第10話 降霊術士

 領主の屋敷で一晩を過ごした。

 親父があのでっかい守護霊を引き連れて来たりお母様が俺のベッドに潜り込んだり色々あったがこれからしばらく家族と会えないのを考えると話ができてよかったかもしれない。

 案内役のサイアスさんからは守護霊について色々教えてもらった。

 俺は守護霊がもれなく見えているのでそれを見えないようにする事もできるらしい。

 そうだよな、あんなん毎日見てたらおかしくなりそうだ…

 自分の守護霊も守護霊と話が出来る者なら他の者に見えなくなるように守護霊に頼む事ができる。

 まあ、今の俺は自称神様がバカンスでいないから頼めないけど。

 降霊術士が冒険者になれる訳も教えてくれた。

 降霊術士は守護霊と意思疎通ができるので戦いの時など力を貸して貰う事ができるらしい。

 それは守護霊に肉体の強化をしてもらったり、守護霊自身が戦ったりするらしい。

 見えない者からすれば身体能力が異常に向上したり、何もないのに敵が吹き飛んだり宙に舞う剣が攻撃する様子を見る事になりまさに魔法に見える事だろう。

 魔法特性が強ければ強い程、強力な守護霊と契約しているので冒険者としても重宝されるわけだ。

 今の俺は守護霊が居ない為、守護霊が見えるだけで今までと何も変わらない…

 代わりを寄越すとか言ってたけど来ないし…

 まあ、不安はあるが真紫しんしの降霊術士であるサイアスさんが一緒だから大丈夫だろう…


「昨夜は良く休めたかな?ヒロミ殿」


 領主邸の豪華な朝食を皆んなで食べている中、領主が和かな顔で聞いてきた。


「色々あり過ぎてほとんど寝られませんでした」


「はっはっ! 俺も混ざりたかったな。これからしばらく会えないだろうからな、ゆっくり話せるよう遠慮したんだが行けばよかったな!」


 全くですわ!領主が居れば皆んなもう少し落ち着いていたと思う…

 でもまあ、色々と気持ちも整理できたかな。

 どうなるかわからないが修行頑張ってみるか。

 今朝は昨夜サイアスさんから聞いた守護霊を意識する事で見えなくなる方法でみんなの守護霊は見えていない。おかげで落ち着いて朝食にありつけた。


「まだ混乱していますがやれるだけやってみます」


「ヒロ、逃げ帰って来たら〜 わかってるわよね?」


 サカエ姉が食事のナイフをチラチラさせてる。


「ヒロさんなら大丈夫よ私達の弟なんですもの」


 アオイ姉はいつも悟った感じだな。

 二人ともいつも通りでありがたい。

 それにしても…


「お母様、そろそろ離れてもらえませんか?」


 お母様は朝からずっとまとわりついてる…


「しばらく会えないんだからいいでしょう〜」


 しょうがないな… …


「それでは、そろそろ出発したいと思います」


「そうか、おまえなら何も問題ないと思うが道中気をつけてな」


「行ってくるよ、父さん」


 いつもの雰囲気での朝食だったが少し照れくさかったかな。

 さて、気持ちを切り替えて行くか!

