第14話 今夜はごちそう

 … 知らない天井。いや、昨日泊まった部屋だな。


「気が付きましたか?」


 シャリーンさんが心配そうに俺を見てる。いつも明るい顔だったのに心配そうな顔をしている。その顔もかわいいな…


「気を失ったんでしょうか?」


「ええ、説明が遅かったですね、すみません」


「気を失う程になるとは思いませんでした」


「普通は気持ちが悪くなる程度なので」


「そうなんですね、情報が一気に来て驚きました」


「何か覚えているのはありますか?」


「そういえば、実家の親父が岩を素手で割ってる所が見えました」


「素手… ご自宅が見えたのですか⁉」


「はい…」


「普通は遠くても数百メートル位を感知できるのですが、ご自宅はここから数百キロ離れているはずです」


「そんなに遠くまで感知できるとは誤算でした、そんなに遠くまでの情報が取り込まれたら倒れてしまいますね」


「そうすると少しまずい事になったかもしれません…」


「まずい事とは?」


「魔力感知は自身の魔力を周囲に飛ばして感知するのですがそれに気づく事ができる者もいるです」


「そこまで広く魔力を飛ばしたとなるとヒロミ様を狙っている者にも気が付かれたかもしれません」


 なるほど、個々の居場所を教えてしまったという事か…


「ですがそこまで遠ければ感じてもだれの魔力感知か判明は難しいでしょうし、この森にくるのも難しいでしょうからそんなに気にしなくてもいいかもしれませんね」


「今日は、このままお休みください。また明日から頑張りましょう」


 いつもの明るい笑顔になった。その笑顔に安心したのかまた眠くなってきた…

 

 ◆     ◆ ◆


翌朝、またミーちゃんに起こされて朝食に向かった。そういえば昨日、サイアスさん達はどこに行っていたんだろう?


「シャリーンさんおはようございます、昨日はご心配をお掛けしました」


「今朝は良さそうですね、よかった。さあ、朝ごはんをどうぞ!」


「食事なら今度から俺も手伝いますよ?」


「だめです、ここの調理場は男性は入ってはいけないようになっていますので」


 昔の日本かい!


「もしかしてそれも捏紫ねしの英雄が決めたとか?」


「よくわかりましたね?」


 捏紫ねしの英雄… 自分が料理したくなかっただけじゃ… なるほど、だから世話好きなサイアスさんも正座して待ってるのか。


「わかりました、なんかすみません」


「お料理好きですから大丈夫ですよ、さ、座って」


 サイアスさんの隣に座る。


「おはようございます、サイアスさん」


「おはようございます、ヒロミ殿」


「サイアスさん達は昨日はどちらへ?」


「ああ、昨日は食料を調達に行ってました」


「なるほど、ありがとうございます」


「いえいえ、私もここでの修行の時はよく狩りに行ってましたので」


「今日は、ヒロミ殿もご一緒にいかがですか?」


 行きたいが修行があるしな…


「いいですよ、今日は修行は狩りということで」


 シャリーンさんが席に着きながら答える。


「サイアスさんがいれば問題ないでしょうし、美味しい獲物を期待してますね♡」


 期待に満ちた笑顔でウインクが飛んできた。


「そういう事なら、よろしくおねがいします」


… 私もいくにゃ!  ふにゃ!! …


「ミーちゃんが行ったら修行にならないでしょ?私とお留守番です!」


 例によってシャリーンさんに捕まっているミーちゃんが逃れようとしてまた抑えられていた。かわいそうにミーちゃん、いっぱいモフモフされていくれ…


「魔力感知は近くの獲物をイメージするようにしてくださいね」


「はい、わかりました」


「それじゃ頂きましょう!」


 シャリーンさんの声で朝食を開始した。


     🏹         🏹         🏹


 サイアスさんと湖と反対側の森に来ている。ここは精霊樹の森と呼ばれる所で木々も多く森に入ると薄暗い、魔力に満ちているので魔法でも方角を確認し難い為に迷う人が多いらしい。屋敷から離れてしばらくして雰囲気が違う境界線みたいな所に来た。


「ここまでが結界になります。この先からは魔獣も襲ってきますので注意して下さい」


「まずは結界の境目付近で狩りましょう、危なくなったら結界に入って下さい」


「わかりました」


 結界を少し出て、昨日教わった魔力感知をして獣だけを思い浮かべる。

 ん? なんかでっかいのがこっちに向かってきている。


「サイアスさん、これって?」


「わかりましたか?魔獣ですね、それも飛び切り大きい」


… グォオオオー! …


 聞いた事あるうなり声だな?迫力はこちらが全然あるが。森の奥から木々をなぎ倒して体に赤い線の入った猪が突っ込んでくる。ここに来る時に最初に襲ってきたやつと同じやつだな… レッドボアと言うらしい。しかし、先のよりもさらに大きい。

