第9話 ミーちゃん

 大扉から出ると神殿長が待っていた。

 入った時と違い扉を隠すように壁が出来ている。

 簡易的なものではなく立派な壁だ。

 何時の間に作ったのか?

 これも誰かの能力なんだろうな…


「ヒロミ様、お疲れ様でした。無事儀式を終えられたようでおめでとうございます」


「あ、ありがとうございます」


 神殿長を良く見ると隣に何か漂っているのが見えた。

 なんだろうあれ?

 そう思ってしっかりと見ると変なのが神殿長に寄り添うように存在している…

 背丈は赤ちゃん位で背中に羽が付いている。

 天使の姿そのものだが…

 顔がすごく真面目な顔だ。

 メガネを付ければどこぞの弁護士か裁判官か?

 という顔つきだ…

 向こうもこちらを見つめている。

 もしかして神殿長を守護するものなのか?

 真面目そうな神殿長のイメージそのものだな…


「もしかして守護霊が見えていますか⁉︎」


 神殿長が驚いている。


「これ… 神殿長の守護霊なんですか?」


「残念ながら私には見えないのです」


「降霊術を行うと守護霊が見える様になる人が時々いるようですが降霊術士の才能がある者は皆見えると言いますのでヒロミ様は見えるようになったのでしょうね」


 そうなの? 自称神様も亜麻色の彼女も何も言ってなかったけど!

 

「さあ、こちらへ…」


「神殿長はご自分の守護霊をご存知なんですか?」


「はい、神殿長という肩書きからよく降霊術士様にはお会いするので… なんでも真面目な顔をした天使様だとか」


「その通りですね。神殿長様とよくお似合いと思いますよ」


 真面目天使が頷いている。


「それはとても嬉しいですね。ありがとうございます」


 神殿長の笑顔がまぶしい…


「それにしても壁すごいですね、入る時は無かったのに」


「ええ、あなたのお父様が設置されました」


「それもお一人で壁を担いで来られて…」


 親父かーーーーい!

 何処にも居ないと思ったら壁持って来てたのか!


捏紫ねしの色という事で出てきたら大騒ぎになるだろうと隔離して下さいました」


「さすがヒロミ様のお父様ですね、私も空いた口が塞がりませんでした…」


 神殿長の後ろで真面目天使がパタパタ飛びながら呆れた顔で首を振っている。

 相変わらず変態なお父様だ…

 ありがたいけどさ…


「では別室にて今後についてご説明させて頂きます」


 神殿長は奥の通路まで置かれた壁沿いに部屋まで案内してくれた。

 扉を開けると部屋には知った顔が勢揃いしていた…

 お父様、お母様、姉貴達、アレックも居る。

 そこ横にアレックの親父さんである領主様。

 そして…

 皆に寄り添うようにして変なのがどっさり居る…

 人に近い者や何かの動物?異形の者、赤や青まで色とりどりだよ!

 その中で一際でかいのが居る!

 デカすぎて頭が天上を突き抜けてる。

 そのでかいのは…親父のだなきっと…

 うん、そうだよね… 納得できる組み合わせだ。


「奥へどうぞ」


 神殿長に言われて奥に進むが視線が熱い…

 人はもちろん人以外?からもめっちゃ見られてる。

 親父の側に居るでかいやつは頭が天上から出てるのでこっちを見てるかわからないが見られてる気がする。

 広いはずの部屋が凄く狭い。

 皆が座っているテーブルで中央に空きがありそこに座った。

 目の前には領主のアレック親父さんがニコニコして座ってる。

 神殿長は領主の斜め後ろに立って話し始めた。


「皆様、お集まり頂きありがとうございます。私はこの神殿の神殿長を務めますファリック・スーンと申します」


「今日ここに居られるヒロミ様が捏紫ねしの才能を授かり今後の対応をご家族、そして領主様とご相談させて頂きたいと思います」


捏紫ねしの特性を持つ方は過去に一人しか居らずその方はこの世界を救った英雄でした」


「その英雄と同じ捏紫ねしの方が現れたと当時から準備を進めてまいりました」


「当時?、何時からなのでしょう?」


「ヒロミ様、あなたがお生まれになってしばらくの時からですよ」


 あー、天照から聞かされた記憶が消えてなくてやらかした時か…


「ここからは私が説明しよう」


 さっきまでニコニコしていた領主が威厳のある顔つきに変わり話し始めた。


「ヒロミ殿は生まれて間も無くある事があり魔法特性を測る事があり、その時既に捏紫ねしの特性と判明していた。」


「今ここに居る者は皆それを知っている者達だ」


「ヒロミ殿が成人するまでその事は皆で伏せてきた」


「しかしこの国の王は別だ、領主の立場から王への報告、相談が必要だった」


「そして王との決定でヒロミ殿が成人するまで情報が外部に出ないよう配慮して頂いていた」


「特性の高い降霊術士は少なく、ましてや捏紫ねしの者などと知れたら攫われるか暗殺されるからな」

 

