第17話 アーティファクト

 むーちゃん事、ツクヨミ様が守護霊として来てくれた。いや…守護霊とは言ってないんだよな。俺の守護霊は天照アマテラスだからツクヨミ様はどうなるんだろう?一同はとりあえず部屋へ戻り、広間で状況を整理する事にした。


「むーちゃんは私のではないんですよね?」


… さよう、私はヒロミ殿を守る者ではあるが守護霊ではない …


… ゆえにこの小動物の身を借りて降りてきたのだ …


「つまり、護衛という感じでしょうか?」


… そういう事になるかな …


「わかりました、これからよろしくお願いします」


… それで?これから予定はどのようだろうか? …


 むーちゃんの傍にぴったりと付いているシャリーンさんが答える。


「これからですがヒロミ様は色々と規格外な所がありますから基本的な修行は終わりにしてその力を制御できるようになってもらいます」


… それが良いだろうな、あの様子では守るにも大変そうだ …


 そんなに酷くないと思うんだけどな…だが魔力使う度に色々壊してたらあれだしな。


「ところで、むーちゃんの体は零体じゃないですよね?」


… 目敏いなヒロミ殿、言われる通り零体ではなく像を利用した実体になる …


「とすると、普通に人にも見えるし触れると?」


… このままだとそうだな、しかし見えなくする事もできる …


「モフモフですものね~」


 また襲い掛かりそうだ、シャリーンさん。


… こ、これ! 落ち着くように! …


「は~い…」


 シュンとしたシャリーンさんも可愛い。


「では今日はゆっくり休んでまた明日から修行を頑張りましょう!」


… よろしく頼む …


「よろしくお願いします」


◆    その夜     ◆


 その夜、食料調達に行っていたサイアスさんも戻り夕食、お風呂とゆっくりして就寝した。シャリーンさんが必至にむーちゃんと寝ると抵抗していたがむーちゃんは雄ということで俺たちと一緒に寝る事になった。

 そして今俺の横にむーちゃんサイズの布団を用意され寝てる… 体にまだ慣れないのかわりと寝相が悪い。それはいい、しかしその寝姿がなんで仰向けの大の字で寝てんのさ!丸いモフっとした体でなんの警戒もなく大の字で… しかし、ツクヨミ様って結構な神様だよな…

 他の人にバレないようにしないとな~こちらの世界ではチンチラは珍しい生き物だがこの可愛さなら警戒はされないだろう。明日、ツクヨミ様のステータスも見させてもらうか。

 さて、明日も早いしねよっと… むーちゃんが蹴飛ばした小さい布団をかけてあげようと思ったがモフモフの毛皮で暑そうだったのでそのままにしてあげた。


◆    次の日     ◆


 今日も昨日壊した石畳の修練場で修行だ。壊れた場所はなんと一晩でさだ子さんが綺麗に直してしまったらしい。何気にさだ子さんは何でもできるな。さすが長年この場所を守ってきただけある。


「では、今日はヒロミ様の魔力制御について修行しましょう」


 今日のシャリーンさんは恰好はいつもと同じ丈の短い和服だが黒い下地に裾の部分半分が赤と白のチェック柄になっており上は炎を模した赤い模様になっていてすごくモダンな感じだ。扇子も折りたたんでいるがそこにも赤と白のチェックが入っている。何気にオシャレな人だな~。思わずうっとり。


「ヒロミ様? 聞いていましたか?」


「え、あ、すみませんなんでしたっけ?」


「ヒロミ様の身体強化についての話ですよ、もう!むーちゃんさんが可愛いからってボーとしないでくださいね」


 いあ、あなたが可愛いのですが…


「いいですか、普通身体強化は体の内に魔力を循環させ行います」


「無理の無い循環と速さで身体強化の強さが決まりますがヒロミ様の場合は元々の身体能力が高く、魔力も強い為に普通の人よりも循環がスムーズでその速さも比較になりません」


「は、はあ…」


「ゆえにその制御も難しいと考えられられます」


「その事を頭に入れて最初はゆっくり、循環させるイメージで行ってみてください」


 つまり魔力の循環をゆっくりやればいいのかな?体中でゆっくり循環するイメージをした。


「弱いですね、もう少し早く循環させて」


 むずかしいな… もう少し早くと…


 パァアアアー


… あ! …


 横で見ていたむーちゃんが思わず言った瞬間に体の中で循環させていた魔力が一気に放出してしまったらしい。

 

「難しいですねこれ…」


「普通はそんなに難しい事ではないのですが…」


… どうやらヒロミ殿は魔力と体との相性があまり良くないようだな …


 え、どういう事? 異世界人だからか?


「そうですね… 言われてみればヒロミ様の魔力があまり安定していないように見えますね」


「ど、どうすれば?」


「何事も繰り返して慣れていけばうまくなるものですよ」


 頑張るしかないのか…


◆    3日後     ◆


「さっぱりですね…」


 この3日間頑張って制御しようとしてきたがシャリーンさんが言うようにさっぱりだ…


… さっぱりだな …


 むーちゃんまで!


… さっぱり …


 さだ子さんまでも!