 サイアスさんがナイフを両手に構える。

 あ、そういえば俺、武器持ってきてないな… 普通に丸腰でここまで来ていた。ま、いいけどね、素手の狩りは親父とよく行ったから。魔力感知のおかげか、レッドボアがサイアスさんと俺のどちらを狙っているかがわかった。どうやら俺を狙っているらしい。


「そっちにいきますぞ、お気をつけて」


「はい、多分大丈夫です」


 躊躇なくレッドボアは突っ込んできた。次の瞬間、レッドボアは空中に高く舞って背中から落ちて動かなくなった。ふむ、これくらいの獣なら大丈夫だな。


「なっ! ヒロミ殿今のは?」


「レッドボアの牙を掴んで放り投げました」


「放り投げ… さすがあの暴虐のガルシアの息子さん、豪快ですな!」


「親父を知っているんですか?」


「ええ、冒険者の中で知らない者はいません」


「そうですか、小さい頃から親父に連れられて狩りをしていたものですからこういうのは割と慣れてます」


 そうなんだよな… 小さい頃からあの変態親父に連れられて親父の真似して突っ込んだら吹き飛ばされて生死をさまよったりしてたなぁ~

 その後は親父の仕事を手伝ってたら力も着いてきて吹っ飛ばされなくなったけど。親父なんて獣の方から逃げていくからそれを走って追いかけて片手で捕まえて放り投げてったっけ…

 アレックと知り合うまで友達も居なかったからそれが普通と思ってたんだけど家が異常なだけだったもんな。


「いやー、ヒロミ殿は冒険者でもやっていけますな!」


 そうなのかな~? 中には力技は聞かないやつもいるらしいし難しいと思うけど…


「これで肉はしばらく大丈夫ですな」


「よかったです!」


「それにしても結果を出て直ぐこんな大きいのが来るなんてやっぱり危険な所なんですね?」


「ええ、普通の人では生きて出られないでしょう」


「やっかいな魔獣も居ますので十分注意してください」


 これだけの森で魔力も強いとあれば力技が効かないもの沢山いるだろうしね。


「一度戻りますか」


「わかりました、レッドボアは持って行きますね」


 これくらいの大きさなら、引きずっていけるな。後ろ足を持って引きずって行くとサイアスさんが口をあんぐりさせていた。


     🏹         🏹         🏹


「次は魚がいいですかな」


 仕留めたレッドボアをさだ子さんに渡して再度森に出てきた。しかし、さだ子さんには驚いたな。渡したレッドボアをあの小さい体で楽々と持ち上げて処理小屋まで持っていったのだ。さすが守護霊だな。

 今度は湖まで来ている。さっそく魔力感知をしてみると湖の中に動く魚のようなものが沢山感じた。中には人に似た形をしたのも居るみたいだが・・・怖いので無視しよう。サイアスさんが銛を持って湖に入ろうとしていた。


「サイアスさん、その銛を貸してもらえますか?」


「ええ、いいですがヒロミ殿は泳げるのですか?」


「泳げますが今回は湖に入らなくても大丈夫そうですよ」


 どういう事? という顔をしているサイアスさんから銛を受け取り持ってきた細い紐を括り付ける。この方法も親父がやっていた方法だったがその時は俺は何度やってもできなかった。それもそのはず、魔力感知が出来なければ獲物の位置がわからないのだから… 親父は魔力感知もできたんだな~

 湖の畔に立って魔力感知で水中の魚と思われるものに集中した。

 

 【メバル・モショス】

  LV 23

  HP 444

  MP 12

  遊泳士

  年齢 3歳 男

 【スキル】

  なし

 【特 性】

  湖の魚 放浪者


 あ、魚のステータスも見えるか!放浪者ってなんだよ!ちゃんと名前があるんだな…

 気を取り直して銛を感じた気配へ投げ入れた。

 

 バシュッ!


 銛は一直線に魚に向かって飛んで行き刺さったようだ。結び付けた紐を手繰り寄せる。体長2m程の鮭に似た魚が上がってきた。魚を再度見ると。


 【メバル・モショス】

  LV 23

  HP 10

  MP 12

  遊泳士

  年齢 3歳 男

 【スキル】

  なし

 【特 性】

  湖の魚 放浪者

  無念…


 無念って… なんかすまないメバル・モショスよ!美味しく食べてあげるからね!

 HPが0になり動かなくなった。


「いやはや、漁まで規格外ですな!それも御父上のやり方ですか?」


 横でまた口をあんぐりさせていたサイアスさんが驚いて聞いてきた。


「ええ、よく連れて行かれて引き上げる魚の回収をやらされてました」


「当時私もやってみたのですが獲物を感知できなかったのでさっぱりでしたが」


「親父も魔力感知を習得していたんですね」


「そうでしょうな~有名な冒険者ですから当然だと思います」


 あんまり親父から冒険者時代の事は聞いてないからなんか新鮮だな。


「後何匹位あればいいでしょうか?」


「人数分あればいいと思います、魚は保存が難しいですから」


「了解です」


 続けて4匹をゲットして合計5匹を持って帰った。魚を見たシャリーンさんは狂喜乱舞していた。今夜の食事はごちそうになりそうだ…

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