掛ける?」


… そう、捏紫ねしの英雄ご飯 …


 捏紫ねしの英雄、醤油も作ってたりして?


… その捏紫ねしの液と卵を混ぜてご飯に掛ける …


 捏紫ねしの液って… 少し舐めてみると見事に醤油だった。しかしネーミングが… 液って。確かに醤油って深い紫色だけどさ。


「むーちゃん、ヒロを助けてくれて本当にありがとう」


 リーン姉様がむちゃんに向かい正座で三つ指を付いて頭を下げる。


「むーちゃん、ありがとう」


 俺も真似をして正座し三つ指付いて頭を下げた。


… お二人とも、頭を上げられよ。当然の事をしたまで …


「で?なぜヒロが女の子になってるのかな?」


 リーン姉様、単刀直入だな。


… 私も聞いてはおらぬのだ、少しヒロミ殿の体を弄るとしか …


… まさかこのように可憐になるとは驚いている …


… 以前のままでは確かに魔力が体との相性が悪く十分な能力を発揮できないでいただろう …


… 今は完全に魔力と体が相まっているので本来の力が出せるはずだ …


「それはいいんですが、私は元に戻れるのでしょうか?」


… うむ、以前の体の情報は私の中に存在している …


… その情報もこれから私がヒロミ殿と一緒に経験を積む事で成長できる …


「それでは今のこの女性の体は借物?」


… いや、正真正銘ヒロミ殿の体で間違いない …


… ただ、今は男の体より女の体の方がヒロミ殿の魔力に適しているのだ …


… 最適な体で成長し時が来れば男の体でも魔力に耐える事ができるようになるだろう …


「では、いつか男に戻れると⁉」


「いやです!ヒロはもう私の妹ですから離しませんよ~」


 横からリーン姉様が抱き着いて来た。そう言ってはいるが俺が男に戻れるのが嬉しく思っている感じがした…


「あの~ 全然違う話なんですが、シャリーンさんとヒロミ殿の関係が昨日と全然違うのですが何かありましたでしょうか?」


 サイアスさんが聞いてはいけないものを聞いている感じで質問した。


「私とヒロは家族になったのです、ですからヒロは私の妹という事です!」


「リーン姉様、その説明では誰もわかりませんよ?」


「リーン姉様は私がこのような姿になっても変わらず、いえ前以上に信頼してくれました。そのようなリーン姉様だからこそこれからは家族として妹として行こうと思います」


「またその方が私が生きているという事を隠せますしね」


「なるほど、そういう事でしたか。いや、たしかに姉妹に見えますな!」


「ですので皆さま、これからは私達は姉妹という事でお願いします」


「了解しました!」


… それで今後なのだが、ヒロミ殿が元に戻る為にはこれから長く成長が必要だが他にも必要なものがある …


「成長だけではだめなんですか?」


… そう、ヒロミ殿の情報を成長させる為に霊気という力が必要なのだ …


「霊気? それはどのようにして手に入るの?」


… 霊気とは我々守護霊が持つ力の事、守護霊とは霊気の塊と言ってもよい …


… その霊気をこの私が取り込む事でヒロミ殿の情報を成長させる事ができる …


… 霊気を守護霊から取得するには守護霊に認められる事でその守護霊から分け与えられる …


「認めらるというのはどのような形で?」


… 色々あるが降霊術士であれば降霊儀式を行い霊を降ろしてやる事で得られる …


… 他には敵対する守護霊、またはその契約者を屈服させる事でも得られる …


「敵対する守護霊… 敵対してない守護霊はだめなの?」


… 守護霊に認められなければ得られないので普通の守護霊を力で屈服させてもその守護霊からは認められる事はない …


「なるほど、そして敵対する守護霊は倒す事でその力を認められる事になると?」


… その通りだが、必ずして戦わずとも守護霊が力を認めれば霊気を得られるだろう …


… 当然だが力が弱い守護霊からは弱い霊気が強ければより多くの霊気が得られる …


「そうすると、ヒロはこれから降霊術士として儀式を行っていけば元に戻れるのですね?」


… 幸いヒロミ殿はこれから降霊術士になるのだろう? …


「ええ、その予定です」


… 捏紫ねしの降霊術士となれば力のある守護霊と出会う事も多いだろう、捏紫ねしの属性を存分に利用するがいいだろう …


「わかりました、まずは降霊術士試験ですね!頑張りますよ。ヒロ!」


 試験があったんだったな~苦手とか言ってる雰囲気じゃないし頑張るしかないか。


「よろしくお願いします!」


「お料理修行もがんばりますよ~」


「え、お料理⁉」


「女の子になったからにはお料理もできないとね♡」


「えー でもいつか元に戻れるかもだし…」


「だ、め、で、す!」


「はい…」


 料理かぁ~ 嫌いじゃないだがあまり経験がないからな。


「ヒロミ殿、毒料理は勘弁してくださいね」


 サイアスさん、家の食事状況を知っていたようだ。


「では、私の初めての料理はサイアスさんに頂いてもらいましょう~」


「いいですね~ 毒草とかはさだ子さんに聞けば手に入りますからね」


… この辺の毒草は強烈なのが沢山ある …


「さだ子さ~ん」


 この体になっても以前のまま毒耐性があるのか?後でステータスを見てみないとな。


「そうしたら今日はヒロの能力を見てみましょうか」


「はい」


「私は食材を調達に行ってきます、普通の食材を!」


 割と必死になってるサイアスさんであった。


⚔      修 練 場       ⚔


「では、前と同じで追いかけっこをしてみましょう」


 リーン姉様、今日は扇子の他に自分の刀も持ってきている。


「ヒロの能力はその体になった事により以前とはかなり違っていると思いますので私も本気で行きますね」


 なるほど、そういう事か。たしかにむーちゃんに作ってもらった剣、捏紫ねし白月剣びゃっきけんも以前とは別物じゃないか?というくらい馴染んでいる。刀身が細くなっていた。その刀身を捏紫ねし色のオーラを細くなった分の刃のように纏っていた。


「ではいきますよ~」


 そういうとリーン姉様はその場から消えてしまった。俺もその姿を捕えようと構えたその刹那、世界が止まったような感覚があった。そして周りを見ると修練場の離れた所にリーン姉様が空間から出て来ようとする姿が見えた。

おー、縮地って本当に空間を移動してるんだ… そこに向かい移動してみる。

 以前とは違いほとんど抵抗が無く動く事ができるようだ。ただ、動くと止まっていた世界も少しづつ動いて行くようだ。リーン姉様の所に辿り着く頃にはリーン姉様は完全に空間から出てまた次の場所に移動すべく空間に入るところだった。


… おしいな …


… おしい …


 見ていたむーちゃんとさだ子さんが同時に言った。


「次こそ!」


 再度、止まった世界に入った。リーン姉様はまた離れたところでさっきよりはまだ空間から出ていないかった。

 

 よし、今だ!


 リーン姉様の胸に飛び込む思いで移動した。


「きゃ!」


 次の瞬間、本当にリーン姉様の胸に飛び込んでいた。むおー 初めて女性の胸に顔をうずめてしまった!!!しかし、煩悩的な感情は沸かずほっとする気持ちがあった。女になっているからだろうか?


「こんなに早く捕まるなんて、予想以上ですね」


 そういうとリーン姉様はそのまま優しく抱きしめてくれた。

 優しく甘い匂いがした…

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