第18話 サイアスの眼鏡

 むーちゃんに霊気からアーティファクトを作ってもらった。しかも、捏紫ねしの英雄が使っていたという剣を使って。そして刀身に輝く Hiromi no ken という文字!こちらの世界の言葉ではないので他の人にはわからないが俺にはバッチリ意味がわかりちょっと恥ずかしい… 作ったむーちゃんは疲れ果ててシャリーンさんの腕の中でぐったりしている。シャリーンさんは動けないむーちゃんを介護と称し優しくモフっている。

 

… その剣は捏紫ねしの魔力と相性が良い、その剣を体の一部として認識して魔力制御をやってみるのだ …


「体の一部としてですね… やってみます」


 皆から少し離れた場所に立ち、剣を両手で握り刃を上に真っすぐ立てて構えた。剣を手にした時から感じていたが凄くなじむ感じがする、ただ何か剣との間に隔てるような感覚が少しあるんだよな…とりあえず魔力循環をやってみる。剣を体の一部と思う…


「!」


… 感じたか? その剣は魔力を溜め込む事もできる。ゆえにヒロミ殿の制御しきれない魔力を剣に預けてしまえば制御は容易になるはずだ …


 たしかに剣に魔力を吸われてる感じがある… これなら行けそうか?ゆっくりとした循環から徐々に早く、大きくしていく…


「いいですね、とてもスムーズな感じです!」


 前みたいに不安定じゃないな、力が巡っているのがわかる。体と剣から光が溢れてきた。ただ前のように漏れ出している感じはしない。光の膜が覆われているようだ。


「そこです!そのままその光を体にまとうように固定してください!」


 言われるがまま、光を体に吸い付けるような取り込むようなイメージをした。


 スゥーーーーーー!


 全身を覆っていた光が体に吸い付く形で体の中に消えて行った…


… できたようだな …


「ええ、それです!ヒロミ様!それが身体強化です」


「前の時には違い、力を暴走させずに利用する事ができるはずです」


 試しに修行場の端に向かい軽く移動してみた。おお!なんだこれ⁉

 なんか回りの動きがとても緩やかに見える。しかし足元が滑りやすく感じた。滑らないように慎重に進もうとすると脚元に抵抗を感じ進む事ができた。気が付くともう修行場の端に来ていたので慌てて止まる行動をした。足元が滑るかと思ったがしっかりとした踏み込みができるようでピタっとその場に止まった。


「え、ヒロミ様いつのまにそちらに⁉」


「少し移動しようとしたら回りがゆっくりになった感じで気が付いたらここに居ました」


… 自身と思考回路も強化され精神が加速されたのだな …


「どういう事でしょう?」


… 精神が加速なれると同じ時間の中でも多くの動きを把握する事ができる …


… またその精神加速について行けれる身体能力があればその世界で自由に動ける道理だ …


「つまり早く動けるようになったと?」


… まあ、そういう事になるな。しかしただ早く動くだけでは先日の床石を飛ばしたヒロミ殿のようになる …


… 剣の力を借り、魔力を制御する事で必要な所のみ力を注げるようになったのだ …


「これが身体強化なんですね!」


「ま、まあ普通の身体強化とは随分違いますがそうですね!」


「普通の身体強化であの速さはでませんので」


「シャリーンさんの縮地瞬間移動もこの原理ですか?」


「いえ、私はスキルなので違いますね。縮地は目的とする場所の空間を縮める能力です。ヒロミ様は身体強化しての高速移動ですね」


 縮地ってスキルなのね…


「ですが縮地と変わらない速さでの移動、また移動距離も縮地より長い距離を移動してましたので次に追いかけっこをしたら捕まってしまうかもしれませんね」


 縮地の移動距離は決まってるんだな。


「むーちゃん先生!この身体強化を解くにはどうすればいいんでしょうか?」


… 先生・・・ うむ、ヒロミ殿は剣による補助をしているので剣の魔力を閉じてやれば解除するだろう。剣に魔力を閉じるイメージ、もしくは鞘に納めるイメージをしてみよ ・・・


 この剣はこのままだとどう見ても鞘には入らないよな…魔力を閉じるイメージをしてみるか。剣に流れる魔力を切断しその吸収した魔力を剣に閉じ込める。


シャッ! キーン・・・


「おお、剣が・・・」


 剣に絡みつく感じの意匠が剣に沿って延びて刀身を隠してしまった。今までの見た目からずいぶんスッキリした感じになり持ち運びもよさそうだ。同時に体にあふれていた力が抜けた。


「この力が抜ける感じはきついですね」


 疲れてはいないが羽のような軽さを感じていた体がズシリと重さを感じる。


… 何度かやれば慣れるだろう …


「ヒロミ様の強化はかなり強いのでその反動も強いかもしれませんね、慣れるまで慎重に動くようにしてくださいね」


「わかりました」


… その剣はヒロミ殿を持ち主として認識している、他の者では使用しても本来の能力は引き出せないだろう …


 Hiromi no ken ですからね!これで他の人が使えたらおかしいよね。


「綺麗な剣です、鞘に収まっている姿は私の剣に似ていますね。色は違いますが」


「シャリーンさんの剣はどのようなですか?」


「私のは黒い剣ですね、片刃で少し湾曲していて捏紫ねしの英雄が考案した刀という剣です」


 日本刀かな?


