第12話 捏紫の湯

 亜麻色の彼女、シャリーンさんからこれからの修行について説明をしてもらっている。


「修行は早速明日から行います、まずは魔力感知からですね」


 いいですね、魔力を感じてみたい!


「他は体力作りに、瞑想、魔力操作、魔力増強、狩りに漁」


 ふむふむ、え?


「狩と漁は食糧の確保です」


「さだ子さんは敷地から出られませんので自分の食糧は自分で確保しないといけません」


「この辺は食糧が豊富ですから取り放題ですよ♡」


「最初は苦労するかもですが頑張って下さい」


 まあ、狩は親父との日課だったので多分問題ないが… でも魔獣も沢山いそう。


「後は私との模擬戦を毎日行ってもらいます」


 なんですと⁉︎


「いきなり模擬戦もやるんですか?」


「はい、頑張りましょう!」


 え〜 普通は基本をやってからでは…


「大丈夫です!」


 なにが?!


「手加減はしませんので、どんと来てください」


 いや手加減してよ!


「実は今回はあまり時間がありませんので模擬戦で間隔をつかんで頂きます」


「時間が無いんですか?」


「ええ、捏紫ねしの属性という事で狙ってくる者もいますし、この場所もいずれは判明してしまうでしょうからなるべく早く、自己防衛をできるようになる必要があるのです」


 狙われるのかぁ~


「わかりました~ がんばります」


「ま、今日はこれくらいで旅の疲れを癒してください」


「温泉もありますから」


「温泉ですか!」


「ええ、源泉かけ流し!入れば疲れも魔力も回復!」


「その名も 捏紫ねしの湯!」


 捏紫ねしの英雄の家にある温泉だからって… もう少し捻ろうよ。


「そ、それは… 効きそうですね!」


 名前は別にして温泉はありがたい。


「サイアスさんと一緒にさっそく行かれてみますか?」


「いいですね、ヒロミ殿ご一緒しましょう」


 サイアスさんがお風呂って事は、そのサングラスを取るから素顔が見れるか?ここに来るまで何が合っても外さないから素顔を見たことがないんだよな。


「はい、行きましょう」


… 私が案内しますね …


 さだ子さんが連れって行ってくれるようだ。


「では、ごゆっくり~ 私は食事の用意をしておきますね」


 さだ子さんの案内でサイアスさんと 捏紫ねしの湯 に向かった。


  ♨      ♨      ♨      ♨


 捏紫ねしの湯、25mプールよりも広い大露天風呂だった。

 広いな… そして捏紫ねしの湯という名の通り、深い紫色をしている。

 

… いにゃ~ 気持ちいいにゃ~ …

 

 どこかに消えていたミーちゃんがいつの間にか根船を猫泳ぎで泳いでいる。


「どこに居たのよ?」


… ちょっと周りを巡回にゃ …


「シャリーンさんが苦手なのね?」


… そ、そんな事はないのにゃ~ …


… だた、どこに逃げても先回りされるにゃ~ …


… 捕まると半日は離してくれないにゃ~ …


 そう言いながらも嫌悪感は感じられず、シャリーンの事は嫌いではないようだ。


 ガラガラ…


 お、サイアスさんが入って来たかな?どれどれ素顔が見れるかな~


「お湯加減はいかがですか?」


 そういうサイアスさんの顔にはしっかりとサングラスがかかっていた… 

 温泉でサングラスは辞めようよ~


「サイアスさん… サングラス、痛めませんか?」


「おお、これですか?」


「大丈夫です、これはミーちゃんに作ってもらった零体アーティファクトでして」


「霊気から作られているので温泉程度では問題ありません!」


「ほほうー ミーちゃんそんな事もできるんですね」


「力のある守護霊は自分の霊気を物質に変化させる能力を持ってますね」


「有名なのは剣聖の使っている剣です。あれは剣聖の守護霊が作ったとされています」


 なんと、聖剣と呼ばれる剣は守護霊が作った物だったのか。通りで人外の力を持つはずだ。

 しかしサイアスさんは何でサングラスなんだろう?


「サイアスさんのサングラスは特別なんですか?」


「これは… 」


 何か言いたくなさそうだな。


… こいつはまだ未熟者だからにゃ〜 …


「未熟者?」


「霊は相手の感情に敏感なのです。特に悪霊はそこをついて来ますので降霊術士は霊と対峙する時は感情を出さないようにするのです…が」


「私はどうも感情が目に出てしまうらしく、それを悟られないよう霊からも見えないサングラスをミーちゃんに作ってもらったのです。」


 なるほどー、それで降霊術士達はムッスリした感情のない顔してるのが多いのか。


「え、でもシャリーンさんはすっごい笑ってましたけど?」


「あの方は特別でして、特定の感情でそれ以外の感情を見せないようにされているようです。」


「特定の感情ですか…?」


「はい、あれは霊に対しての愛情、慈愛だと思います。とても良い顔をされるでしょう?」


「ええ、思わず見入ってしまいますね」


「そうなのですよ、どうやったらあんな真っ直ぐな感情を出せるのか… 悪霊にさえも同じようにされますので私には到底真似ができないですね」


 彼女の霊に対する特別な思いがあるんだろうな。


「霊が好きなんでしょうね? ミーちゃんとか」


… にゃ! …


 ミーちゃんが慌てて温泉に溺れそうだ。


「私も努力をしてはいるんですがなかなか感情を消せなくて」


「人間ですから簡単には感情は消せないですよね。

そのサングラスで対応できるならそのままがいいと思いますよ。ムッスリした感情しか感じられない他の降霊術士より素敵です」


 白スーツにサングラスは怖いがな!

 

「お恥ずかしい…」


 いつか素顔を見せてくれるといいけど。


… にゃ にゃ〜 …


「サイアスさんミーちゃんがなんか浮いたまま動きませんが?」


「おっと、のぼせたようですね!」


「霊が温泉にのぼせるの?」


「この温泉は魔力回復効果が強いですから霊には特に効くようですね」


「私らはこれで、明日からの修行頑張って下さい」


「はい、ミーちゃんお大事に」


 サイアスさんはミーちゃんの後ろ首を摘み湯から上がって行った。

 守護霊なのに本物の猫のようだ。俺も上がって食事を頂くか。


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