第4話 捏紫

 神殿奥の降霊術が行われる部屋の前に広場があり

降霊術を受ける人達と儀式開始を待っているところだ。

 儀式が行われる部屋は何箇所かあり扉が並んでいる。中央に大きな扉もあり貴族かなんかがそこでやるんだろうか?

 以前の姉貴達の時は使われてなかったような気がする。

 会場は家族親族だけでなく、一般見学も含め結構な人が集まってザワザワしてる。

 成人の降霊術は年に一度のお祭りのようなもので出店とか如何わしいお札を売ってる人、簡易的な人生相談所までも設置されてる。


 俺も後でメチャクチャな家族について相談してみるか…


 急に静かになった。

 広場の中央ステージのような所に誰かが上がろうとしている。いよいよ始まるか。

 全身真っ白なローブを着た穏やかな顔をした老女が上がって来た。この神殿の神殿長だ。


 「皆さん、この良き日に若き魂の祝福を祝いに来て下さり感謝致します。」


 穏やかな顔に反してよく通る綺麗な声で皆を称えている。


「本日は若き魂782名が祝福を受ける為来ております。」


 多いな、さすがファルディアシル領の中心街だ。

 1日で終わるんだろうか?


「今日の若き魂へ祝福を与えるべく国中の降霊術士が集っています。我が国が誇る降霊術士達へも皆様の祝福をお与え下さい!」


 神殿長が居る丸いステージにぞろぞろと色んな格好をした怪しい集団が上がって神殿長の周りを円に沿って通過して行く。

 その誰もが厳格な雰囲気を出しまくっている。

 そして胸には色合いの違いはあるが皆紫系の宝石のような物を付けている。

 紫は降霊術士の証だそうだ。

 親父から聞いていた若い娘を必死に探した。

 居ないな…

 100人は超えるんじゃないかという降霊術士がステージを通過し奥の部屋に入って行く。

 最後と思われる降霊術士が通り過ぎて行く。


 居ないじゃないか! 若い娘!


 どれもこれも一緒に居ると胃が痛くなるような厳格ジジババしかいない⁉︎

 お父様… どう言う事よ?

 俺が渋ってたから嘘こいたか⁉︎

 いや、親父は無茶苦茶な人だが嘘は言わない。

 何か手違いがあったかな…

 唯一の期待が一気に萎む。


 ぬおーー! これからジジババの相手かよ〜 勘弁して〜


 前回、姉貴達の儀式で来た時にジジババの降霊術士に囲まれそれ以来苦手になってしまっていた。

 落ち込んでいる間に式は進みステージにはアレックの親父さんが上がっている。


「メフェラル•ファルディアシルである!」


 威厳のある声で外に居る人にも聞こえそうな声で名乗ると急に優しい顔になり続けた。


「この新たに旅立つ者達の祝福に立ち会える事を幸福に思う」


「このファルディアシル領は国の境にありディアマンテ国の盾である」


「近隣諸国の侵攻や魔物などの襲来もあった」


「しかし、民は明るく穏やかに暮らしている」


「それは皆、国や領を思う気持ちが生んだ結果と私は知っている」


「今日、成人を迎える若き魂も同じ思いを持って旅立ってくれるだろう」


「皆で今日の旅立ちを祝おう!!」



 静かに聞いていた会場も一斉に叫ぶ。


《その真魂を持って良き出会いがありますよう!》


 その迫力に儀式を待っていた若者達も感動しているようだ。

 俺は、それよりもジジババ密室ミッションをどう乗り切るかで頭が一杯だった。

 領主の挨拶も終わりいよいよ儀式が開始される。

 担当の神官が儀式を受ける者に何やら玉を配っている。手渡しではなく錫杖の様な物の先端に玉を乗せ、それを儀式を行う者が取っていった。

 あれは… 神殿前の謎生物像が持っていたのと同じ素材ではないだろうか?渡す前は少し透明な白色で渡された者が手に取ると色が変わっている。

 その色によってあちこちで響めきが起きていた。


「さあ、これを取り手で握りなさい。」


 俺の番が来て目の前に立った神官が玉を目の前に差し出して言った。

 前回、姉の時は長女が緑、次女が赤だった。

 色は魔法特性を示すが遺伝というわけではないらしい。才能だったり、性格的なものらしい。

 玉を手に取るとモニュンとした感触。

 おおー 玉が柔らかいがズッシリ重い。

 超希少素材、軟質グラナティス…

 不思議な鉱物だ。

 さて、俺の色は何色かな?


「そっその色は!!」


 え!突然何よ?


 玉を渡した神官が血相を変えて叫んでいる。

 モニュモニュの感触を堪能していた俺は神官が何故叫んでいるのか分からなかったが手の中にある玉を見て理解した。

 黒色?に変わっていた!


「まさか!黒⁉︎」


 神官が後退りをしながら怯える表情をする。

 黒はその色の通り闇を司る属性で魔族が持つ特性だ。人間が黒色になる事はないらしい。


「待ちなさい」


 穏やかだけど良く通る声がした。

 最初に挨拶をしていた神殿長だ。


「よく見なさい、それは黒ではなく捏紫ねしなのです」


「ねっ!捏紫ねし!!」


 信じられないという顔をして神官が再度色を確かめている。

 たしかにすごい黒いけど濃い紫に見えない事もない。

 でも俺が紫⁈


 しかも最上等級の漆紫しっしよりも適正があると言われる濃い紫。

 ないな… 何かの間違いだ…

 そうあって欲しい…


「あなたがヒロミ様ですね?」


 神殿長が落ち着いた様子で俺の名前を呼んだ。

 神殿長とは会った事がないはすだが?


「なんで俺の名前を?」


「あなたの事は領主様から聞いておりますよ」


 動揺する俺を落ち着かせようと神殿長はにっこり微笑笑んだ。

 領主様… アレックの親父さんが俺の何を神殿長に話していたのだろう?家族が変態ばかりとか?


「さあ、こちらに来て下さい」


 盛大に取り乱している俺を儀式を待つ列から連れ出した。

 会場の中央奥にある他の儀式部屋の扉よりも大きく装飾が立派な扉の前に連れて来られた。

 上には入る時に見た大きな謎生物像がどーんと鎮座している。


「ここでしばらくお待ち下さい。これよりあなたの儀式を始めます」


 扉の前で放置された。

 しばらくすると周りが騒ぎ始めた。


 え? 何?


「おお! あれは捏紫ねし!」


 会場にいた人達が口々に言っている。

 俺の玉は手の中で色は見えないはずなのになんで?


 人々の目線が上を向いてる。

 上を見ると…

 あ… 謎生物が持ってる玉が…


 俺色に染まってる!

 触ってないのに何で⁉︎

 どうやら資質の強い者が下に立つとその者の色に染まる様だ。

 すごい目立ってるー!

 厳かに済ませるはずが…


 ガコーン!


 重い音を派手にたてて目の前の扉が開かれた。


「さあ、中へ入り儀式をお受け下さい。」


 神殿長はそう言って俺を中へ送り出した。

 お父様、どこが大人への通過儀礼だよ〜

 聞いてないよ〜


 一体、どうなってしまうんだろうか…?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る