「才能がないのでしょうか?」


「最初の時に比べれば良くなってきてますよ。ただヒロミ様の膨大な魔力を制御できてないので無駄な魔力が出てしまってあまり効果がないようですね」


「うぐぐ…」


 たしかにこの3日間やってきてどうも魔力が馴染まない感じがしてた。体が拒否しているような感じだ。


… ふむ、このまま続けてもあまり向上は見込めないであろう …


… 体が馴染まないというのであれば、触媒を通して制御してみてはどうか? …


「なるほど~ さすがむーちゃんさんですね!その手がありましたか」


「触媒といいますと?」


「例えば私が持っている扇子ですね」


 いつもシャリーンさんが持っている扇子か…つかってる所はまだ見た事はないが。


「この扇子はニニギが作ったアーティファクトなんですよ」


「そうなんですか?」


「はい、ニニギが私に合わせて作ってくれたもので私はこの霊気の塊である扇子を持つ事で自身の魔力制御や強化をやり易くしているのです」


 そんな便利グッズが!


「霊気で出来ているので色とかデザインも思いのままですよ♡」


 そういうと閉じた扇子の色を赤のチェックから白黒の十字柄に変えてみせた。おー 便利だな。


「ただ、アーティファクトは守護霊が守護する者に対して作れる物ですから…」


「あー、むーちゃんは私の守護霊ではないですね…」


… 問題ない、元となる物質があればそれに霊気を纏わせアーティファクトとできる …


 さすがツクヨミ様、自称神様とは違うな。


「そんな事が可能なんですね!かわいいだけではなかったんですね!」


 ブレないなシャリーンさん。


… さだ子よ、なにか剣はないか? …


… ある 待ってて …


 そういうとさだ子さんは消えてしまった。剣を元に作るのか。


… 持ってきた …


「はう!」


 急に後ろから声がしてびっくりしてしまった。


「は、早かったねさだ子さん!」


… これ …


 さだ子さんは細身の剣を見せた。シャリーンさんがそれを取って抜いた。


「これって…」


 刀身は両刃で細く、柄は横一文字にシンプルな形を成しており中央に黒い?いや、深い紫色の石が付けられたレイピアと普通の剣を合わせたような剣だった。


「まさか、客の間に置かれていた剣では?」


… そう、捏紫ねしの英雄が使っていた剣 …


「え、そんな大事なのはちょっと…」


… 大丈夫、それに普通の剣では直ぐ壊れる …


「たしかにヒロミ様の能力では並みの剣では壊れてしまいますね」


… 捏紫ねしの剣か、よかろう …


… ヒロミ殿その剣を鞘に納め、右手を柄に左手で鞘を支えて持つのだ …


「は、はい」


 シャリーンさんから剣を受け取り言われた通りに持つ。右で柄を掴んだ際に手にしっくりくる感じがした。むーちゃんが目の前で何かを手でコネている。チンチラの小さい手で器用にコネコネと…その物体?が段々と光って来ている。


… あれは霊気と呼ばれる霊力の塊 …


 横で見ていたさだ子さんが教えてくれた。


… 守護霊は霊気を用いてアーティファクトを生み出す事ができる …


 なるほど、霊気という粘土で好きな形を作る感じかな?むーちゃんがコネている物が眩い程に青白く光った。そしてその光を俺が持っている剣の柄中央にある捏紫色の石に押し付けた。光が剣の全身を包んでいく… そして光が剣を包み込んだ時、何かを問いかけて来るような気がした。


 ああ… お前は俺と一緒に有るんだな…


 違和感はなかった、今後もずっと一緒に有るんだという安心感、懐かしさのようなものが沸いてきた。そう思った瞬間に手に持っている剣から喜びのようなものが感じられた。


… こ、これでヒロミ殿に相応な剣になるであろう …


 そういうとむーちゃんはその場に大の字で寝てしまった。

 

「むーちゃん大丈夫!」


 シャリーンさんがすかさずむーちゃんを抱きかかえ心配そうにしている。


… 力を使い過ぎただけ、休めば良くなる …


 さだ子さんがそういうなら大丈夫なのだろう。むーちゃんはシャリーンさんに任せて改めて手に持っている剣を見た。前の形とはずいぶん変わっている。

 横一文字だった鍔は三日月の形になりにぎる手を守るように三日月の片方がニギリの方へ出ている。その三日月の横には赤い藤の華の意匠が刻まれていた。鍔部分の中央は角張った複雑な形をしており角が青く光っている。そして真ん中に深い紫の石があった。ニギリの部分は月の満ち欠けを模した模様が見える。刀身は前の物とほとんど変わりがないが腹の部分には呪文のような文字が刻まれていてその文字も青白く光っている。


 あれ?この文字って…ローマ字の筆記体に見えるが・・・


 Hiromi no ken


 えーと、ひろみのけん…


 そのまんまやんけ!なんかの呪文かと思ったわ!


… その文字は神族が使うとされている文字 …


 え、地球のローマ字なんですが?


「美しい剣ですねー、その文字はなんて書いてあるんでしょう?」


 シャリーンさんがむーちゃんを抱きながら聞いてきた。


「あー、なんか私の剣というような事が書いてありますね」


「ヒロミ様、この文字が読めるのですが⁉」


「え、ええ、なんとなく…」


「天照様の加護なのでしょうか⁉ すごいですね!」


 転生前の文字とは言えないな…


「私の剣にも同じような文字が刻まれているんですよ、後で見てもらえますか?」


「読めるかわかりませんが私でよければ」

 

… この世界にはその文字であちこちに神が残したという文字がある …


「さだ子さんは読めないんですか?」


… なんとなくわかる …


「神の文字ですが… 神秘的ですねー」


 シャリーンさんがうっとりしていた。内容は ヒロミの剣 だけどな…




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