第5話 亜麻色の少女

 神殿長に案内されて中央の大扉に入った。

 中はかなり広く中央に神官が玉を渡す時に使った錫杖に似た物が立っている。

 その手前と奥に錫杖台を挟むようにして人一人が乗れる丸い台がある。

 そこに立って儀式を行うのだろう。


 ガコーン!


 入って来た大扉が閉まった。

 部屋全体が薄く紫に光っている。

 中央は天井からの日が降り注ぎキラキラしてる。

 壁や床に装飾があり見るからに豪華な部屋だ。

 部屋の雰囲気で益々緊張してきた。

 奥の一人が通れるかどうかの細長いドアが音もなく開きそこから誰かが入ってきた。

 

 ンヌーーーーー ジジババ登場か⁈


 全身白いローブを着たその者は音も無く対角の台に登り何やら準備をしている。


 俺はどうすれば…?


 その者が目の前の台に上がるように手で促す。


「あ、はい…」


 同じ様に台に上がって降霊術士らしき人を見てみる。

 その胸には漆紫しっしの証が光っていた。

 漆紫は降霊術士の中では最高の位とされる色だ。

 俺の捏紫ねしを除き…

 俺の儀式に最高位の降霊術士⁉︎


「それでは、これから儀式を行います」


 おや? 若い女性の声だ…

 もしかして…


「持っている玉をその錫杖の上に置いて下さい。」


 降霊術士は深く被っていたフードを外しながらこっちを見た。

 俺は思わず玉を落としそうになった。

 彼女は綺麗な亜麻色あまいろの髪だった。

 長い髪を両手でローブの外に引き出した時、天井から降り注ぐ光でキラキラしていた。

 まるで金色に輝いている様だ…

 横の髪は前に垂らしていて胸まで長く先端が内側にツンツンしている珍しい髪型。背は俺と同じ位だから女性にしては高い方か、細身でどちらかと言うと綺麗系だな。


 亜麻色の若い娘、キターーーーー!


 なるほど親父はこの娘の事を言っていたのか。

 え、でもこの人最高位の降霊術士だよね?

 親父は何故俺がこの人から儀式を受ける事を知っていたのだろう…?


「気をつけて下さいね。その玉を落としてしまうと色が濁ってしまいますよ?」


 おお、声も綺麗だ。

 先程の神官長に負けずに劣らず良く通る声だ。でも歳相応? な可愛らしい響きもある。


「すみません、緊張してて」


捏紫ねしですものですね」


「私が呼ばれたのも納得です!」


 ふんす! と少し胸を張って鮮やかな漆紫の証を見せている。仕草が綺麗だけど可愛い。

 こんな若いのに漆紫しっしの降霊術士なんだな。

 それとも若く見えるだけか?

 漆紫という色は鮮やかなパステル色の紫だ。この色より濃い紫だったり薄いと降霊術士のランクが下がってくる。次にランクが高いのは葡萄色の紫になる。

葡萄色より濃い紫は俺の捏紫ねしだけらしい。

 捏紫は黒に見える程に濃い紫、霊は闇の属性なので闇に近い降霊術士という事で相性がいいと先程案内される時に神殿長に聞かされた。

 捏紫は過去に一人しか居らず伝説の降霊術士だそうだ…


 俺が伝説… いや、そんな…

 というか職業降霊術で決定なんでしょうか?


 混乱の中、捏紫ねしの玉を置く。


「後は私に任せてそこで動かないで下さいね」


 彼女は棒の先の沢山の鈴が付いている道具を左手で高く祭り上げた。


 シャーン!


 道具を振り鈴の音を部屋に響かせている。


 シャンシャンシャーン!

 シャシャシャーン!


 まるで踊る様にその音が空高く聞こえる様に鳴している。

 そして先程の声と違い低く渋い声で漆紫しっしの降霊術士は歌い始めた。


「ここに〜 座すは〜 正しき御魂を〜 示し〜

かの地より〜 お迎え〜いたします〜」


 この言葉⁉︎

 この国の言葉じゃない!!

 だが何故だか意味がわかる…


 ますますその声は低く部屋全体を俺の体を振るわせる。

 

 シャシャーン!


「良き〜 縁に〜 導かれるは〜 真の技なり〜」


 踊る様に鈴を振り歌っている彼女は思わず見惚れるほど美しかった。

 亜麻色の長い髪が揺れる度に金色に輝いている。

 そして彼女は美しい笑顔だった…

 降霊術は儀式の際は顔に感情を出してはいけないと聞いた事がある。

 降りて来る霊に術士の感情が影響するとか。

 だからジジババ降霊術士はむっすり、何を考えているかわからない表情で俺はそれが苦手だった…

 だが彼女は笑っているのだ…

 それもとびきりの笑顔で。

 その笑顔で不安だった気持ちが穏やかな感情に変わって行く…


 シャーーン!!


 一際鈴の音が大きく聞こえたと思った…


 …


 …


 目の前が真っ白になった。

 思わず目を閉じてしまう程白く…


 … …


 …


 目を開けるとそこは真っ白な所だった。


「ここは⁉︎ どこだ⁉︎」


 思わず声に出していた。

 しかしその声は白い世界に吸い込まれ消えていった。


「やっと来たね〜」


 頭の中に直接語りかける様な声がした。

 亜麻色の彼女ではない、性別が分からない声だ。


「誰?」


「神様だよ〜」


 はいぃ? …


 

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