「その刀はニニギさんが作ったんですか?」


「いえ、ニニギにはその剣に霊気を刻んでもらいました」


「むーちゃんと同じようなものですね、すごいなニニギさん」


「ヒロミ様のその剣程ではありませんよ」


「今度見せてもらえますか?」


「いいですよ、というか修行が進めば使う事になるので見れますよ」


 え、真剣で模擬戦とかやるんですか?ちょっと怖い…


「今日は、むーちゃんもこんな様子なので終わりましょうか」


「明日からはその剣を使って修行ですね」


「はい、がんばります」


♨    そ の 夜    ♨


 捏紫ねしの湯にて狩りからもどったサイアスさんと疲れを取っていた。


「ヒロミ殿もアーティファクトを手に入れたんですな~」


「ええ、でも正確にはむーちゃんは私の守護霊ではないので借りてる感じでしょうか」


「なるほど、しかしその代わりの守護霊があのツクヨミ様とはさすが天照様と契約されただけはありますね!」


 あいかわらず温泉でもサングラスを外さないサイアスさん。そのツクヨミ様、むーちゃんは大の字でお湯に浮かんでプカプカしている。


「あ、そういえばむーちゃん!」


… なんだろうかヒロミ殿 …


「むーちゃんのステータス見ていいですか?」


… ステータス、天照が与えた能力を見る力か …


「はい、全てが見える訳ではなく私の状況によって見える情報が違うみたいで」


… 天照らしいな・・・ どんな情報が見える分からないがどうぞ …


 どうもこのステータスは適当な感じがするんだよな… 自称神様だしな…


「では、さっそく」


 湯に浮かぶむーちゃんを魔力感知する。


 <守護霊?>

  月読命ツクヨミノミコト

  通称 むーちゃん

  属性 神属

  憑依体 チンチラ像

  能力 ****

  天照の弟 ヒロミを守る者 分体

  捏紫ねしの白月剣創造者

  モフられる者


 情報少ないな!最高神の一人なのにこれだけ?隠されてるのか…


捏紫ねしの白月剣… これって」


… ヒロミ殿の剣だな …


「名前あったんですね」


「おお、ツクヨミ様のお名前が入ってますな!」


 いや、刻まれてるのは Hiromi no ken ですけどね!はっ! まさか…


「サイアスさん、ちょっとそのサングラスを良く見せてもらっていいですか?」


「え、こ、これをですか?」


「このままで良ければ… どうぞ」


「失礼して…」


 裸で元おっさんがおっさんに近寄るのはすごい抵抗があるが。考えが正しければあるはずだ!サイアスさんのサングラスを近くから良く見てみる。柄の横にあった!!

 サイアスの眼鏡 と刻まれていた… やはりか… しかも日本語で漢字でとかどっかの眼鏡店のサンプル品か!作ったのはミーちゃんだよな、さすが日本で知られる招き猫か。どうやらアーティファクトには何かしらの文字が刻まれているらしい。しかも地球の言葉で…


「ど、どうですか?」


 サイアスさんが頬を赤らめている…おう、ちょっと近づきすぎたようだ。絵面がやばい…


「サイアスさんのサングラスにも文字が刻まれていますね」


「ええ、良くきがつきましたね。なんでも神々が使う文字で書かれたものとかで所有者が私という意味が刻まれているとミーちゃんから聞いています」


「え、ええ、そんな感じに書いてありますね」


「ヒロミ殿、この文字が読めるのですか?」


「ええ、なんとなくですが…」


 はっきりと意味は言わない方がいい気がする。それにしても守護霊、もう少しオシャレに刻もうよ… 作ってもらった本人が喜んでるからいいけどさ。このぶんだとシャリーンさんの剣にも刻まれてるな絶対…


… ヒロミ殿、して他は何かわかったのだろうか? …


「ああ、すみません衝撃の法則を見つけてしまって」


… 法則? …


「いえ、なんでもありません」


「えーと、むーちゃんのステータスですが…」


「あんまり情報がありませんね? しかし、分体ってなんでしょう?」


… それが見えてしまったか …


「というと?やはり隠された情報があるのですか?」


… 高位の守護霊は自身の情報を隠す事もできる …


… その霊より力が近くなれば見える情報も増える …


… または霊との信頼が大きくなれば見えてくる情報もあるだろう …


「私とムーちゃんはまだそこまでの関係ではないという事か…」


… いや、ヒロミ殿に関しては天照が絡んでいるので意図して隠されている可能性もあるな …


 なるほど、自称神様だしな…


… 必要になれば見えるようにもなろう …


「分体というのは?」


… うむ、実はここに居るのは私の本体ではない …


… 私はこの世界では名が知れているのでな、私の気配で情報が漏れないよう分体でここに存在しているのだ …


「分体で本体の存在を隠しているという事ですね?」


… うむ、分体なので能力にも限界がありあの程度の創造で力が尽きてしまったが …


 それって守護する力も弱いのでは…


… なに、ヒロミ殿が成長すればその力で我が存在も隠せるようになるので共に力を付けて行けばよい …


「が、がんばります…」


… さて、私はそろそろ上がるとしよう …


 むーちゃんは器用に背泳ぎで泳いで湯から上がった。その姿は、お湯で全身の毛がしぼんでほっそりした体になったチンチラとは思えない生物が居た…



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