第20話 二つの山
「君、むちゃするね~?」
当たり一面真っ白な世界… やはりここに来たか…
「ここに来たってことは死んだのか?」
「ん~ どうだろうね~」
「なんだそれ?」
「もう~ びっくりして慌てて戻って来たんだよ~」
「せっかくトロピカルエンジェルテンプテーションを飲んでたのに~」
「何それ、美味しそうだな?」
「でしょ~ 天使が作る特別なカクテルでね~」
「いや、カクテルの話はいいよ!」
「俺はこれからどうなるんだ?」
「どうしたい~?」
「選べるのか?」
「まあ、あの娘を守った訳だしね~」
あの世界に転生して15年… もう地球に戻る気はしないな…
「そう?そう言うならまたシャインメグードに送ってあげるよ~」
「いいのか? 死んだことになってるのでは?」
「まだぎりぎり生きてるよ~」
「そうか…」
戻れるならあの世界で、そして彼女の傍で居られればいいな…
「それじゃ、頼もうかな?」
「OK~」
「ぞっこんだね~?」
「人の心は読まないように!」
「ただ~ 今回の件でわかった事があって~」
「え、何?」
「ちょっとこのままでは厳しいからさ~」
「そこらを修正してあげるよ~」
「だから、何が?」
「おっと、ほら彼女が待ってるよ~」
「おお~い!」
「そんじゃ、今度は気を付けてね~」
「そのうち私もそっちに行けるようになると思うからそれまで頑張って~」
「そのうちじゃなくて直ぐ来いや~! この自称神様!」
パカーン!
「あいた!」
また叩きやがった!光が溢れて来て何も見えなくなる。
… 本当に気をつけてね …
◆ ◆ ◆
「うう…ん?」
・・・
「知ってる天井だ…」
戻ってきたらしい… なんだかんだ言っても神様か… 天照…
「ん? 左手が動かない?」
見るとシャリーンさんが左手を掴んまま寝ていた。シャリーンさんにも心配かけたな…同じことが起きないように強くならないとな。
そっとシャリーンさんの髪を撫でる。あれ?俺の手こんなに華奢だったか?それにお腹の当たりが何か重い… お腹に手をやると…
何やらモフモフした毛が生えている!
「うぉ!」
ビックリして体を起こした。むーちゃんがお腹から転げ落ちてそのまま大の字で寝てる。むーちゃんか、びっくりした!シャリーンさんもまだ起きない。
「皆も疲れたんだな…」
それにしてもまだ胸の当たりが重いんだが?胸がなんか…
何これ? ま、まさか⁉
そこには見慣れない二つの山が聳え立っていた… 両手で聳え立つ山を掴んでみる…
「むぉ!」
む! 胸が生えとる!!
あの!自称神様! まさか思わせぶりな言い方はこの胸か!! 男に胸とかニューハーフにでもなれって言うのか!
い、いや…まさか、考えたく無いが… これは… そっと下の方に手を置く…
無い!!!!
俺の思春期なあれが無い!!!! いや、思春期はどうでもいい!鏡、鏡はどこだ⁈
シャリーンさんの手をそっと手から外して部屋を探した。鏡は無かったが窓に全身が映っていた。そこに居たのは見た事もない少女の姿だった…
髪は黒か?ショートで横髪だけが肩くらいまで長く垂れて目はパッチリして赤い目に見える。背はシャリーンさんと同じくらいか… しかし、胸が… シャリーンさんより大きくないか?その為か体は華奢に見える。ボーイッシュな感じで男の俺にどことなく似ていた。
「な、なんじゃこりゃー!」
「はっ! な、何事⁉ ヒロミ様は?」
今の声でシャリーンさんが目覚めたようだ。シャリーンさんがこっちに来る。
「ヒロミ…様?」
「シャリーンさん…」
「どちら様でしょうか?」
「ヒロミです…」
「妹様ですか?」
「いや… 本人で…」
「はい?」
「どうも、自称… 天照に変えられちゃったみたいで…」
「何を?」
「性別を…」
「はい?」
そうなるよね、自分でもわけわからんわ!修正ってこれか!!!
… どうした? …
騒ぎを聞いてさだ子さんが入ってきた。
… なんで女になってる? …
「さだ子さんこの子がヒロミ様なのですか?」
… 魔力が同じ …
「あ、そうか…」
じ…
シャリーンさんがまじまじとこちらを見る。
「た、たしかにヒロミ様の魔力…」
「では本当に変わってしまったのですか?」
「そのようです…」
「ちょっと失礼します」
そういうとシャリーンさんは俺の浴衣の帯をスパッと取り、前を開けた!