「無論今後も同じ事には違いないが成人した今、安全な場所で自分を守る術を学んでもらい脅威に立ち向かってもらいたい」


 安全な場所って何処だろう…


「私は何処で学ぶ事になるのでしょう?」


「うむ、それについてはここでは話す事が出来ない、安全を考えその場所も公開しないようになっているのでな」


「不安もあろうがヒロミ殿の家よりはいいかもだぞ!」


 領主は俺の親父の方を見てニヤニヤしてる。

 確かにあの家だと普通じゃないからな…

 どんな所に行っても大丈夫な気がする。


「今日の儀式で外部に知れる事になった。したがって早速明日からその場所へ行ってもらいたい」


「案内役が王都から来ているのでその者と向かってくれ」


「お連れしてくれ」


 領主は神殿長の方を見て言った。

 ん?  いつの間にか目の前に小さい動物が居る。

 あれだな、猫だ…

 どっから来たのか?

 周りを探してみる。


… おら! 何しかとしてんだよ! …


 突然頭の中に声がした。

 え、天照か?


… 目の前にいるだろう! …


 この猫か⁉︎


「連れが失礼しました」


 また違う声が部屋の扉付近から聞こえる。

 皆が囲んでいるテーブルの影から小柄な小太りの男が出て来た。

 背丈が子供位しかない、ドワーフ?

 しかし格好が立派な髭に白いスーツ、サングラスで子供ギャングかよ⁉︎


「それは私の守護する者でして」


「やはりヒロミ殿には見えているのですね」


 格好とは別に礼儀正しい物言いだ。


「これが守護霊?」


 ピシ!


「あうっ!」


 目の前の猫から鋭い猫パンチを左頬に食らった。

 爪は出して無く肉球でのパンチだったので痛くはないが。


… 商いの神、招き猫様だぞ!敬え! …


「こら! ミーちゃん!やめなさい!」


「申し訳ありません、気まぐれな性格でして」


 ミーちゃんというのか⁉︎

 なんか可愛いな…

 モフって…


… あっ お前、気安く触るな! …


 モフモフ… すっごいモフモフだぁ〜

 耳から喉にかけてモフって油断したところをひっくり返してお腹をわしゃわしゃ…


… ゴロゴロ …


「あ〜 ヒロミ殿、我々には見えないがそこに守護霊様が居られるのか?」


 ああそうか見えない人の方が普通なのか。

 しかしこのモフモフの感触もあるのにこれが霊なのか…


「ええ、その方の守護霊? みたいで招き猫のミーちゃんだそうです」


「ミーちゃん!こっちに来なさい!」


 グラサン白スーツのドワーフが手招きしている。


… ちっ お前失礼な奴だが見込みがあるぞ …


 ゴロゴロ言いながら招き猫はドワーフの元へ向かった。


「失礼致しました。私はヒロミ殿を修行の場までお連れする役目を王より仰せつかりました」


「王宮公認の商人、サイアス・ノルドバーンと言います」


「サイアス殿は商人だが、降霊術士でもあり冒険者でもある」


 領主はこのドワーフと知り合いのようだ。


「商人としても豪商だが降霊術士としてもこの国の序列7番目という実力の持ち主だ」


 そういえば胸に真紫しんしの証を着けている。

 なるほど、だから守護霊も見えるのか…


「サイアス殿に任せれば無事目的の地まで行けるだろう」


「お任せ下さい。」


 ドワーフなのに物言いがすごく賢そうだな。


「それでは、明日出発とする」


「皆、今日は領主邸にて明日に備えて休んでくれ」


 長ーーい、今までこの世界で生きてきた15年間に匹敵する1日だったな…

 明日からも大変そうだけど。


「ヒロさ〜ん、今夜は一緒に寝ましょうね〜」


 お母様がなんか言ってる…



 


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