第19話 止まらぬ剣

 本日も本日で修行である。先日むーちゃんに作ってもらった「捏紫ねし白月剣びゃっきけん」を使いシャリーンさんとの追いかけっこだ。しかし、剣によってかなり制御できるようになったが今一歩及ばない・・・


「もう少しなんですよね…」


 逃げながらシャリーンさんが呟く。


… もう少しなんだがな …


 むーちゃんまで!


… もう少し …


 さだ子さんまでも! って前にも同じような展開がありましたよね!


… ヒロミ殿の魔力からすれば今の数倍は早く動けるはずなのだが …


… 魔力が空回りしているようだな …


 そうなんだよね… 剣のおかげで出力を上げても暴走はしなくなったがある一定まで上がるとそれ以上は力とならず抜けてしまうのだ。


… どうも魔力と体に反発があるように見えるな …


「体が拒否しているんでしょうか?」


… 幼い頃から鍛えられたヒロミ殿の身体なら十分にその膨大な魔力を扱いきれるはずだが魔力がその体に浸透していないのかもしれぬな …


 異世界人というのが関係するのだろうか…


「今のままでも降霊術士としては十分な実力なのですが、ヒロミ様は捏紫ねしの属性ですからそれ以上の力も必要ですね… 狙われる事も多いでしょうし」


… そうだな、今のままだと多勢で襲われた時に不覚を取るかもしれない …


 え~ なんか盛大なフラグ立てるのやめようよ~


「ヒロミ殿~!」


 ほら、来た! 狩りに出ていたサイアスさんが慌てて戻ってきた。


「どうしたんですか?サイアスさん」


「シャリーンさん、王都より連絡がありこの場所の情報が漏れた可能性があると」


「それは…」


「大きな魔力をこの場所から検知したとの事で王都で検知したという事はヒロミ殿を狙う者達にも検知された可能性が高いと」


 ああ~ 修行初日の魔法感知で広範囲を感知して倒れたあれか~


「ヒロミ様が初めて魔法感知を行った際の魔力ですね…」


… ヒロミ殿の魔法感知でそのような事が? …


「はい、ここからかなり離れたヒロミ様の実家まで感知できたらしく」


… ふむ、その時の魔力を察知された可能性があるか …


「ヒロミ殿を狙う者が来るのも時間の問題でしょうね」


「ここは結界があるので入れませんが狩りに行かないと食料がないですから来たら撃退するしかないでしょうな」


 サングラスで感情がわからないサイアスさん。


「敵が来てもヒロミ様はこの結界から出ないでくださいね」


「え、でも…」


 自分の為に他の人が危ない目に会うのに自分だけ隠れるのはいやだな。


「でも、ではありません、狙いはヒロミ様なのですから結界から出たら相手に付け入れられますよ!」


「は、はい…」


… 来たよ …


 さだ子さんがサイアスさんが帰ってきた方向の森を見て行った。


「もう?」


「早いですね、さだ子さんどのような敵か確認をお願いします。私は武器を取ってきます」


 そういうとシャリーンさんは家の中に入って行った。


… 大型の獣が10以上、人のようなのが5で2が獣の近くに居る …


… 獣を操るか、魔族だな …


「むーちゃん、魔族は獣を操れるの?」


… 自分の魔力で魔獣とし、ある程度操れるな …


「お待たせしました」


 さだ子さんから説明を聞いているシャリーンさん、手には先日言っていた刀を持っていた。なるほど、黒いな。全身に赤い花と鳳凰の意匠が施してある見事な刀だ。


「では、獣はサイアスさんとミーちゃんでお願います」


「私は他の刺客を撃退します」


「ヒロミ様はここで待機、むーちゃんはヒロミ様をお願いします!」


「さだ子さんも結界の強化をお願い」


… わかった …


「シャリーンさんお先に行きます」


 短剣を両手に構え、どっかに殴り込みに行きそうな様子でサイアスさんは結界の外に向かった。


「くれぐれも結界から出ないでくださいね!ヒロミ様!」


「は、はい! お気をつけて!」


 これから戦いに行くとは思えない程の可憐な笑顔でニッコリしてその場から一瞬で消えてしまった。そういえばニニギさんはどうしてるんだ? こんな時に。


「ニニギさんは居ないんですかね?」


… ニニギか? すでにサイアスと先に行っているな …


 おお、来てたのね。


 ドドーン!