 支度をしに部屋に戻った。

 お母様は相変わらずまとわりついてる…

 支度を終え、玄関を出ると皆も集まっていた。

 道中使用する馬車もある。普通の幌馬車だ。

 馬は… うん、ちゃんと居るな…

 また誰か馬車を引っ張って行くんじゃないかとか少し思ってた。


「そういえばアレックはどうしたんです?」


「あいつは北の領地を視察があってな行ってもらった」


「見送りできないのを悔しがっていたよ」


「王からの命でもあるので私自身でヒロミ殿を見送る必要があったのでな、北へはアレックに行ってもらった」


「そうですか、しばらく会えなくなりますがあまりフラフラしないように言って置いて下さい」


「そうだな、あいつも領主の息子としてそろそろ自覚を持ってもらわんとな!」


「ほら、お前が見送ってやれよ」


 領主が親父の方を見る。


「領主の立場なんとかはもういいのか?」


「ここは領主より父親だろう!」


 親父を前に立たせる。


「あー母さん、そろそろヒロから離れてね…」


 親父の言葉を聞くといっそうキツく抱きついて来た。


「ヒロさん、行ってらっしゃい…」


 ……


「行ってくるよ…」


 お母様が離れると途端に寂しい気持ちが込み上げてきた。


「ヒロよ」


「その真魂を持って、良き出会いがありますように!」


《その真魂を持って良き出会いがありますよう!》


 親父に続いて皆で称えてくれた。


「さあ、行きましょう!」


 サイアスさんが手綱を取り、呼んでいる。


「みんな、行ってきます!」


 馬車がゆっくり動きだした。


… なかなか感動的だったにゃ〜 …


 先日の招き猫の声がした。姿は見えない。

 声までは聞こえないようにはできないのか…


「サイアスさん、ミーちゃんだけ見えるようにはできないんですか?」


「あー、それも意識すれば見えるようになりますよ」


 御者席から教えてくれた。

 サングラスが朝日に映えてなんかカッコいい。

 昨日のミーちゃんの姿を思い浮かべる…

 目の前に段々と座っている猫の形が浮かんできた。


「あ、見えた」


「慣れれば、集中しなくてもできるようになりますよ」


 何を見て何を見ないのかイメージが直ぐできればいい感じだな。

 目の前で毛繕いをしているミーちゃんに忍びよる。


… あ、おまえ!また勝手にさわるんじゃないにゃ〜 …


 昨日はあまりモフれなかったからな、モフり倒してやろう。


… ゴロゴロ …


「すっかり懐かれましたね」


「すっごいモフモフですね~」


「幸運の招き猫ですからね、いい事ありますよ!」


「あればいいですね!」


「それにしても普通は降霊術士でも自分の守護霊以外はそんな風に触れないんですがさすがですね」


 普通に触れていたから全然気がつかなかった。


「普通は全く触れないんですか?」


「中には触れる者もいますが大半はかなり集中しないと無理みたいですね」


「なのでもし守護霊自身と戦う事になってもそのままではこちらは何もできないのですよ」


 触れないなら攻撃も出来ないだろうしな…


「何か方法があるのですか?」


「そうですね、大体は自分の守護霊にやってもらいますね」


 ああ、なるほど。


「もしくは守護霊に身体強化して貰うか、武器に魔力を付与して貰うかですね


 馬車に揺られながらモフモフでなかなか気持ちがいい。


「そういえば目的地ってどこなんですか?」


「精霊樹の森の中ですね」


「あの入ると迷って出て来れないという?」


「そうですね!」


「そこのある場所にヒロミ殿の面倒を見る人がいますから大丈夫ですよ」


 やはり見つかり難い所でやるんだな。

 突然、モフっていたミーちゃんが跳ね起きてサイアスさんの所に素早く行ってしまった。


 なんだろう⁉︎


 サイアスさんとミーちゃんは何やら話しをしている感じだが何も聞こえないな… 当人同士だけでの会話もできるんだな。


「ヒロミ殿、どうやら魔獣が近寄って来てるようです」


「そうなんですか!」


 魔獣なんて小さい頃に親父が狩ってるところを見たきりだな。


「ミーちゃんが行きますからヒロミ殿は外に出ないように!」


 サイアスは馬車を止め降りて行った。

 どうやら左前方からくるらしい。


… グォオー! …


 魔獣らしき唸り声が頭の中に響いた。

 なんか守護霊と感覚が似ている!

 サイアスを見るとどっかから出した小型のナイフを右手と左手に3本づつ持っていた。

 まるでギャングの殺し屋だ。


「ミーちゃん!」


 声と同時にミーちゃんがサイアスの前の方に飛び出してそのまま浮いている。

 体もデカくなってるような…


 シュ!


 サイアスがミーちゃんに向かって5本のナイフを同時に投げる。

 それを大きくなったミーちゃんが両手両足、それと尻尾で掴み身構えた。

 元々全身白い毛のミーちゃんだが体が大きくなったと同時に頬と体に青白い光る線が入っている。

 顔つきも猫というか虎に近い。


… マ… リョ… ク ヨコ… セ! …


 魔獣が唸って馬車に向かっている。

 全身が黒いモヤのようなものに覆われているが姿は猪に似ている。

 大きさが俺の倍以上とでかい!

 牙が4本あり体に色は違うがミーちゃんと同じような光る赤い線が入っている。


… おっさんはそのアホを守ってやりな! …


 そう言うと体の青白い線の光が強くなり突進して来る魔獣に向かって行った。

 クルッと回転したかと思うと全身が高速で回転し青白い閃光になった。

 そして一瞬で魔獣を通り抜けていた。


 ズズン…


 魔獣は横半分に両断されそのまま崩れ落ちた。

… これ1匹だけみたいだな。そこのアホの魔力に引き寄せられたみたいだにゃ〜 …

 5本のナイフをサイアスへ投げ返しながら体が小さくなっている。

 戦闘形態?が解けて元の白猫に戻って行く。

 元に戻ると話し方も猫っぽくなるんだな…

 それにしてもすごいな、ミーちゃん!


「ヒロミ殿、無事ですか」


「はい、おかげさまで。ミーちゃんすごいですね」


「ええ、商売の神様ですが位は高いので戦闘もそこらの魔獣では相手になりませんね」


「なるほど、以前の守護霊が見えない私だとナイフが回転して飛んで行くのしか見えないからサイアスさんが魔法を使ったと思ってしまいますね」


「そうですね、なので降霊術士は魔法使いとして見られる事が多いですね」


「さあ、先に行きましょうか」


「はい、お願いします」


 馬車の中を見るとミーちゃんがすでに丸まってゴロゴロ言っていた。


 降霊術士… すごいな…

 正確には守護霊すごいな。だけど…

 これじゃ守護霊がいない俺はなんもできないな…

 代わりでもいいから早よ来てくれ…

 静けさを取り戻した森の道を馬車はまったり進んで行った。







 

 

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