第3話 超希少鉱物(軟質グラナティス)

 俺と母、姉二人を乗せてた馬車は今街道を爆走中だ。


 お父様が引っぱる馬車で…


 汗一つ出てない。あんた本当はサイボーグかなんかだろ?

 そんな妄想にをしてると大きな神殿が見えて来た。


「着いたぞ〜」


 馬車を広場に停め、扉を開きながら親父が降りるように促す。

 姉貴達の時にも来た事があるが辺境伯領に相応しい立派な神殿だ。

 外観は白い大理石、なんだかわからない装飾でレリーフが施されている。

 中央の大扉の上にはディヤマンテ国のシンボルであるダイヤが置いてある。

 人の頭程の大きさがあり昼の強い光に反射してキラキラしている。


 本物じゃないよな?

 かなりの輝きだけどまさかな…


「お〜 来たか! 変態!」


 親父より遥かに高級そうなスーツを着た男が笑いながら近寄って来た。


「お前の方が真性の変態だろ!」


 親父はその男に近づき男の脇腹をツンツンしながら挨拶をしている。

 この男、歳は親父とほぼ同じで親父の幼馴染だそうだ。

 親父と違って痩せてはいるががっしりした体をしており顔も穏やかだ。

 背も同じ位だ。


 そしてこのファルディアシル領の領主、メフェラル・ファルディアシル辺境伯その人である。


「末っ子の降霊術か〜、早いもんだな〜」


 感慨深く俺の顔を見てそう言った。

 俺の幼馴染アレックの親父さん、どこから見ても常識人!アレック、親父を交換しようぜ!


「お久しぶりです。メフェラル辺境伯」


 領主の様子を見ながら真面目に挨拶してみた。


「これはご立派になられた、ヒロミ殿」


「今日は良い能力が手に入るよう祈ってるぞ!」


 領主が一瞬、ニヤリとした気がする?

 俺の肩が外れるかという勢いでバシバシ叩きながら答える辺境伯。

 叩き終わると俺の母、姉達の所に行ながら同じような挨拶を交わしている。


 アレックは来てないのかな?

 降霊術を受ける者とその家族親族でザワザワしている集まりを抜けて神殿の方に行くと神殿の前にある像をじっくり見ているアレックを見つけた。


「何見てるんだ?」


 後ろから忍び寄る感じで話しかけた。


「! なんだヒロか、相変わらず色々と驚かすやつだな!」


「その像がどうかしたのか?」


 アレックの文句をスルーして話を進める。


「この像はみんな知ってるけどこんな生き物は居ないと思うんだよな〜」


 まじまじと像を眺めている。


「そうなんだ? 俺はなんか見覚えがあるけど… 」


「こんなの居たら皆んな知ってると思うぞ。どこで見たんだよ?」


「う〜ん、見たわけじゃ… ‼︎」


 突然頭の中にある言葉が浮かんだ。


「なんだったか… ち、チンチラ?」


「ちんちら? この生き物の名前か?」


「い、いや… わからん…」


 直感的に言葉が出たが見た事無い筈だこんな生き物。


「おいおい大丈夫か? 降霊術やる前から何か降りて来たか?」


 いつもの事か、という顔をして俺を見てる。


「なんか記憶にある感じなんだがそうでも無いんだよな」


 アレックに言わせると俺はよくこのような誰も知らない事を言ったりするらしい。        

 俺は全く自覚がないんだが、考えるよりも勝手に口から言葉出てるみたいだ。

 思えばこの世界には無い言葉をよく使ってる気がする…

 とりあえず俺の事は置いといて像をよく見てみる。


 この像、ネズミの格好をしているが全体的に丸く耳は大きくて尻尾はネズミとは違いフサフサしている。

 ちょこんと後ろ足で座り立ちをしており起用そうな手で自分顔と同じ位の玉をがっしりと持っている。


 玉の色は半透明な白。


 ネズミ自体も白い大理石の様な物で出来ていた。

 きゅるんとして可愛らしい。

 本物が居たらきっと毛もモフモフなんだろうな。


「こいつのここをこうして…」


 そう言うとアレックはその像の持っている玉をガシっ!と鷲掴みにした。

 それも両手で!

 そして優しくその感触を堪能していた。


「何それ! そこ柔らかいの⁉︎」


「知らなかったのか? こうやって触る事でご利益があるんだぜ!」


 だぜ! って本当に気持ち良さそうにモニュモニュしてる…


「この部分は超希少な鉱石、軟質グラナティスが使われてて柔らかいんだよ。そして触った人の魔力性質で色が変わるんだ。」


 アレックが触っているとみるみる鮮やかな水色に変化している。


 以前、姉貴の降霊術で来た時に人集りができてたのはこれのせいか。

 後ろを見るといつの間にか人が並んでいる。


「ほれ、早くお前も揉めよ。気持ちいいぞ。」


 触ってみたい気持ちはあるがそろそろ儀式が始まりそうだ。


「俺はいいや、沢山並んでるし神殿の中に行こうぜ。」


「そうか? 気持ちいいのに」


「いいよ、ほら、行こうぜ!」


 アレックの魔力で水色に染まった玉を横目に二人で神殿に向かった。

 神殿に向かいながら魔力性質の色について話した。

 アレックの水色は水に関する魔力性質があるという事らしい。

 濃さや色合いによって何系のどこ寄りというのがあるらしい。

 アレックは綺麗な水色で純粋に水属性が強いのだろう。

 賢者は虹色、剣聖は銀色らしい。

 他にも逸人の色は何種類かあり皆、有名人だ。

 降霊術士の色もあって降霊術士は紫系。

 降霊術士で最も適正がある色合いは漆紫で賢者や剣聖、他この国を代表する能力者を生み出したとか。

 漆紫の降霊術士は数えるくらいしか居ないらしい。


 今日の高齢術士は何色なのか、少し興味が出てきた。まあ、どんな色だろうが貰えるのはしょぼい能力だろうが。


 神殿の入り口に着いた。

 扉は開かれており、奥に小さな扉、その上にさっき見たチンチラ像の3倍はある物がさらにでかい玉を掲げてて鎮座している。


 あれも柔らかいのだろうか…


 その周りには宝石のような玉が像を中心に円を描く様に並んでいる。

 一番上の玉が大きく漆紫色をしているのが見えた。

 神殿でも降霊術士は権威があるらしい。

 でも降霊術士って愛想がなくって近寄り難い。

 だが今日は若い娘と言う事だし、ジジババしか見た事無いからその若さに期待しよう!


 神殿に入ると名前を聞かれて俺は奥の扉の方に行くように言われた。

 行こうとする俺を見たアレックが期待に満ちた顔で言った。


「行ってこい!」


「その真魂を持って良き出会いがありますように!」


 そう言って送り出してくれた。


「ああ! 行ってくる!」


 いい奴だなアレック。きっとしょぼいの貰って来ても笑い飛ばしてくれるだろう。


 それにしても俺の家族はどこ行ったんだよ!

 周りを探すが居ないようだ。

 急に不安になって来た。


 嫌な予感しかしない…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る