 結界の外で大きな音がしてる。皆が向かった方向に結界ギリギリの所まで来てみた。大型の獣、いやあれは魔獣だなここに来る時に散々見た魔獣と同じように体に光る線が入っている。

 魔獣達が暴れたせいか木々が倒され見通しが良くなっている。中位の大きさの魔獣が2匹、その背に人らしき者が乗っている。


… ニャー!! …


 青白い物体が回転しながら大型の魔獣を一気に3匹切り倒した。サイアスさんは獣に乗っている二人を牽制している。こちらは大丈夫そうだ。

 左側、ここから近いところで剣を交わす音がする。


 キーン!


 シャリーンさんが残りの3人を相手にしているようだ。人と思われる敵は黒い服でフードをしており顔は確認できない。それぞれ、剣と弓、杖を持っている。

 シャリーンさんは右手に刀を構え、左手にいつも持っていた扇子を開いて持っていた。そこにも赤い花と鳳凰の絵があった。刀は刃が紫色の光を帯びている。それにしてもこの人は何をしても絵になるな~

 剣を持った相手と対峙しているシャリーンさん、徐々に背後に居る杖を持った者を対局する位置に移動している。完全に剣と杖に挟まれた瞬間にシャリーンさんが消えて杖を持った者の真後ろに現れた。杖の敵は気が付く間もなくシャリーンさんの刀で切られていた。離れた木の上に居た弓を持った者が咄嗟に弓をシャリーンさんに放っていた。


「あっ」


 と俺が思わる声を上げたがシャリーンさんは軽く左手の扇子でその弓を横から捉えてそのまま弓を放った敵に投げ返している。しかも放った弓が消えたように見えた。

 瞬間、弓を放った敵の背中に弓が刺さっていた。あれも縮地なのだろうか… その動きはまるで舞っているようだった。後は剣を持った敵のみ。


 ところで、ニニギさんはどこだ?さっきから姿が見えない。あ、魔力感知してみるか。シャリーンさんの近くを感知してみると左側の方で二つの存在を見つけた。さらに集中すると姿も見えてきた。

 一つは大剣を構えた熊のような姿をした守護霊だろうか、その前にニニギさんが居た。ニニギさんは左手に大きい葉っぱを持っていた。まるで天狗の団扇のような葉っぱだ。ニニギさん天狗だったのか…

 熊のような守護霊はその姿では想像できない速さで大剣をフェンシングのようにニニギさんに突き立てまくっている。ニニギさんはそれを葉っぱで反らし、時折その葉っぱから光る何かが飛び出し熊に突き刺さっていた。熊に光が刺さる度にシャリーンさんと戦っている剣の敵が動きが悪くなっている。あの剣の敵の守護霊なのだろう。

 んん? じゃああの少し離れた所にいる黒い靄はなんだろう?


… ヒロミ殿! まずいぞ! …


「ど、どうしたんです?」


… さだ子が感知できない敵が居たようだ …


「それってあの黒い靄ですか?」


… 見えるのか?ヒロミ殿 …


「はい、もやっと見えます」


… 隠蔽に特化した敵のようだな …


「シャリーンさん気が付いてないのでは?」


… 見えていないだろうな …


「大変じゃないですか!」


 黒い靄がシャリーンさんに向かって動きだした。くそ、ニニギさんも見えてないのか… 思わず、シャリーンさんに向かって走りだした。


… ヒロミ殿!! …


 黒い靄に向かいながらむーちゃんに作ってもらった剣を構えて突っ込んだ。思考加速で時間がゆっくり過ぎて行く。黒い靄を剣で切り払う。


「この!こそこそ隠れやがって!」


 !! 手応えがなかった。

 そのまま黒い霧を通り越してシャリーンさんの傍まで来てしまった。黒い霧は異形の黒い剣に形になっていた。やばい、このまま避ければシャリーンさんに当たってしまう!

 剣ではまた通り抜けてしまう可能性がある!一か八か体をできる限り身体強化して黒い剣の前に立ち塞がった。黒い剣を両手で挟むようにして受け止める。触る事はできたが。

 だ、だめだ… 滑る… 黒い剣の表面は黒い霧の膜で覆われており止める事ができなかった。剣はゆっくり俺の胸に入り込んで行く。思考加速でその瞬間が永遠にも思える時間でゆっくりと…


「ヒロミ様!!!」


 シャリーンさんの声が聞こえる… という事は思考加速は解けたのか…

 どうやらあのまま倒れてしまったらしい。


… 目的は成した、散れ …


 暗く籠った声がした。胸に刺さった黒い剣は無くなって赤いものが見えた。


「ヒロミ様、しっかりして! どうしてこんな… …」


 シャリーンさんの声が聞こえ難くなってきたな。このまま死ぬのか…まあ、彼女を守れてよかったよ…不思議と死に対して抵抗が無かった。地球から転生した時の間隔に似ているからだろうか?またどこかに転生するのかな…


 それも…  いいかも…   な…

 







 

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