「ちょっ!シャリーンさん」
シャリーンさんは俺の二つ山を鷲掴みにした。
「本物だ…」
「確かめ方!」
「! …」
シャリーンさんの顔が真っ赤になった。
「す、みまません!つい」
◆ 客 間 ◆
一同は客間に集まった。
「して、この方があのヒロミ殿だと?」
見回りに出ていたサイアスさんも戻り例の如く、見事な正座で座っている。
「はい…」
「死にかけて、天照様にお会いになり目が覚めたらそうなったと?」
「はい…」
「たしかに創造神で有られる天照様ならそのような事は可能でしょうが…」
「ですね~」
お茶を差し出しながらシャリーンさんが言った。
「なぜ女性に変えられてしまったのでしょうか?」
「なにか判明した事があったみたいで修正すると…」
「修正ですか…」
「天照様の弟君であられるツクヨミ様なら何かご存じかもしれませんが…」
「むーちゃんはまだ寝てますね」
むーちゃんは俺の生命維持を行うのにかなり力を使ったようでまだ起きてこない。
「あの怪我で生きていられた事だけでも奇跡なんでしょうけど… なぜ女性化なんでしょうか? ヒロミ様がこれでは私はどうしたら…」
「え?」
シャリーンさんの顔が赤くなった。
「い、いえ、ほら修行は男性としてのヒロミ様用だったので…」
そうだったのか?女性用とかあるのか…
「ミーちゃんはなにかわかりますか?」
… わからにゃいにゃ~ …
… でも、前より魔力と体のバランスが不自然じゃないにゃ~ …
え、男の時の方がバランスが悪かったのか?
「男の時より今がいいと?」
… そうだにゃ~ 全然こっちがいいにゃ~ …
「修正ってそういう意味だったのかな…」
「つまり、ヒロミ様の魔力と適正を合わせる為に女性の体が良かったと?」
「確かに以前のヒロミ様より馴染んでいる感じはしますね…」
「でもだからと言って女性化なんて!」
なんかシャリーン怒ってない? 俺が女になった事で何か支障があるのかな…
「ですが、襲って来た刺客もヒロミ殿を消したと思っていますのでこちらも動き易くはなりますな」
… そうだにゃ~ それにヒロミ自身もそれだけ魔力が馴染んでいるなら前とは比較にならない動きができるはずにゃ …
そうは言っても、女ですよ! 前世から今まで65年を男で過ごしてこれから女なんて…
理解が付いていかん…
「ヒロミ様! 足!」
「え?」
足が何か? あ、男のままの癖で浴衣のまま胡坐をかいていた。
「おっと!」
浴衣を直し、正座した。サイアスさんもあっちを向いている。
「すみません、まだ慣れないもので…」
「もう… 降霊術士の修行の前にヒロミ様には女としての修行が必要ですね!」
「え~」
「え~ ではありません!さあ、行きますよ!」
「さだ子さん、夕飯の準備お願いしてもいいですか?」
… ん、まかされた …
「では、わたしはむーちゃん殿の様子を見てきます」
サイアスさんはそそくさとミーちゃんと客間を出て行った。
「さ、こちらへ」
シャリーンさんは俺の手を引き客間から連れ出す。
「ここは… シャリーンさんの部屋では?」
「そうですよ、さ、どうぞ」
シャリーンさんの部屋、初めて入るな… 8畳ほどの畳部屋だ。床の間がありシャリーンさんの刀と扇子が飾られている。窓がある壁には鏡台と文机が置かれている。その横には先日来ていた和服が飾られていた。
シンプルな和室… 穂香に甘い香りがする。だが、床の間の掛け軸が…カタカナで 「モフモフ」 と達筆な筆で書かれている。
「しゃ、シャリーンさん、この掛け軸は?」
「さだ子さんに書いてもらったんですよ~ 良いでしょ?」
「良いと言いますか…奇抜ですね…」
「なんでも動物を愛する言葉だそうで気に入ってるんですよ♡」
そんな満面の笑顔で言われたら何も言えない… さだ子さんわかってて描いてる気がするな…
「さて、それではまずは身だしなみから始めましょうか?」
「は、はい…」
鏡台の前に座らせられ、自分を良く見るように言われた。
「これが… 俺?」
髪の色は黒ではなく、深い紫色。つまり
「ヒロミ様、俺ではなく、女性ですから私ですよ」
おっと、つい自が出てしまった。
「はい…」
「本当に… 本当によかった…」
「シャリーンさん?」
シャリーンさんは鏡を見ている俺を背中から優しく抱き抱えた。少し震えている感じだ、泣いてるのかな?
「私を守る為とはいえ、あんな無茶を…」
「すみません」
「本当ですよ!死んでしまったのか思ったのですから!」
「でもさすが天照様の契約者ですね、あの傷から立ち直るなんて」
「ええ、でもとんでもなく変わっちゃいましたけどね…」
「それに関してはなんとかなるかもしれませんね」
「何か解るんですか?シャリーンさん」
「… ヒロミ様、もうさんはいらないですよ、シャリーンと呼んでください」
「では、私もヒロと呼んでください」
「それはできません!」
「いやいや、私の方だけ呼べませんよ!」
「それにヒロと呼ぶのは家族や親しい人だけですから… お願いします」
「わかりました!私も家族という事でこれからはヒロミ… ヒロの事を妹として扱いますね♡」
「はい、シャリーン姉様」
「私の家族はリーンと呼びますよ」
「リーン姉様ですね」
「よろしい!」
「さあ、続きをしますよ」
「あ、さっきの何とかなるというのは?」
「天照様のなさる事ですから何かしら意味があり、このままではないと思うのですよね…」
「ま、むーちゃんが復活すれば何かしらわかるとおもいますから今はこちらに集中しましょ」
「はい…」
それから、夕食その後寝るまで女性としての在り方や振る舞い、化粧や着物の着付けまで教えてもらった。シャリーンさん… いやリーン姉様か、儀式で会った時から運命のようなものを感じる。リーン姉様も俺の事を悪くは思っていない様子だし、いや師匠なのだから弟子として可愛がってくれてるかもしれないがそれ以上の感情も感じる気がする。
俺の願望かもしれないが…
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